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1章18話『黒ローブを探して1:結界石は買い占められた。』

初めての魔獣狩りの翌日 朝方 寮の外のシダ樹林にて 蔭蔓カゲル


 あくる日、将器ショウキが怪我のため魔獣狩りは中止になったので、植物魔法研究会の活動に行くといって、寮を出た。


 当然ながら、植物魔法研究会には行かない。


 蔭蔓カゲルは、昨日着たものとは別のローブと面、結界石、ガイドブックなどを持った。いずれも、なけなしの貯金を崩して買ったものだ。


 あずさや神那カンナにはもちろん、将器ショウキにも支度の様子は見られていない。


 問題は、どこでローブに着替えるかだ。黒ローブ探しをする都合上、着替えるところを誰にも見られたくない。


 3人と別れを告げると、蔭蔓カゲルはそそくさとラルタロスの街に向かった。


 この際だから、寮と街の位置関係について軽く触れておこう。東側の街と西側の森のちょうど中間地点に、寮は位置している。


 東の街、ラルタロスへ向かうには、まず、シダ樹林を暫らく進んだ後、200メートルぐらいの橋を渡ることになる。下は大河だが、急な崖になっており、釣り人はいない。そして、橋を抜けると再びシダ樹林に入る。2キロメートルほどある林を抜けると、ラルタロスの街が見えてくる。


 今は一つ目のシダ樹林の細道を街へ進んでいる。この道はラルタロス魔法学校への通学路で、最低限の舗装がなされており、最低限の防御結界が張られている。しかし、通るたびに体長1~3メートル程度の色蛇カラースネークに出くわす。


 今日も当然出くわしたが、小型の色蛇カラースネークは全く稼ぎにならないし、何しろ時間が惜しかったので攻撃されない限りは無視して進んだ。


 どうでもいいけど、どうしてこんなに色蛇カラースネークばかり大量にいるのだろうか。


 そうこうしているうちに、通学路の一番樹木が鬱蒼としている辺りにたどり着いた。


 蔭蔓カゲルは辺りを見回して、誰にも追尾されていないことを入念に確認した。


 その後、持ってきた結界石を1個発効させた。そして、少々危険だが、道をはずれて魔獣の巣くうシダ樹林に入った。


 森の中は色蛇カラースネークが少なからず潜んでいるものの、この辺りではせいぜい体長4メートルが限度のようだ。


 といっても結界石がなかったらかなり危険な森であることは確かで、赤、紫、青、黒など様々な体色の色蛇カラースネークが木々や地面を這っている。


 ただ、結界石を発効させている今、この程度の個体なら、逃げはすれども襲ってはこないだろう。刺激しなければの話だが・・・。


 こないよね?


 慎重に進んでいくと、大きな鱗木レプトフリーアム蘆木カラミテスが円周を描くように立ち並び周囲からは中が見えない場所を見つけた。


 ここがいいか。


 中にはいり、周囲に人はいないことを何度も確認してから、素早く着替えた。


 落としたものはないよな。


 そして、来た道を慎重に戻った。一度、緑の体長4メートルの色蛇カラースネークと目が合ってしまったが、軽く頭を垂れたら襲ってこなかった。刺激しないで済んだらしい。


 その後も、足音を立てないように、蛇にうっかり近づかないようにと気を付けながら戻った。


 道に戻ると、体が震え、橋まで駆け足で走った。魔獣の森を一人で探検したのは初めてだから無理もない。森を再び越えて、ついに、新しい全身ローブに面の姿で、街の門をくぐった。


 さて、黒ローブ探しの時間だ。


 街には全身を隠している人間が一定数いるので、蔭蔓カゲルだけ目立つということはない。ただその姿は、自身が魔法使いであることを証明してもいる。


 手始めに、ラルタロスに来て二日目に将器ショウキ、あずさと供にラルタロスの街に行ったときに訪れた『マイケルおじさんの魔獣専門店』に入った。ちなみに、魔獣専門店と書いてあるが、売っているのは魔獣ではなく魔獣狩り用の道具だ。


 入店すると、いつものごとくレジの椅子でコーヒーを片手にマイケルおじさんが魔獣狩り用の週刊誌『魔物週刊まものしゅうかん』を読んでいる。


マイケル「いらっしゃい?」


 マイケルは蔭蔓カゲルの姿を見て、飲もうとしていたコーヒーを机において立ち上がった。


蔭蔓カゲル「あの・・・少しお尋ねしたいことがあるのですが。」


マイケル「・・・なんじゃね・・・。」


蔭蔓カゲル「最近おかしなことはありませんでしたか。怪しい人物を見かけたとか・・・。」


 蔭蔓カゲルは声を低くして話した。これで少しは大人に変装しているように見えるだろうか。


 いやぁ、こんな訊き方じゃあ、意味ないか。


マイケル「お客さんが怪しいがね。」


 お褒めに預かり光栄ですとでも言ってやりたいところだが、ここでこのスタイルを貫かないと、変装した意味がなくなっちゃうんですよね。


蔭蔓カゲル「いやぁ、生まれつきでして。」


 頭を掻こうとしたがフードに邪魔された。


 確かに、生まれつき怪しいかもしれない。


蔭蔓カゲル「危険な物品を購入した人物でもいいです。全身、真っ黒なウィザードローブを身にまとっていたならなお嬉しいですが・・・。」


 マイケルの両目がカエルの面を透視しているかのように鋭い。


マイケル「ふむ・・・。うちで扱っているものの殆どは、使い方によってはかなり危険なものばかりじゃからのう。それに、黒いウィザードローブをまとった人間など、いくらでもおるじゃろう。」


蔭蔓カゲル「ですよねぇ~。」


蔭蔓カゲル「じゃなくて、そうですよね・・・ですねっ!」


 しゃべり方一つで個人を特定するのには十分だったりする。だから、急いで標準の敬語にした。しかし、マイケルの警戒を解くには今のドジがよい働きをしたらしい。


 彼は再びレジの後ろの椅子に腰かけた。


マイケル「しかし、最近、早朝に入荷したばかりの結界石を倉庫にあるだけ全て買い上げていく客が増えとると、魔法用品屋の知り合いがいっとったのう。ここにも、4月に何回かそういう客が来おった。」


 買い占めとはまた極端な。


蔭蔓カゲル「興味深いですね。詳しくお聞かせくださいますか。」


マイケル「確かに、全身ウィザードローブを着た連中が2,3人だ。あと全員、あんたがしとるような面をしとったよ。まあ、珍しい恰好でもないがのう。」


 マイケルは飲みかけのコーヒーカップを手に持った。


蔭蔓カゲル「同じ客ですか。」


 コーヒーを飲み干すし「よく覚えとらんが、かもしれんな。」というと、その後は何度か確かめるように頷いた。


蔭蔓カゲル「そうですか・・・。」


 小さなことかもしれないけれど、複数の店で結界石の買い占めが頻発しているらしい。結界石一箱は500個以上。魔獣狩りのセットが買いだめするにしても多すぎる。


 単に結界石の需要があがっているのだろうか。それとも、物好きが買い集めているのだろうか。


 マイケルは二杯目のコーヒーを入れると、飲み始めた。


蔭蔓カゲル「他に、気づいたことはありますか。」


マイケル「ふーむ、このくらいかのう。」


 ゆっくりと、2杯目を飲みながら、マイケルは行った。ゆっくり飲みたいから早く帰れと目が言っている。


蔭蔓カゲル「わかりました。わざわざありがとうございます。このハーブ買っていきますね。」


 蔭蔓カゲルはたまたま目に入ったハーブ、とはいえ、単価が他の倍で将器ショウキの傷にも効くハーブを購入した。


 これはどこにでもある品物で、手袋もしているので、購入することで個人を特定されることはないだろう。植物魔法研究会にあったことにすればいい。


マイケル「坊ちゃん。そういった動きについて知りたいのなら、マスクカフェにも行ってみるとよいぞ。」


 あ、バレてる。


蔭蔓カゲル「マスクカフェ?なんですかそれは。」


マイケル「地図にはのっとる。とりあえず、行ってみぃ。」


 あら、そうですか。


蔭蔓カゲル「どうもありがとうございます。」


 蔭蔓カゲルは店を後にした。


 結界石ねぇ。


 仮にローブに仲間がいて、仲間とともにローブが集めているとしたら、なぜわざわざ小売りで買い占めるのかがわからない。たくさん必要なら、卸売りから安く購入すればいいだろ。


 ちょっと行ってみるか。


 蔭蔓カゲルは持参したラルタロスガイドブックを取り出して、近くの卸売市場に行った。


蔭蔓カゲル「結界石を購入しに来ました。」


 尋ねるところまでは良かったのだが「契約した業者でないと取引してない。」と門前払いを受けた。ただ、ここで引く蔭蔓カゲル様ではない。


蔭蔓カゲル「それでは、見学ということで。」


 粘り強く頼み込むと「なら、面を外してもらう。それがここでの決まりだ。」と頑なに断られた。


 なるほど。確かに、契約書を取り交わすのは可能だとしても、面を外す必要があるとなれば話は別だ。商売目的でないなら、契約を取り交わすメリットも少ないのだろう。


 けれども、契約者であるという履歴が残ってしまう。


 とすると、何等かの秘密裏に活動している組織が、匿名で購入できることをいいことに、小売りで結界石を買い占めている可能性は残る。でも、結界石を集めて何に使うというのだろうか。


 とりあえず、ガイドブックを取り出してマスクカフェを探し出すと、“マスク越しに、あなたの運命の人に出会えるかもしれないカフェテリア(二十歳以上)”であることが分かった。なるほど、マスクをしていれば、相手を容姿ではなく精神性で判断するほかない、といいたいらしい。


 出会い系を装った情報交換の場と読み替えていいだろう。

 

 マスクカフェ『マスクカフェ・ラルタロス』は、『マイケルおじさんの魔獣専門店』の3つ先の通りにあった。小さなカフェで、レストランのある建物の地下一階に位置していた。蛍光の緑色に塗装された木製の階段を一段一段下っていき、中に入った。


 床、壁面、天井と黒く、蛍光灯もパープルやイエローと毒々しい。床から生えた1メートル程度の巨大な黒いキノコの笠が水平に薄く円盤形に開いて、テーブルの役割を果たしている。


 各テーブルには3~4人の灰色や黒色の全身ローブと面を身につけた人間が座っており、歓談している。歓談の内容は音楽が五月蠅うるさくて聞こえない。


ウエイター「お客さん、成人かい。」


 店員は蔭蔓カゲルにせまった。


蔭蔓カゲル「21。」


 実際、蔭蔓カゲルは自分の本当の年齢を知らなかったのでこれは嘘じゃなく、予想ということもできるのだ。はっはっはっ。


ウエイター「畏まり。」


 意外にあっさり信じられたのが気味悪いが、何はともあれ、入ることはできた。


 いやまてよ。マスク外さないのだから、年齢制限なんてないも同然ということか。


 奥の黒キノコのテーブルに空席があったので座った。相席することになるのは、背が高く細身で暗い鼠色の全身ローブにニワトリの仮面を付けた男性らしき人物と、それより小柄で、黒いローブにカメレオンの仮面を付けた人物だ。カメレオンのほうは女性だろう。


 しばらく、挨拶などをしていたが、ある時、ニワトリが切り出した。


ニワトリ「で、ご用件は。」


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