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1章19話『黒ローブを探して2:どうやら、知り合いは深淵な魔法使いらしい。』

蔭蔓カゲル「運命の人に出会いに来ました。」


ニワトリ「それは隣の店だ。帰りな。」


 確かに、カエルの面をかぶった男に言われれば、そう言うのも仕方ないかもしれない。


蔭蔓カゲル「魔法の種類の特定をしていただきたいのですが。」


 今度は顔を上げ、背筋を伸ばしていった。


ニワトリ「種類の特定。ほう・・・・・・いいだろう。俺が見よう。」


 ニワトリの嘴に黄色のライトがあたり、嘴は不気味な蛍光を帯びた。


蔭蔓カゲル「お値段をお聞きしていいですか。」


ニワトリ「三十分10000wだ。」


 蔭蔓カゲルは、自分の財布をのぞいた。ニワトリの中身は紳士ではなく、若者に大金を要求する中年男性であることが判明した。


 うーん、りにあったことにでもしますか。


蔭蔓カゲル「実は・・・・・・。」


 財布を再びしまいながら、話を始めた。


ニワトリ「待った、先払いだ。」


 はじめに、一緒に言えよ。


 再び財布を取り出しと、10000w札をキノコの傘のテーブルに軽くたたきつけるように置いた。ところが、傘の部分は若干の弾力があり、妙に手ごたえがなくて不快感に襲われた。


 これで本当の一文無し。


 よくよく考えると、りにあったという言い訳は将器ショウキに通じても、あずさには通用しない可能性が高い。


 しかし、ぐずぐずしている時間はないようで、ニワトリは壁の上方に埋め込まれた黒い直方体の時計を見上げた。制限時間は既に始まっているようだ。


蔭蔓カゲル「半径10~15センチぐらいの黒い球を撃つ魔法ですが、ただ、その球はものに当たりません。通り抜けます。」


 不気味がられると嫌だったので、自分には当たったことも、当たった跡は火傷のようになったことも言わなかった。


ニワトリ「どんな球だ。」


 ニワトリは、長い髪の毛で盛り上がっていると思われるローブをトサカのように前後させた。


 おっと、意外に食いついている・・・・・・?


蔭蔓カゲル「炎の塊のような、光の玉のような。けれど、形は球形で色は黒の球です。体積は顔ぐらいでしょうか。」


 ニワトリは、今度は肘をついて「黒い透ける球・・・。」と言い、考え込み始めた。紫色の光が嘴に当たり、烏のように見えた。


ニワトリ「そいつは、全く何にも当たらなかったのか。」


 ニワトリが確認をとる。


蔭蔓カゲル「木々を通り抜け、地面の中に消えていきました。」


 これも事実だ。


 長身の鶏の面はしばらく、面の嘴の部分を両手で支え、黒いキノコのテーブルに肘をついて黙り込んだ。一方、カメレオンの方は動く気配を見せず、ローブを深くかぶったまま背筋を伸ばして椅子に座っている。


ニワトリ「単なる幻の可能性は。」


蔭蔓カゲル「違うと思います。というか、幻でないものとします。」


ニワトリ「やっぱり、対象によってはぶつかったりするってことなんだな。」


蔭蔓カゲル「・・・・・・そういう解釈で大丈夫です。」


 蔭蔓カゲルは等々、黒い球が物にぶつかることもあることを認めた。だが、執拗に何かに当たったか訊かれたので、なおさら、自分に当たりましたなどと言わないほうがいいに違いない。


ニワトリ「いいだろう。」


 顎を引いて椅子にもたれかかると、ニワトリは思いついたように「どこでその魔法使いを見た?」と続けた。


蔭蔓カゲル「別に、噂を小耳にはさんだだけですよ。」

 

 蔭蔓カゲルの返答を訊くとニワトリは不愉快そうに鼻を鳴らした。


ニワトリ「言えないなら、まあいい。それは普通の魔法じゃないかもしれん。」


 「下手な嘘付きやがって。」くらい言われるかと思いもしたが、ニワトリはあっさりと引き下がった。再び机に寄りかかると、蔭蔓カゲルに顔を近づけて小声でゆっくりと話し始めた。


ニワトリ「俺が知っている範囲だと、そいつは闇魔法といわれる種類の魔法に当たるかもしれない。闇魔法には、そういった魔法があると聞いたことがある。」


 それまで動かなかったカメレオンも、ニワトリに合わせて前かがみになった。蔭蔓カゲルも小さく相槌を打って、聞き耳を立てた。


ニワトリ「こいつは深淵な魔法だ。大戦前はラルタロスには何人か闇魔法の使い手がいたそうだが、いずれも闇魔法について書物に記すことも知識を伝えることもせず、大戦が終わるころには消えたか、死んだらしい。つまり、今は闇魔法を知る者はラルタロスにはいない・・・・・・とされている。」


 けどその闇魔法を、黒ローブは使ったということになる。


蔭蔓カゲル「実際にはいると?」


ニワトリ「そこまでは知らん。」


 つまり、ニワトリを信じるとすれば、闇魔法の魔法使いはいるかもしれないということになる。どうやら、知り合いは深淵な魔法使いである可能性がでてきた。


蔭蔓カゲル「では、闇魔法ってどんな魔法ですか。」


 当然、今度は”闇魔法とは何ぞや”ということに関心が移った。新たな質問を聞くと、ニワトリは面倒くさそうに軽くトサカを前後させながらも口を開いた。


ニワトリ「なんでも闇魔法っていうのは、この世界の物質とは別の類のものに起源があるらしい。多分、それが闇って呼ばれていたから闇魔法てんだろうけどよ・・・・・・。」


蔭蔓カゲル「具体的にはどう違うんですか?」


ニワトリ「普通の魔法ってのはだいたい、特定の自然現象を起こしたり促進したりするものだな?」


 蔭蔓カゲル日陰蔓ヒカゲノカズラを生やしたり、将器ショウキのように水を生成したりするとかそういうことだろうか。


蔭蔓カゲル「はあ・・・・・・そうかもしれません。」


 とりあえず認めるつもりで答えたが、そういえば、魔法学の授業で、何かを出現させたりする最も一般的な魔法を素朴なアポートと呼ぶと習ったばかりだった。                   


ニワトリ「に対して、闇魔法には物理的には起こらないような現象を起こすものがある。例えば、その黒い球だ。何かの物体が物理的実体を持ったり持たなかったりするなんてこと、普通に考えてありえないだろ。他にも、大戦前にいたとされる闇魔法使いの一人は、敵を”消す”ことができたらしい。あるいは、”物陰から別の物陰に移動できるもの”もいたと聞いたことがある。普通の魔法とは似ても似つかないような不気味な魔法。ある意味、魔法らしい魔法といったらいいだろうか。かく言う俺もこの程度しか知らんのだが・・・・・・。」


蔭蔓カゲル「”魔法らしい魔法”ですか。普通ではあり得なさそうなこと以外、共通項が見えませんね。」


 けれど、危ない魔法が含まれているということはわかった。消されるのはごめんだし、影から忍び寄られるのもごめんだ。というかこの場合、“消す”ってどういうことなのだろうか?


 また、珍しさで言っても、蔭蔓カゲルのマニアックなシダ植物魔法、いや、あずさの神経系に干渉する魔法よりもはるかに珍しいといって間違いなさそうだ。


蔭蔓カゲル「興味深いですね。」


 黄色のライトが面を通して目に入り、眩しかったので慌ててローブを深く被った。


ニワトリ「知りたきゃ好きにすればいいが、言ったように人をたどるのは難しいだろうな。」


蔭蔓カゲル「あなたはよくご存じなのでは。」


ニワトリ「何度も言わせるな。俺が知っているのはこの程度の話だ。それでも、ラルタロスじゃ他に俺ほど知っている人間を見つけるのもほぼ無理だろう。普通の奴は聞いたこともないようなことだからな。万一、精通している人間がいたとしても、教えるはずない。」


蔭蔓カゲル「それって、あなたが精通している人間である可能性もあるということですよね。」


ニワトリ「知らないといっているだろう。しつこいなあんたは。摘まみださせるぞ。」


 おお、こわっ。


 今度は黙殺してみることにした。すると、ニワトリは嘴を下げ、ため息をついて   言った。


ニワトリ「文献を探してみることを進めるが、こちらもまず見つからないだろうな。」


 割れた声でニワトリは言い捨てた。ただ、それでも不要なアドバイスとはいいがたいのが残念だ。


カメレオン「実は、ラルタロス魔法学校の附属図書館にあると聞いたことがありますの。闇魔法についての魔導書が。」


 ついに、開始から口を開くことのなったカメレオンの高く、しおれた声が耳に入った。声からしてやはり女性で、中年ぐらいだろうか。これまで一言もしゃべらなかったので、蔭蔓カゲルはカメレオンが隣にいることを半ば忘れていた。


 一瞬カメレオンの目玉の部分の出っ張りが、黄色のライトで光ったが、やはり眩しかったのだろうか、すぐさま、またローブの中に戻ってしまった。


蔭蔓カゲル「そんな、“大そうな本“が、たかが“一魔法学校の図書館に“あるとおっしゃると?」


 怪しい話は信じない主義だが、もし、深淵な魔法の魔導書があるとすれば・・・・・・。


 ただ、話がうますぎる気がする。誘導されているのかもしれない。というか、本はないという話ではなかったのか。


カメレオン「小耳にはさんだ、噂話ですから。」


 カメレオンは顔を寄せて小声でつぶやいた。マネできるのは体色だけじゃないらしい。


蔭蔓カゲル「それでは、仕方ありませんね。」


 恐らく、カメレオンはこれ以上教えてくれないだろう。話題を変えよう。


蔭蔓カゲル「そういえば。結界石を買い上げる動きが出ているようなのですが、何のためだと思いますか。」


ニワトリ「おい、今度は結界石か。」


 ニワトリは、鶏が鳴くときのように体を上下させた。


蔭蔓カゲルは『マイケルおじさんの魔獣専門店』で聞いた話をマイケルの名前は出さずに一通り伝えた。


ニワトリ「結界石それ自体を集めているかもしれんが、それなら、業者と直接契約するほうが安い。」


ニワトリ「魔法学校のクソガキどものいたずらかもしれん。あそこはおかしいのが多いからな。」


 魔物部に関して言えば、同意見だ。


ニワトリ「後、マナーとしては良くないが、魔獣狩りが大規模な狩りに行くときに、大量に購入することはある。」


 店にある結界石を全て買い占める準備の必要な魔獣とはいったい・・・・・・。


 ニワトリはなお顎を撫でながら続けた。


ニワトリ「悪用するなら、街のはずれで急ぎの客に高く売りつける、大きな結界として用いる、魔獣の動きを操作することぐらいは考えられる。」


 研究か箱買いか犯罪かというところに落ち着きそうだ。


ニワトリ「思いつくのはこれくらいだな。」


蔭蔓カゲル「実際どれだと思いますか。」


ニワトリ「さあな。断定するには情報が少なすぎる。他にわかることは。」


蔭蔓カゲル「ないですね。」


 その後も色々尋ねてはみたものの、これ以降、有用に思われる情報は聞き出せず、制限時間の30分も迎えてしまった。


 仕方なく、蔭蔓カゲルが席を立ちドアへ歩き出した時「一つだけ、忠告を差し上げます。」とカメレオンに呼び止められた。


蔭蔓カゲル「はい?」


カメレオン「もし、例の噂の真偽を確かめたくなってしまったのなら、表立ってはやらないことです。」


蔭蔓カゲル「というと。」


カメレオン「一部の人間は闇魔法について非常に神経質でしょうから。」


蔭蔓カゲル「ご忠告、感謝します。」


 ということはやはり、闇魔法というものについて知っている人間はいるわけだ。幸い、自分の性格上、確かめるとしても隠密に行動することには違いないが、細心の注意を払うとしよう。


蔭蔓カゲルは、店の性質上ほとんど何もしていないウエイターに500w程度のチップを渡し『マスクカフェ・ラルタロス』を後にした。店から出る姿を、あまり周囲に姿を見られたくなく、少し急ぎ足になった。


 あの10000wは無駄だっただろうか。いや、多分元は取れた。


 緑のペンキで塗りつぶされた階段は、晴れ雨の空を映し出していた。

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