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序 「死に寄せて」
彼女は手を伸ばした。
大切なただ二人のため、
望んだ未来を得るために。
希望ある世界を掴もうとした。
その手を串刺しにされようと、
心臓を貫かれ命を失おうとも。
流した血が杭となり、生死が廻る軸となるならば。
この命、惜しくは……、…………。
いいや、それは嘘だ。
命は惜しい。
けれどもう、時間はないのだ。
──であればせめて、悲しみはあれど、憐れみはなく。温かな気持ちで思い出してもらえるように。
誰も忘れることがないよう、弱々しくとも爪を立て、世界を掴み取ろうと……、
彼女は前を向いて終わりと相対した。
これは、ある女の生と死の物語────。




