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1章16話『魔獣狩り2、魔獣狩り』

蔭蔓カゲル将器ショウキ!」


 すべての作業を投げ出し、体に生えた植物を切り捨て、あずさとともに、将器ショウキに駆け寄った。そして、2人で協力し彼を鱗木レプトフリーアムの壁の中に運んだ。


あずさ「蔭蔓カゲル、はやくそこに!」


蔭蔓カゲル「ああっ!」


 まず、将器ショウキをあずさの指さす場所へ下ろした。そして、3人を覆うように小さな鱗木レプトフリーアムを多数生やし、さらにその隙間と上空を日陰蔓ヒカゲノカズラで覆った。


 魔力を大胆に使うことになったが、これなら色蛇カラースネークは入れないし、無理に入ったとしても気づくことができる。このやり方は事前に計画していた。


 あずさは既に治療に取り掛かっていた。将器ショウキの治療が終わるまで、一匹たりとも通らせてはならない。


あずさ「将器ショウキしっかり。しっかり。」


 息はあるが、将器ショウキの噛まれた腕から流血が続いている。食らいついたままの蛇の頭をあずさが取り除いてからは、さらに血が噴き出してきていた。


 冗談じゃない。


 こうしている間にも、日陰蔓ヒカゲノカズラの防御壁の外に新たな個体が5頭出現した。


 蛇の出現頻度と出現する頭数、どちらも増加しているのは血の匂いのせいだろうか。


蔭蔓カゲル「どうする?」


 壁越しに神那カンナに尋ねた。


神那カンナ「これ以上は危険よ。撤収しましょう。蔭蔓カゲルは結界石の準備をお願い。それまでに、わたしが全部片づけるから。」


蔭蔓カゲル「わかった。」


 5頭を相手させるのは、いくら神那カンナといえども少し心配だ。だが、この状況で撤収の準備ができるのは蔭蔓カゲルだけだった。


 撤収の準備というのは結界石を発効させることだ。結界石を発効させると、魔獣が寄り付かなくなるので、倒した獲物を持ち帰る作業に移ることができる。


 蔭蔓カゲルは素早く結界石が格納されている壺を開封した。中には、月長石ムーンストーンのような握りこぶし程度大きさの結界石が8つ入っている。


 そのうち、4つを取り出した。


 魔法理学のテキストによれば、これらは結界石の原石を空気と接触しないよう透明な樹脂で包んだものだ。結界石の原石は科学的には正体不明の鉱物で空気に接触するとドライアイスのように気化する。そして、この気体を多くの魔獣、特に色蛇カラースネークは嫌うということらしい。


 だから、結界石を発効させるというのは、樹脂の膜を破いて、内部の結界石を外気に触れさせることだ。


 手はず通り、結界石を4つ発効させた。これで、しばらくすれば魔獣は来なくなるだろう。


 外の様子を伺うと、神那カンナは、本当に5頭一手に引き受けていたが、5頭となるとほとんど全方向から攻撃が来るため、なかなか魔法で駆逐できずにいるようだ。


 そうするうちに、5頭のうちの1頭が、彼女を無視してこちらに迫ってきた。しかも、蔭蔓カゲルの嫌いな赤色だ。


 受けるしかないか。


 一応、壁の中にいて比較的余裕があったので、赤蛇の撃退に加えて、神那カンナのサポート、透明になるクリーム色の色蛇カラースネークが壁の中にいないことの確認も同時進行しながら戦った。


 次なる課題は、赤色の色蛇カラースネークはすばしっこく、なかなか日陰蔓ヒカゲノカズラで捕らえられないこと。


 さらに、仮に捕らえられても巨体だから、動きを抑えることは難しいだろう。


 「胞子崩壊ほうしほうかい!!!」


  蔭蔓カゲルは試しに胞子崩壊ほうしほうかいを放った。結果、赤色の口にかなりの日陰蔓ヒカゲノカズラが生えたが、それだけだった。


 うーん、なんでだろう。


 赤色は火を噴くから体の中に入った胞子は熱で死んでしまったのだろうか。


 考察を続けたいが、赤色は身体に見知らぬものが生えたことで過度に刺激されてしまったらしく、火を噴いてきた。


 まずいなあ・・・。


 壁は炎に最初のうちは耐えていたがそのうち、煙を上げて燃え始めた。傑作の防御壁が火だるまに変わっていく。このまま崩れれば、蛇に突破されるが、今は何としても治療のために突破させてはならない。蔭蔓カゲルは再び刀を抜いた。


 大分、消耗してきたな。


蔭蔓カゲル「治療は終わりそう?」


あずさ「応急処置だけならあと少し・・・。あと数分で。」


 あと数分。


蔭蔓カゲル「わかった。」


 あずさが大量に魔力を使って、将器ショウキを治しているのは知っているが、それでも、将器ショウキの様態が気になって2人の方に目を向けた。


 すると、将器ショウキの腕にあてられているあずさの手先から黒い根のようなものが生えており、それらが次第に将器ショウキの皮膚に変化している。


 大丈夫そうだな。


 赤蛇が再び壁に火を噴き、本格的に壁が崩壊し始めた。


 どうすればいい。壁を再生しても、火に油を注ぐことにしかならない・・・。


 仕方なく、蛇が入ってこられない程度に刀をふり、壁の外から植物を生やす。こちらの視界を奪いながら、火で遠距離から攻撃できる分、蛇のほうが有利だ。けれども、蛇が全く見えないというわけではないので、壁の外の日陰蔓ヒカゲノカズラを成長させて、動きを止めることを試みている。


 そうしている間も煙は強くなる一方で、蔭蔓カゲルは魔力の消耗と酸欠で膝をついた。


 いけない。


 今倒れると、二人とも危険だ。


 気持ち悪い。


 しかし、蔭蔓カゲルはどうにかこらえて立ち上がった。


 改めて壁の外を見回すと、いつの間にか壁の周りを3頭の色蛇カラースネークに覆われていた。

 

 ところで、神那カンナの様子はどうだろう。まさか、倒れているのではないか。


 彼女の安否を確かめるためには、燃え盛る壁をこじ開ける必要があった。籠城するにしても既に限界で、このままだと3人そろって火だるまになること間違いなし。


 というわけで、魔力を振り絞って燃えている古い鱗木レプトフリーアムを新しい鱗木レプトフリーアムで根元から外側へ倒し、再びあずさと将器ショウキを包んだ後、蔭蔓カゲル自身は刀一本で立ち向かった。相手の色蛇カラースネークは赤が2頭。黒が1頭。


 黒は見たことないし、優先的に倒すか。


蔭蔓カゲル「よう。くねくねブラザーズ。」


 これを空元気という。


神那カンナ蔭蔓カゲル伏せて。」


 この場合、「え?」とか言っていると、巻き添えを食らうことになると思ったから、素早く伏せると、青い強力な光が黒蛇を正面から貫通した。伏せなければ自分に直撃である。


 こういう、危険な攻撃はやめてほしい。


 しばらくすると、黒蛇は地面に落ちて動かなくなった。(そりゃそうだ。)残るは赤2頭。この2頭の赤は極度の興奮状態にあるらしく、所構わず火を噴き始めた。おかげで草むら一帯が燃え始めた。


将器ショウキ「伏せろ。蔭蔓カゲル。」


 またですか。


 すると、再度燃え始めた鱗木レプトフリーアムの壁の中から大量の水が噴出し、蔭蔓カゲルのいるあたりが消火された。


 ちなみに、蔭蔓カゲルは全身、流水に巻き込まれた。お陰で、びしょ濡れである。こういう時はせめて、“伏せろ”じゃなくて“息を深く吸って止めろ”とか言ってほしい。


 蔭蔓カゲルを目の敵にして向かってきた蛇を、今度は全身から生やした日陰蔓ヒカゲノカズラで捕らえた。ついに頭部の動きを止めることに成功。


 蔭蔓カゲル「おりゃっ!」


 頭部に刀を振り下ろした。そして、胞子崩壊ほうしほうかいを傷口に追撃。すると3秒ぐらいの沈黙の後、突然蛇の頭部から日陰蔓ヒカゲノカズラが大量に生えてきた。


 不安だったので、その後も何度か刀を振りかざすと、蛇は動かなくなった。


 やれやれ。


 ここで、一息ついてしまったのが間違いだった。最後の赤蛇が至近距離まで近づいていたのだ。


 蔭蔓カゲル顔の1.5倍はある大きな蛇の頭部はあと50センチメートルというところだ。防いでも間に合わないことがわかる。しかも、ぱっくり開いた口の奥から炎がのぞいている。


 どうすればいいんだ。


 せめて後一回、冗談か皮肉か、暴言を言う時間があれば・・・。


 そう念じて目を閉じそのまま後ろに倒れた。


 これは、全身火傷で終わったかな・・・。


 ・・・・・・5秒経過・・・・・・


 あれ?、まだ“あれ?”って考えられる。


 蔭蔓カゲルは再び目を開けた。そして、目の前を見て「うわっ!」と叫んだ。そこには、蔭蔓カゲルを凝視している赤蛇の生首があったのだ。


 将器ショウキか。


 将器ショウキが水を巧みに操って蔭蔓カゲルを救ってくれたようだ。


 体に悪いよねぇ。こういうの。


蔭蔓カゲル「焼け死ぬかと思った。」


神那カンナ「行こう。」


 振り向くと、神那カンナは肩に黒蛇を担いでいる。所々に擦り傷があり、やはりある程度は消耗しているように見えたが、戦闘が終わってすぐに蛇を担いでくる余裕があるのは流石だ。


 彼女は今まさに狩りましたという感じで、軽々蛇を担いでいる。彼女の漆黒の黒髪、蛇の黒色、背後の曇り空が混ざり合って神秘的な雰囲気を醸し出しており、凛々しくも優しく微笑む神那カンナはなんというか、魅力的だった。


 彼女を直視しているのが恥ずかしくなって、蔭蔓カゲルは下を向いた。


 おっと不覚。ずいぶん疲れているみたいだ。


 その後は狩場に散在した、蛇の亡骸を一頭一頭、荷台に運んだ。これは結構な重労働だった。


 亡骸には色々あり、一番多いのは斬られたものだが、1頭は腹部に穴が開いていて、2頭は原形がないほど焼け焦げ、中には頭部から日陰蔓ヒカゲノカズラが生えたものもある。


 1時間ほどかけて、すべての個体を荷台に収納した。


 初め、荷車を引くのは自分には無理だろうと思っていたけれど、一見原始的に見えるこの荷車にはいくつか細工が施されているようで、蔭蔓カゲルの力でも引くことができた。


 もう一台の荷車を引く係には将器ショウキがまだ治療が必要だったので、神那カンナが申し出た。しかし、あずさが珍しく「私にひかせて。」と言ってきかなかったので、将器ショウキとあずさが二人で引いている。


あずさ「おとり作戦、危ないね。」


 反省にはいつも、冷静な分析をするあずさにしては、随分と適当な感想だなと蔭蔓カゲルは思った。彼女にとってこれは、ため息のようなものなのだろう。


 ひょっとすると、あずさは、前線には一人出なかったことに少し罪悪感を覚えているのかもしれない。けれど、これは役割上仕方ない。今日ですら、もしあずさが治療不能なほど怪我をしていれば、将器ショウキは危なかった。


神那カンナ「わたしは今日の方法なかなかいいと思うよ。将器ショウキが噛まれたのは大変だったけれど、クリーム色の蛇がでるなんて想定外だったことだし。」


あずさ「確かに、透明になる個体はこの森には分布していないってガイドには書いてあったけど・・・。鵜呑みにし過ぎていたわね・・・。」


 蔭蔓カゲル神那カンナに同意見だった。将器ショウキが怪我を負ってしまったのは、作戦に問題があったというより、魔獣についての調査が足りなかったからだろう。


蔭蔓カゲル「もうすこし、出没する魔獣の種類や脅威について情報収集して臨めば、次は大怪我なしに乗り切れると思うけど。」


あずさ「魔獣の脅威の見積りは、あたしの役目だったのに、ごめんなさい・・・。」


 励ますつもりが、落ち込ませてしまったらしい。いつも自信に満ちているあずさが萎れていると、こちらの調子が狂ってしまう。


将器ショウキ「あずさは、俺のこと直してくれたじゃないか。」


あずさ「でも・・・。」


将器ショウキ「初めから、上手く行かなくたっていいじゃないか。」


あずさ「・・・ありがとうね。」


 というわけで、将器ショウキがすべて持っていきました。

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