GO!爆走耕耘機
外国語表記の看板に、日本離れした外観の建造物。そして、駐車場に停められた派手な改造車。さらに、道行く人のほとんどが外国人。
ここはF市南部にある、南米系外国人が多く暮らす地域。通称、外国人自治区。
まどかと陸斗は岩木のお使いの為、配達用の軽自動車でこの地域を訪れていた。
「F市内にこんな所があったんですね・・・。」
驚いた様子でまどかが言う。
「ああ。俺も初めてきたときは驚いた。・・・まあ、安全かつ手軽に海外旅行気分を味わえるとこだ。」
「それにしても、岩木さんのお使いって一体何なんですか?この風景から全く想像が出来ないんですが・・・。」
「岩木さんの趣味の物の受け取りだ。」
「趣味の物・・・ですか?」
「そう。趣味の物。・・・おっと、ここだ。」
陸斗が左ウィンカーを出し、ハンドルを回す。
配達車は壁にポップなスプレーアートが施された自動車整備工場、Junya Factoryの駐車場に進入した。
「やあ、いらっしゃい。」
つなぎにジャケットを着た坊主頭の中年男性が、満面の笑みで陸斗達を出迎える。
「お久しぶりです。ジュンヤさん。・・・まどか、ここのオーナーのジュンヤさんだ。」
陸斗がまどかに中年男性を紹介する。
「はじめまして。朝木まどかです。」
「ああ、どうも。ここで、整備屋をやっております。ジュンヤです。・・・とりあえず、中に入ろうか。」
ジュンヤはそう言って、工場の外に取り付けられた鉄階段を登り、工場の二階部分に向かう。
「こ、これは・・・ッ!」
工場の二階事務所にて、受け取る物を見たまどかが凍りつく。
机の上に置かれた長方形の箱には、緩衝材に包まれたライフルが入っていた。
「なかなか良いでしょ?」
「おー、良いっすね。俺もちょっと欲しいな・・・。」
「・・・いや、ちょっとこれ、ヤバいやつじゃないですか!?」
「まどか、よく見ろ。これはモデルガンだ。」
「え?あ、なんだ、モデルガンか・・・。」
「そう。良く出来てるでしょ?国内じゃ出回ってないモデルだから、うちの社員が里帰りしたときに買ってきてもらったんだよ。」
ジュンヤが得意気に言う。
「あの岩木さんがこういう趣味を持ってるって、結構意外ですね。」
「まあ、男は皆こういうのが大好きだからな。」
モデルガンを壁に向けて構えながら陸斗が言う。
「ああ、そういえば。今夜、レースがあるけど、来る?」
ジュンヤが両手をポンと叩いて言う。
「また挑戦者が現れたんですか?」
「うん。県外からスープラとFCが来るよ。」
「おお!どこで走るんですか?」
レースと聞いて、まどかが目を輝かせて聞く。
「港でゼロヨンだ。」
陸斗がモデルガンを箱に戻しながら答える。
「ほうほう・・・それで、そのスープラとFCには何で対抗するんですか?」
「工場にそのマシンがあるから見に行こうか。」
ジュンヤがニヤリと笑う。
「これだよ。」
ジュンヤが整備工場の一角にまどかと陸斗を案内する。
「え?これ?」
マシンを見たまどかの目が点になる。そして、その後ろでマシンのことを知っていた陸斗はニヤニヤしている。
そこにあったマシンは、真っ赤な耕耘機だった。
「この動画を見てたら作りたくなってね。」
ジュンヤがスマートフォンで動画を見せる。
動画は東南アジアのドラッグレースの模様で、スタートラインには派手なピックアップトラックと耕耘機が並ぶというシュールな光景を映し出している。
そして、ピックアップトラックと耕耘機の間にある信号が点灯し、レーススタート。耕耘機が加速するピックアップを、どんどん引き離しながらゴール目掛けて疾走する。
「く・・・ッ!あははははは・・・!こ、これはヤバい・・・!面白すぎます!」
まどかが爆笑する。
「でしょ?・・・で、運転はあいつがする。」
ジュンヤがスマートフォンを仕舞いながら、蛍光ピンクの派手なRX-8の前で、外国人の社員とバインダーを見ながら話をしている、迷彩柄のつなぎを着た体格の良い丸顔の若い男を指さす。
「某映画でこんな光景見たことありますよ!」
外国人自治区から数キロ離れた所にある、F漁港の広大なスペースに集結したチューニングカーを見て、大興奮のまどかが言う。
この漁港、昼間は家族連れや釣り人で賑わう、ちょっとしたレジャースポットだが、週末の夜ともなれば、自治区の住人を中心とした走り屋が、ゼロヨンやバーベキューを楽しむレース会場と化すのである。
「一時期はD埠頭に匹敵する規模だったんだけど、取り締まりが厳しくてね・・・。」
折り畳み式のテーブルセットの椅子に座り、外国製の炭酸飲料を飲むジュンヤが言う。
「D埠頭ですか?車映画とかでよく見ますけど、私、行ったことないです。」
「俺は行ったことあるけど、規模はここの二、三倍ってとこだな。」
ジュンヤの隣で同じように、茶色いアルミ缶を傾ける陸斗が言う。
「うーん・・・ちょっとピンと来ないです。」
「まあ、居心地はこっちの方が良い。」
「オニク、タベル?」
バーベキューをしていたジュンヤの部下のマウリが、焼き上がった肉を串に刺してテーブルに持ってくる。
「ちょうだい。」
「いただきます。」
「俺のとこにも。」
「ハイ。ドゾ♪」
鼻歌混じりのマウリが、それぞれの皿に肉を切り分けていく。
「社長。準備出来ました。」
耕耘機のドライバー、代々木熊之助がジュンヤに声を掛ける。
「おう。今行く。」
ジュンヤが席を立ち、熊之助とともに耕耘機が積まれた軽トラックの元に歩いていく。
「はい!本日はF港ミーティングにお越しいただき、誠にありがとうございます!これより、皆さんお待ちかねのゼロヨンレースを始めたいと思います!!」
司会の若い男が、SUVの屋根に取り付けられたキャリアーの上で、テンション高らかに拡声器でギャラリーに呼び掛ける。
「本日はなんと!Junya Factoryに対し、他県より二人の挑戦者が来ております!!」
ギャラリーから歓声が上がる。
「それでは、挑戦者を紹介します!スタートライン向かって左!首都高より参戦!ドラゴンのバイナルが貼られたRX-7 FC3S!シュウゾー!」
シュウゾーと呼ばれた色白で巻き毛の若い男が、火を吹くドラゴンがボディー側面に描かれた、白いFCのボンネットの上に寝そべり、セクシーポーズを取る。
「次に右側!名古屋からの刺客!80スープラの中村!」
眼鏡を掛けた細身の男が、オリーブドラブ色をしたミリタリーテイストのスープラの前で、ギャラリーに手を振り、丁寧にお辞儀をする。
「そして・・・悪ふざけから生まれ、未だ無敗のモンスターマシン!Junya Factory所属、爆速魔改造耕耘機!熊之助!!」
熊の着ぐるみパジャマに、熊耳付きの黒いジェットヘルメットをかぶった熊之助が、耕耘機の後部に鉄パイプで接続された車輪付きの金属板の上で、飛び跳ねながら手を振る。
「果たして、今夜の挑戦者は、無敗の耕耘機を敗ることが出来るのか!?」
司会が、スタートラインに並ぶ三台のマシンとドライバーの紹介を終え、ギャラリーを煽る。
「今までの挑戦者がどうだったか知らないけど、全力で行かせてもらうぜ。」
スープラの運転席から中村が良い笑顔で、熊之助に声を掛ける。
「色んな意味で楽しませてもらうよ。」
そして、FCの運転席でシュウゾーが親指を立てる。
「もう、全力で腹の底から笑っちゃって。」
熊之助も微笑みながら親指を立て、中村とシュウゾーを交互に見る。
「それでは、スタートコールに参ります!!」
三人の会話を遮って司会が叫ぶ。それを合図にシュウゾーと中村が愛車の窓を閉める。そして、熊之助はジェットヘルメットのシールドを下ろし、スタートに備える。
「五!四!三!二!一!」
司会とギャラリーが声を合わせてカウントをする。
「ゴー!!」
三台のマシンがロケットのごとく、凄まじい勢いで一斉に飛び出していく。
歓声と爆笑が入り乱れる中、エンジンに車輪を着けただけと言ってもいいほど、シンプルな構造の耕耘機が、飛び抜けた加速性能を発揮し、どんどん前に出る。
そして、十秒にも満たないレースは、圧倒的大差で耕耘機が勝利し、幕を閉じたのであった。
「こんなに笑ったバトルは初めてです。ありがとうございました。」
レース後、中村とシュウゾーがジュンヤ、熊之助と堅い握手を交わす。
「また、遊びに来なよ。いつでも大歓迎だよ。」
中村の手を握りながらジュンヤが言う。
「・・・さて、俺たちも帰るか。」
お互いの健闘を称え合うジュンヤ達を見ていた陸斗が、まどかに言う。
「はい。」
「それじゃあ、ジュンヤさん。俺たち帰りますんで。」
「おー、お疲れ。臼井君達もまた遊びに来てね。」
「また来ますよ。では・・・。」
そう言って陸斗が踵を返し、歩き出す。
「ゼロヨンもなかなか面白そうですね。私もやってみようかな・・・。」
「シンプルそうに見えるけど、ゼロヨンってかなり奥が深いぞ。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。詳しくは自分で調べてくれ。行くぞ。」
そして、陸斗達はF港を後にした。




