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冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた 作者:門司柿家

空回りする娘

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三十一.森の木が不自然にねじくれて迷宮のように入り組んでいた。


 森の木が不自然にねじくれて迷宮のように入り組んでいた。吹く風は生ぬるく、肌に触れて気持ちのいいものではない。
 風の吹き抜けて行く先に、木々で囲まれて小さな広場のような所があった。
 木が枝を伸ばし、広場の上をドーム状に覆っている。葉が茂っているせいもあって空は見えない。木漏れ日すら届いていないようだ。

 広場はゆるやかなすり鉢状になっていて、中心には小さなものがうずくまるようにして座っていた。
 小さな子供のようであった。まだ十歳にもならないくらいの容姿だ。
 黒髪だった。長く垂れたそれが肩から背中を流れ、地面に付いて広がっている。
 少年のようでもあったし、少女のようでもあった。虚ろな目で何処を見るでもなく視線を泳がせ、体のバランスを取るようにゆらゆらと左右に小さく揺れていた。

「……ん……んん……」

 子供はぶつぶつと何かを呟いていた。しかし口から洩れたものはただの音でしかなかった。言葉を忘れたような調子だった。

 やがて子供は恐る恐るといった態で立ち上がると、おぼつかない足取りで広場の中をふらふらと歩き回った。
 風が木々の枝を揺らし、木の葉を散らした。
 子供の肩に落ちて来て、髪の毛に引っかかる。子供はそれを手に取り、口に咥えた。そうしてもぐもぐと食べてしまった。
 それから近くに落ちていた木の枝も拾い上げ、それもかじってぽりぽりと食べてしまう。

「ん……」

 木の枝を食べてしまったからは、顔にかかって来た自分の髪の毛を口に入れた。
 しかしそれはどうやっても噛み千切れないようで、しばらく口をもぐもぐさせていたが、諦めたように吐き出した。

 子供はしばらく広場の中を歩き回っていたが、やがてまた真ん中に戻って来て、ぺたんと座り込んだと思ったら、そのままごろりと横になった。

「んー……」

 子供は親指をしゃぶるように咥え、目を閉じた。風が吹き、枝をざわざわと鳴らした。


  ○


「……では単身で魔王を?」
「さよう。だが、それもいつまで続くか分からぬ。あれらは単なる魔獣とは別種の代物なのだ」

 グラハムはそう言って、またお茶を一口すすった。

 彼の話によると、西の森のエルフ王の娘は、各地の魔王を討伐して回っているらしい。
 魔王などというものがあちこちで息を吹き返している事にも驚いたが、それを単身で叩き潰して回るエルフの姫君にも驚いた。
 ダンカンが感嘆の表情で息をついた。

「凄まじい御仁がいたものだ……! オルフェンでの魔王討伐は元Sランク冒険者と現役の高位ランク冒険者総出で行われたと聞いておりますのに」
「あれらは持つ魔力の質が違うのだよ、ダンカン殿。ゆえに魔力の扱いに精通していなくてはあれらを相手にできない」
「では魔法使いでなくてはならんのですか?」
「少し違う。魔力とはひとつの力の方向性だ。我らエルフの古い言葉では『気』と呼んでいる。魔法使いではない者が武器に魔力を流せる事に疑問を持った事はないかね?」

 確かに、言われてみればそうだ。剣との感応にも魔力の流れを意識する。
 しかし、魔法使いのするように、それを体外に魔法として顕現させる力はベルグリフもダンカンも持たない。せいぜい魔力に反応して起動する術式の刻まれた魔道具を扱う程度だ。

「単純な腕力だけで剣の腕は決まらないだろう。剣聖と称されるほどの使い手になれば、腕の力はほとんど使わずに魔力による武器との感応によって武器を振るえるのだ。エルフは魔力の扱いに関しては人間よりも遥かに精通している。彼女は特に才能に溢れていた。それが仇となって森を飛び出してしまったが……」
「成る程……つまり、それだけ武器に魔力を通わせることができれば、魔王の討伐も難しくはない、と?」
「ものによる。あれらも個体によって強弱があるのだ。強力な個体であれば一人で相手する事は不可能だ。加えてあれらは不死身なのだよ。力を削ぐ事はできても滅する事は適わん」

 ダンカンが難しい顔をして言った。

「某は鈍感者なのですが……グラハム殿がそのエルフの姫君の気配を辿ってこちらに参られたという事は、トルネラにおける魔獣の発生は、よもや……」

 グラハムは目を閉じた。

「確定はできない。だが可能性は高いと思う。ゆえに私もここに来た」
「……参ったな」

 ベルグリフは頭を掻いた。

「いや、確定ではないよベルグリフ殿。魔獣は下位ランクばかりだろう?」
「ええ……しかし可能性は高いと……」
「うむ。魔力の質はそれに近いように思う。完全に同じわけではないが、それが分からない……調査が必要だ」

 ベルグリフは頷いた。遅かれ早かれ、魔獣の発生の原因は突き止めなくてはならないのだ。

 彼らは連れ立って村の外に出た。森を見てみようという事だ。
 村の外に広がる畑では春まき小麦がすっかり葉を伸ばし、さらさらと葉擦れの音をさせながら揺れている。豆の葉も青々と茂り、虫を狙っているのだろう、小さな鳥がその間から顔をのぞかせた。

 森の際を歩きながら、グラハムは耳を澄ますように目を細めていた。

「いかがですか、グラハム殿」
「……確かに妙な魔力を感じる。しかし……」

 グラハムは眉をひそめて首を傾げた。

「妙だ。もしもあれらの魔力が周辺に影響を及ぼしているならば、森自体が大きく変容するのだが」
「ふむ?」

 ベルグリフたちが入って見た限りでは、森自体が大きく変容している感じではなかった。山肌から森とトルネラを睥睨したグラハムも、森の異常を感じる程ではなかった。

 三人は森の中に踏み込んだ。隙間もないほどに茂った葉で陽の光は遮られ、不思議に涼しいような空気が漂っていた。
 遠くで羊の鳴く声が聞こえる。
 振り返って木立の間から草原を見れば、風は平原を撫でるように吹き抜けて、背の低い草が揺れる度に白く光を照り返して波のようにさざめいた。
 グラハムは呟いた。

「影響は森の中で留まっているようだな……外の平原にまで出て来る魔獣は少なかろう」
「ええ……すると、森がダンジョン化している可能性が?」
「さよう。ダンジョンとまでは行かないが、魔力は森の中に留まり、魔獣もそれに引かれている。しかし、もしあれらの影響ならば木々が変にねじれて生命力が歪むものだが……」
「では魔王ではなく、他の高位ランクの魔獣の影響でしょうか?」
「うむ……しかし魔力の質があれらと似通っているのも確かだ。あれらについては分からん事の方が多いのだよ」

 不意に、森の奥から敵意がした。三人は一斉に武器に手をかける。
 木の間を縫うようにして数匹のグレイハウンドが飛び出して来た。
 ダンカンが一撃で頭を割り、ベルグリフはほんの少しの動きで頭を落とした。グラハムは剣を抜いたと思う間もなく二匹を真二つにした。

 ほんの一瞬の出来事だった。武器を納めた三人の周囲にはグレイハウンドの死骸が転がった。
 グラハムが感心したように顎に手をやる。

「御両人、見事な使い手だな。感服した」
「何をおっしゃる。貴殿の前では児戯に過ぎません」
「“パラディン”の剣技、しかと見せていただきましたぞ! 大剣にもかかわらず、実に鋭い剣閃ですな! 貴殿の得物は聖剣と称されると聞き及んでおりますが、グラハム殿、不躾ですが少し見せてはいただけませぬか?」
「ふむ……」

 グラハムは少し迷った様子だったが、すぐに剣を引き抜いた。
 あまり飾り気のない無骨な剣だった。しかし刃は鋭く、傷一つついておらず、唸り声が聞こえるかのような恐るべき剣気を放っており、ベルグリフもダンカンも思わず息を飲んだ。

「この剣は生きているのだよ」

 グラハムはそう言ってブン、と剣を振った。大剣の筈なのに重さを一切感じさせないように軽々としている。
 剣の唸り声が空気を斬り裂き、陽炎のように揺らめいたように思われた。

「東の果てに鋼の樹という不思議な樹木がある。地中の金属を吸い上げ、果実として枝にぶら下げるのだ。その鋼の実は恐ろしく質が高く、加工は難しい。しかしこうして武器にすると振るい手と凄まじい感応を見せる」
「生きた鉱物ですか……驚いた」
「成る程……いやはや、感じ入りました。これはまさしく尋常の剣ではござらぬな」

 ベルグリフとダンカンはまじまじと剣に見入った。刀身は威嚇するようにぎらぎらと光り、グラハム以外の者が触れればそれだけで斬り裂かれそうだった。

 三人は探索を切り上げ、森から出て村に戻った。
 グラハムがいる今、三人で森の奥に向かえば原因は突き止められそうではある。

 しかし、グラハムはエルフの姫君を見つけ出したいという目的がある。
 彼女は魔力を感知する能力に優れているという。必ずこの森の魔力を察知して現れる筈だ、とグラハムはしばしの滞在を申し出た。それまでは自分もトルネラを守るので、このままにしておいて欲しいという事だ。
 彼ほどの実力者がいてくれるのは安心だから、ベルグリフもダンカンも喜んでそれを受け入れた。
 英雄の剣を間近で見られるという少年めいた願望が幾ばくかあった事は否めないが、それは些細な事だった。

「身勝手ですまぬ。しかし待ち伏せまがいの事でもしなくては、あのじゃじゃ馬はすばしっこくてな」
「はっはっは! それだけ時間に猶予があるならば、貴殿から学べる事も多そうです! グラハム殿、是非とも後で手合わせをお願いいたす!」
「それくらいは構わん。こんな老骨から学ぶものがあるならば、だが」
「何をおっしゃる、先ほどの剣撃に衰えなど感じませんでしたぞ! いやはや、しかし“パラディン”と“赤鬼”のお二人と剣が交えられるなど、某は幸せ者だ!」

 笑うダンカンを見て、ベルグリフは苦笑した。

「ダンカン、俺とグラハム殿を同列に並べちゃ困るよ。実際にやり合って分かっているだろう? 俺は言われる程の剣士じゃないんだから」
「そんな事はござらぬぞベル殿。成る程、今はまだ某風情と同等やも知れませぬ。しかし貴殿の剣は未だに発展を続けておられる。某はその途上に厚かましくもお邪魔させていただいたのみ。某、大変な刺激を受けておるのですぞ?」
「むう……」

 そんなに大層なものじゃないんだが、とベルグリフは頬を掻いた。
 そして、ふと思い出してグラハムの方を見た。

「グラハム殿」
「なにかな?」
「つかぬ事を伺いますが……サティという名の女のエルフを御存じないですか?」

 グラハムは考えるように眉をひそめた。

「サティ……いや、すまぬ。私には覚えがない」
「そうですか……いや、すみません。かつてオルフェンで見知った者でしてね。彼女もエルフでありながら冒険者でした。短い間でしたが、パーティを組んだ事もありまして」
「ふむ……彼女はエルフ領にいるのかね?」
「それすらも分からないのですよ。生き別れたような状態になってしまいまして……」

 グラハムは腕を組んで首を傾げた。

「どれくらい昔の事かね?」
「おおよそ二十五、六年前かと」
「……私は三十年前には公国を出てしまった。それ以降の事であると、公国での出来事は私には分からない」

 グラハムは申し訳なさそうに言った。ベルグリフは苦笑した。

「そうでしたか……いや、失礼しました」
「力になれず申し訳ない」
「とんでもない……よし、ダンカン。半端な時間だけど昼餉の支度をしようか」
「心得ましたぞ」
「グラハム殿の口に合えばいいですが……」
「……かたじけない」

 グラハムは考え込むように静かに目を閉じた。


  ○


 木造りの建物には、得体の知れない道具が雑然と積み重なっていた。
 幾つものフラスコと、それらをつなぐ硝子の管、木組みの機械、鉄製の巨大な球体、革張りの表紙の魔導書。整理するのが面倒なのか、家主は場所を覚えているからいいのか、ともかくそんなものが入り混じって、家の中は混沌としていた。

 オルフェンの町から少し離れた所に小さな村がある。
 野菜や家畜を育て、それらをオルフェンで売る事で生計を立てている者ばかりの村だ。

 そんな村に魔法使いが頻繁に出入りするようになったのは、“灰色”のマリアが居を構えた事による。
 呪龍の血によって不治の病を患ってからというもの、マリアは人ごみや喧騒を嫌った。しかし魔法の研究にはオルフェンの豊富な物流は便利だ。だからあまり田舎に引っ込むのも面倒である。

 そういうわけで、マリアはこの小さな村に庵を構え、日夜研究に没頭していた。
 その噂を聞きつけた東西の魔法使いたちが魔導書や魔道具を携えて出入りするようになり、庵の脇には白亜作りの大きな建物が建ち、小さな学府の様相を呈していた。

 アンジェリンたちが尋ねた時、マリアは椅子に腰かけてぼんやりしていた。
 香油のような薬草のような、不思議な匂いが部屋中を埋め尽くしている。

「マリアばあちゃん」

 アンジェリンが呼ぶと、マリアは眉をひそめて顔を向けた。

「ああ、アンジェか……」
「どうしたの? 具合悪いの……?」
「具合はいつも悪いに決まってんだろ。げほっ……」

 ミリアムが顔をしかめてあちこちの窓を開け放った。柔らかな風が吹き込み、埃が舞う。それを見て、ミリアムは呆れたようにマリアの方を向いて言った。

「こんな汚い家に引きこもってるから悪くなるんだよ、馬鹿なババア!」
「うるせえぞ馬鹿弟子が! たまに来たと思えば一言目から悪口か! げほっ!」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのさ! もっと外に出て陽の光浴びないとしなびて干物になっちゃうぞ!」

 そう言いながら、ミリアムは手近な所からてきぱきと片付けを始める。マリアが慌てたように立ち上がった。

「やめろ! 動かすとどこに行ったか分からなくなる!」
「うるさーい! 前に掃除してやったのに、もうこんなに散らかして! 本は本棚! 空の容器は棚! それくらいの事がなんでできないの!」
「ああ! この馬鹿、それに触んじゃねえ! それは後で読もうと思ってたんだよ! 容器もすぐに使うんだ馬鹿! 考えて配置してあるのが分からねえのか! あっが、げほっ! がっほげっほ!」
「あーもー、うるさいババアだなー。すぐに使うものがこんなに埃まみれになってるもんか! アンジェ! アーネ! そのババア邪魔だから外に連れてって!」

 アンジェリンとアネッサは苦笑しながらマリアを連れて外に出た。マリアはむせ込みながら何か喚き立てていたが、ミリアムは完全に無視し、勝手知ったるとばかりに掃除を始める。

 外は良い天気である。風に乗って青草の匂いが漂って来る。隣の大きな建物で何か実験をしているのか、時折妙な薬臭さが混じった。
 燦々と降り注ぐ夏の陽光に目を細め、マリアは呼吸を整えながらぶつぶつと呟いた。

「あのクソ猫め、鬱陶しい奴だ……あたし相手だと妙にしゃんしゃんしやがって……」

 アネッサがくすくす笑った。

「あいつ、別に家じゃそんなに掃除しないですよ? 服とかも脱ぎ散らかすし」
「……ミリィはマリアばあちゃんが大好き。ばあちゃんもミリィが大好き」
「やかましい。げほっ……それで何の用だ? 遊びに来ただけか?」
「ううん。これ」

 アンジェリンは袋から何かを取り出した。半透明の琥珀色の塊で、石のようにごつごつと固い。
 マリアはそれを受け取ってまじまじと見た。

「そうか、お前らが依頼を受けたんだな?」
「うん。オーマの木の樹液。ミリィが見たから純度も抜群だよ……」
「げほっ……まあ、よくやった。ご苦労だったな」

 マリアはベンチに腰を下ろして嘆息した。アネッサが後ろに回って肩を揉んでやる。

 アンジェリンは地べたに座ってマリアを見た。
 夏の盛りなのにマントを幾重にも羽織り、マフラーまで巻いてもこもこと着ぶくれている。
 病気のせいで体温が上がり切らないらしく、アンジェリンやアネッサは額の汗を拭っているのに、マリアは汗一つかいてない。

 顔はまだ二十代というくらいに若々しいのに、背中を丸めてアネッサに肩を揉まれる姿は老人そのものだ。
 若さとは見た目の問題ではないのかな、とアンジェリンは思う。
 けれど、それを差し引いてもマリアは魅力的な女性だとも思う。口は悪いけども。

「マリアばあちゃんは、なんでずっと独身なの?」
「あん? 何だよ突然……げほっ」
「だって美人だし、年取らないし……モテたんじゃないの?」
「当たり前だろ。男なんざとっかえひっかえだ」
「でも結婚はしなかったんだ」
「ふん、あたしにつり合う男がいると思ってんのか?」
「……わたしのお父さん……?」
「あ?」
「アンジェ、お前なあ……」

 アネッサが呆れたように呟いた。マリアは何やら分からず眉をひそめている。
 そこに掃除を一段落させたらしいミリアムが出て来た。

「だめだめ、こんなババアじゃベルさんにはつり合わないよー。この歳まで行き遅れてるってのはそれなりに意味があるもんだよアンジェ。悪い意味が。ふっふふー」
「口の減らねえ馬鹿猫だな。お前こそ浮いた話のひとつくらいねえのか? 若い癖に」
「ぐむ……ない、けど」

 マリアは嘲笑を浮かべて傲然とミリアムを見据えた。

「はっ、無駄にでかい胸ぶら下げて男の一人も捕まんねえのか。人の事とやかく言う前に自分の事をしっかりやれ。だから男も寄り付かねえんだよ、バーカ」
「う、うるさーい!」

 ミリアムは顔を真っ赤にして怒った。アネッサがくすくす笑った。

「年の功には勝てないな、ミリィ」
「ぐぬぬぬ……こうなったらめっちゃいい男捕まえてやるんだから! 見てろよ、おばば!」
「はっ、勝手にしろ。できればの話だがな。げほっ、げほっ……」
「ちっくしょー!」

 ミリアムは悔しそうに地団太を踏んだ。マリアはむせながらも笑っている。
 仲良しだ。マリアがお母さんになったら、もれなくミリアムがセットで付いて来そうだ、とアンジェリンは思った。
 しかし、マリアをお母さんと呼ぶ事には違和感がある。ばあちゃんと呼び慣れているからだろう。

 それに、そもそもベルグリフはどんな女性が好みなんだろうか?
 年下か、年上か。活発なタイプか、物静かなタイプか。
 そういえば、そんな話はした事がない。普通、そんな話は父娘ではしないので当たり前なのだが。

「……お父さんの好きなタイプってどんなだろう」

 アンジェリンはぽそりと呟いた。マリアが怪訝そうに目を細める。

「さっきから、お前は何を言ってるんだ? 親父の嫁でも探してんのか?」
「そう……ばあちゃんも候補の一人。姉さん女房というのも素敵……」
「ぶっ――!? ごっほごほっ! げほっげほっ! ごほがはっ! ごほっ! ごほっ!」

 マリアは盛大にむせ込んだ。アネッサが慌てて背中をさすってやる。ミリアムは口を尖らした。

「だめだってば! このババアじゃ単なる老人介護になっちゃうよ!」
「でもミリィだって、トルネラの空気ならマリアばあちゃんにもいいって……」
「わーわー!」

 ミリアムはわたわたと両手を振ってアンジェリンの言葉を遮った。
 背中をさすってもらって少し落ち着いたらしいマリアが、顔を上げてアンジェリンを睨み付けた。むせ込み過ぎて涙目になっている。

「と、とんでもねえ事言い出しやがる……アンジェ! ふざけんじゃねえぞ!」
「ばあちゃん、いくつになっても女には女の幸せを掴む権利があるんだよ……?」
「気持ち悪ぃ事を言うな! くそ、どこで覚えやがったマセガキが……だったら、あたしをばあちゃんって呼ぶのをやめろ!」
「……それは脈ありと見てよろしい?」
「違えよ!! 面倒臭えな、お前! げほっ! ごほっごほっ!」
「マリアさん、大声出しちゃだめだって……アンジェ、お前もいい加減にしろよ。あんまり人をからかうもんじゃないぞ」
「むう、わたしは本気なのに……」

 マリアもユーリもロゼッタも、どうにも反応が芳しくない。
 嫁探しとは難しいものだなあ、とアンジェリンは思った。
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