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1章31話『虫の知らせ』

7月25日(水) 辺りは既に暗い頃 脱出用の潜水艇にて アレクシア


 腐植社フショクシャは、下水通路をたどって、ラルタロス南部の港近くの雑木林へ脱出。


 ここには空間移動通路、俗にいうワープホールがあり、ここからさらに東ラルタロスのとある浜辺へ移動できる。このワープホールは、アレクシアがラルタロス魔法学校前部の学生として、学校に潜入していた時に見つけたものだ。


 一行は、移動した浜辺に隠しておいた、潜水艦にのりこんだ。潜水艦は安全に出発し、今は東ラルタロスの海を潜航だ。


 一安心かしら。


 次に、アレクシアは、ネックレスに下がった球形の言玉ことだまを使者につないだ。言玉ことだまは通信を可能にする魔法道具で、条件が整えば、基本的には秘密の通信ができる。蛍のように、言玉ことだまが光り、使者の応答が聞こえた。


アレクシア「標的、A、B、C、D、E全て確保。例の書物も発見し、確保したわ。」


使者「了解。では、MOLDで。」


アレクシア「了解。使者。気を付けてね。」


使者「・・・・・・ここで言うな。ただ、よくやった。モジホコリ。」


 急いでいるのか、使者の声が止むとすぐに通信は切れた。モジホコリ、これが腐植社フショクシャでのコードネームだった。


 セキュリティが全て腐った書庫の襲撃は思いのほか簡単で、今のところ計画通りにことが運んでいる。先に中間地点に向かって待機。一週間後、使者と地点MOLDモールドで合流し、標的の正誤を入念に検証したのち組織に提出する。ずばり、これが今回の作戦だ。


 組織全体には秘密だが、私たち腐植社フショクシャの計画では、今回の作戦は使者が組織で行う最後の仕事の予定なのだ。


 それは、彼が計画を完遂したのち、組織そのものを離脱するから。その後、彼がどうするつもりかは、まだ教えてもらえなかった。


 襲撃者として顔がばれてしまいラルタロス魔法学校に戻れなくなった今、私自身、今後どうなるのかもわからない。今までのように潜入していれば良いということではなくなった。ただ、組織の慣習として、もはやここでは使い物にならない私は異動させられ、万一裏切れば処分されることだけは知っている。


 例えば、使者が無断で組織を離脱すれば、上の捜査が入りアレクシアら腐植社フショクシャ全員が処分されるのは確かだ。


 でも、彼はそうなる前に私たちを迎えに行くと約束してくれた。


 アレクシアは使者を信じている。彼を腐植社フショクシャおさとして、いや、一人の人として慕っている。いや、アレクシアだけじゃない。腐植社フショクシャの皆がそうだ。


 しかし、彼を信じてはいても、将来の不安はなくならない。


 少し、気分を紛らわそうかしら。


アレクシア「音宗おとむね、追っ手は来ていないの?」


 潜水艦の運転席に座っているのは、夏樹なつき音宗おとむね腐植社フショクシャの一員で、リーダーの使者からの信頼も厚い。作戦での役割は、笛の音で魔獣を操り、アザミが図書館を破壊するのに十分な時間を稼ぐことだった。


音宗おとむね「静かすぎるくらいだ。休むなら今のうちかな・・・・・・。」


 潜水艇は、もうすぐ国境を超える。魔法を使いすぎたアザミは後部座席二つを使って眠っている。音宗おとむねの運転が上手いからなのか、彼女は、全く目を覚ます気配がない。心地よさそうな寝顔を見ていたら、つられて欠伸あくびがでてきた。


 そうだよ。思いつめるのは良くない。運転は音宗おとむねに任せて、私も休もう。ちょっと疲れてきたし・・・・・・。


 アレクシアは、彼女の席を枕にしているアザミを少し持ち上げ、そのまま抱きかかえて目を閉じた。残念ながら、このときアレクシアは、回収した書籍の一冊から一瞬だけ姿を現した、彼女の嫌いな害虫に気づくことはできなかった。


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7月25日(水) 辺りは既に暗い頃 ラルタロスの街のどこかにて 蔭蔓カゲル


 残念ながら、チャーリー司書と重い、重い、重い袋を背負って、附属図書館への帰路を進むことになってしまった。だけども、チャーリー司書の知っている道に運よく出ることができたので、道に迷うことはなかった。


 最も、これもまた、不幸中の幸い程度の慰めなのだが・・・。


 そしてやはり残念ながら、若いことを理由に、帰り道、蔭蔓カゲルが持つ本の量が一・五倍程度に増えた。


 ようやく、附属図書館周辺の広場にたどり着いた時には、通りの時計台で、夜の九時を回っていた。二人は図書館の周りのベンチに倒れこんだ。附属図書館の前には、暗い無彩色の衣服に身を包んだ者たちや、鼠色っぽいローブに全身身を包んだ警備員の人だかりがある。


 もう動けない。


 チャーリー司書と二人で長椅子に倒れこんで、ぼんやり景色を眺めていた。


 やがて、良く知った顔が見えてきた。将器ショウキ、あずさ、神那カンナである。


 こんな時間に、探しに来てくれるなんて、いやあ、ご苦労ご苦労。


 感謝の言葉をいう気に何となくなれず、


蔭蔓カゲル「やあ、三人そろってどうしたんだい。」


 と涼し気に尋ねてみた。


神那カンナ「もう、心配したんだから。」


 そういうと神那カンナはどんどん近づいてきて、傷を負った蔭蔓カゲルの右腕を両腕でぐいと引っ張ってかかえ、蔭蔓カゲルの袖をまくった。それだけではなく、傷を確認すると、腕をやさしく撫でた。


神那カンナ「でも、思ったより軽傷みたいでよかった。」


蔭蔓カゲル「ちょっと、はいっ!まってよ!?」


 突然触れられて恥ずかしさのあまり赤面した。どもって、何も言えなくなってしまった・・・・・・。おかげで、チャーリー司書の笑い声がよく聞こえる。


チャーリー司書「失恋したんじゃなかったのか。」


 やっぱり、助けに行くべきじゃなかったな?このじっさん。


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7月25日(水) 4時半頃 更衣室前にて 将器ショウキ


 将器ショウキは今の今まで、神那カンナと共通の対魔獣訓練の授業を受けていた。これは、様々なタイプの魔獣の倒し方を習い、実際に戦闘するという実際的な授業だ。


 セットが同じこともあり、神那カンナ将器ショウキはよく(というか殆ど毎回)、ペアを組んで戦った。初めは神那カンナのお荷物状態だったが、最近では、こちらも良い動きができるようになり、自信がついてきている。


 本日、斬ったのは黒黄色蛇コクオウショクジャ二色ニシキ色蛇カラースネークだ。


 授業の後、いつもより時間がかかって、神那カンナが、更衣室から出てきた。羽織に身を包んだ彼女は少し強張った表情をしている。


将器ショウキ「どうした。」


神那カンナ「ねぇ。あっちのほう煙が立っているわよね。」


 神那カンナの指さした先、つまり文学部のほうに、確かにわずかに鼠色の煙が確認できた。そして、その辺りの場所にあるのは附属図書館、蔭蔓カゲルがアルバイトをしている場所だ。阿吽の呼吸で二人は走った。


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7月25日(水) 午後9時42分頃 附属図書館前にて あずさ


 あずさは、神那カンナ蔭蔓カゲルの手を撫でる様子を眺めていた。蔭蔓カゲル蔭蔓カゲルで随分赤面しており、少し情けない。


 あの二人、いつの間に、あんな近くなったのかしら。


 ただ、蔭蔓カゲルが赤面するのが妙に面白くて、あずさはそのまま二人を放っておいた。


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(日付けは変わって)7月27日(金) 放課後 魔物部道場内にて 将器ショウキ


 将器ショウキはいつものごとく、魔物部で解放されている道場で、木刀を用いた剣術の自主稽古に励んでいた。あと、30分ほどしたら、あずさとの待ち合わせに向かう。


 今日は、あずさと何話そうか。


その調子で雑念に多少耽っていると、道場の入り口にあずさが現れた。


あずさ「将器ショウキ。大変!」


 あずさは道着を着ていなく、道場に一礼すると、すぐさま将器ショウキの元へかけてきた。


将器ショウキ「どうしたんだよ、そんなに焦って。」


あずさ「先輩に聞いたんだけど・・・。」


 将器ショウキは、あずさから一連の話を聞いた。


 冷静でいるのがやっとだった。


 というのは、あずさに聞いた話が信じられないというか、信じられないほどひどかったからだ。その上、あずさの語り口は、だいぶえげつなかった。


将器ショウキ「その話をどこで?」


あずさ「だから、先輩から。」


 急いで、カズに知らせないといけない。


 カズの命が危ない。

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