私とバトルしてください!
「ブーストアップとは言わずに、エンジン載せ換えにしたら?ちょうど良いRB26があるよ。」
ある日の昼間。S15のカスタムの相談をする為、ジュンヤファクトリーを訪れたまどかと紅葉に、ジュンヤが提案する。
「いや、さすがにそこまでは・・・んー、でもRBか・・・」
スカイラインGT-Rに搭載されているハイスペックなエンジンに、まどかの心が揺らぐ。
「それ、やるとしたらお金が倍以上掛かるよ?」
紅葉がやんわりとまどかに言う。
「え?じゃあ、いいです。」
「冗談だよ。冗談。」
ジュンヤがケラケラと笑う。
「とりあえず、基本的な所には手が入ってるから、触媒とフロントパイプを変えてセッティングだね。」
紅葉が淡々と当初のカスタムプランを話す。
「ああ、それなら割と安くできるよ。」
「・・・おいくらくらいになります?」
まどかが恐る恐る聞く。
「そうだね・・・こんなもんかな。」
ジュンヤが電卓を叩いて値段を出す。
「え!?こんなに安くなるんですか?・・・それならRBにしようかな・・・」
再びまどかの心が揺らぐ。
「ああ、この値段設定だとプラス百万は行くね。」
「え!?そんなに!?じゃあ、いいです。」
まどかの反応を見て紅葉とジュンヤが笑う。
「・・・それじゃあ、排気系の交換とセッティングでいいね?」
ひとしきり笑ったあと、ジュンヤが最終確認をする。
「はい、お願いします。」
「了解。それじゃあ、それで調整しようか。」
そして、その数日後、まどかのS15はカスタムの為、ジュンヤファクトリーに預けられた。
S15が入庫された翌日。七原自動車にて、修理入庫中だった、陸斗のFDの引渡しが行われていた。
「板金屋が超頑張ってくれたよ。」
駐車場で日光を浴び、黒光りするFDを前に、紅葉が修理の成果を話す。
「ほう。」
リアバンパーに顔を近づけ、修理の出来を確認しながら、陸斗が答える。
「テールランプが両方ともまるまる新品になったよ。」
紅葉が親指を立てる。
「おお、そりゃ頑張りましたね。」
陸斗が振り返り、目を丸くする。
ちなみにテールランプは、今回の事故には全く関係がない。
「まあ、そんな感じで修理しといたけど、また何かあったら教えてねー。」
紅葉はそう言い終わると、事務所に向かって歩き出す。
「ありがとうございました。」
紅葉の背中に礼を言った陸斗は、愛車に乗り込み、七原自動車を後にする。
そして、更に数日後の夜。社峠を赤いS15が走っていた。
「凄い・・・。」
カスタムを終えたS15のステアリングを握るまどかが、愛車の変化に驚きの声を上げる。
「良い音してんじゃん。」
運送会社の正門前で、煎餅屋岩木(自家用)wのメンバー四人とともに、待機をしていた陸斗が、車を降りたまどかに言う。
「ありがとうございます!凄いですよ。前より大分抜けが良くなりました。」
やや興奮気味にまどかが言う。
「乗った感じはどう?」
芳文が聞く。
「立ち上がりとレスポンスが凄く良くなりました。」
「馬力はどのくらい出てんだ?」
S15をまじまじと見回す陸斗が聞く。
「三〇五馬力ですけど・・・数字にしてみると、何か少ないような気がするんですよね・・・」
そう言ってまどかが苦笑いをする。
「いや、そうでもないよ。メニューからすれば、結構出てる方だよ。」
芳文が微笑む。
「まあ、ストリートとミニサーキットを走る分には、丁度良いくらいだな。」
そう言って陸斗は煙草に火をつける。
「それにしても、久々の勢揃いですね。」
正門の脇にある自動販売機で、缶ジュースを買ってきた笹端が、陸斗に声を掛ける。
正門前のスペースと、その前を走る道路の路側帯には、S15とFD、エボ5とエボ7、そして、二台のワンエイティーの計六台が止まっていた。
「そうだな。改めて見ると、壮観だな・・・」
陸斗がしみじみとした口調で言う。
「あ、そうだ。陸斗さん。」
突然、まどかが思い出したように、陸斗に横から声を掛ける。
「ん?」
「私とバトルしてください!」
まどかが目を輝かせて言う。
「・・・今?」
一瞬、困惑した陸斗が聞き返す。
「はい!」
「・・・。」
腕を組んで考え込む陸斗。
「ダメですか?」
その様子を見て不安そうな顔をするまどか。
「・・・わかった。やろう。」
陸斗の答えに、まどかの顔がぱっと明るくなる。
「お願いします!」
「ちょっとわりぃけど、誰かスターターやってくんない?」
陸斗がメンバーに呼び掛ける。
「それじゃあ、私がやるよ。」
アイリが名乗りを上げる。
そして、三人がそれぞれの車に乗り込み、スタート地点のY字路に向かって峠を登る。
「はーい!カウント始めるよー!」
エボ5を路側帯に停めたアイリが、並んでスタートを待つS15とFDの前に立ち、両手を上げて声を張る。
「・・・五!四!三!二!一!ゴー!!」
アイリが両手を振り下ろす。すると、二台が並んだまま猛スピードで、アイリの横を通り抜けて行く。
「さすがにスタートダッシュは勝てないか・・・」
左側からぐんぐん前に出て行くFDを見送りながら、まどかが呟く。
「・・・あれ?」
勢いよく飛び出して行ったFDが、第一コーナー手前でブレーキを掛け過ぎたのか、もたついている。
「あぶねぇ・・・、ブレーキのタイミング間違えた・・・」
FDのステアリングを握る陸斗が、開始早々冷や汗をかいている。
この数ヶ月間。修理続きで、まともに走ることの出来なかった陸斗は、大きなブランクを背負っていた。
「しょうがねぇ。様子見ながら行くか。」
「このバトルどうだろうね?」
ゴール地点の運送会社前で、パチ文がエキゾーストの響く山を見上げながら、隣の笹端に聞く。
「チューニングしたっつっても、さすがに陸斗さんには勝てないでしょ。」
「・・・いや。」
スマートフォンをいじっていた芳文が、笹端の発言を否定する。
「チューニングもそうだけど、朝木ちゃんは相当上手くなってる。それに比べて陸斗はここ最近、修理とかで全然FDに乗れてないから、相当腕がなまってる筈・・・」
「それって・・・」
パチ文と笹端が言葉を失う。
「もしかしたら朝木ちゃんが勝つかもね。」
「やべぇな・・・」
背後に迫るS15のヘッドライトの光をミラー越しに見て、陸斗が呟く。
序盤より大分感覚を取り戻した陸斗だったが、ここに来るまでの間にまどかは、じわじわと確実に差を縮めていた。
「今日の陸斗さん、明らかに乗れてない・・・」
すぐ目の前を走っているFDを見て、まどかが直感する。通常なら序盤で一気に差をつけられ、終盤ではFDは見えなくなっている筈だ。
「それなら・・・今日なら勝てる!」
まどかが、最終コーナーへの進入にもたつくFDのイン側に、S15の鼻をねじ込む。
「もらった!」
コーナリングでFDの横に並び、勝利を確信する。
「・・・わりぃな。」
そう言って陸斗は、コーナー出口でタイミングを見計らい、ホーンボタンの右上に取りつけられた、スクランブルブースト作動の赤いボタンを押した。すると、FDが暴れるように加速を始め、前に出かけていたS15を引き離して、そのままゴールに滑り込む。
「あー・・・もう少しだったのになぁ・・・」
S15から降りたまどかが爽やかに言う。
「速くなったな。まどか。」
陸斗が煙草をふかしながら、まどかに歩み寄る。
「ありがとうございます!・・・でも、次は負けませんから。」
そう言ってまどかがにやりと笑う。
「勝たせねぇよ。」
早くも二人が火花を散らす。
「・・・ていうか、陸斗。スクランブルブーストなんていつ付けたの?」
横で二人の様子を見ていた芳文が、陸斗に聞く。
「ああ、セッティングしたときに、ジュンヤさんがおもしろ半分に付けたんだよ。」
「ああ・・・なるほど。」




