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〈5〉

 


 勇者さま一行は、エルフの特使とともにドワーフ領〈大地の金床〉ドルベールに行くそうだ。

 目的は、光神同盟首脳会談で他種族連合軍の結成を決議することと、過去何度も魔王を打ち倒した由緒正しい聖剣を借りに行くことだ。

 先生の車で向かうのかと思っていたが、違うらしい。

 今回はなんと驚きの空路移動。

 ユークレイズ世界には翼人種という天使みたいに背中に羽根の生えた人たちがいて、先日勇平くんたちが行く予定であった北の山脈に住んでいる。

 魔族襲来の非常事態と、病床であったエルフの女王セブンステラ陛下を見舞うために山を下りていた翼人種の次期酋長エタール・タンジェロー氏が勇者一行のために一肌脱いてくれた。

 メールによれば、とても大きなコンドルに乗って行くらしい。三羽がかりになるが、先生の車を吊るして飛べるそうなので、その大きさといえばかくやである。

 一緒に送られてきた写真には、十五メートルはあろうかという大コンドルに乗っかった勇平くんとアルクレアさん、現地の防寒着を着て着膨れした室井ちゃんが映っていた。三人ともご機嫌で、ピースなんかしている。……遊園地のアトラクションじゃないんだからさあ……。

 先生と高い所が苦手な北沢くん、そして車を珍しがったエルフの特使ロンテスさんとエタール氏が車で宙吊りだ。

 それにしても異世界の空を飛べるなんてズルい。私なんて二回しか飛行機に乗ったことがないのに。

 さて、今回旅の仲間になったロンテスさんはいかにもエルフといったイメージがぴったりのイケメンさんだが、御年三百二十歳。見かけが二十代なのは種族的な特徴らしい。魔王が出現するたびに特使として大陸各地に赴く大ベテランだ。長命のエルフ種は生涯の中で何度も魔王が出てくるので、こういったことも普通に起きる。これでも若手だというのだから、エルフ種の寿命の長さ恐るべしである。

 もう一人、翼人種のエタール氏。こちらはロンテスさんとはまた違った趣の美形さんだ。野性味あふれるとか、男らしいとか、ワイルドな感じ。ネイティブ・アメリカンや南米の民族衣装っぽい服装だ。

 大コンドルの背中ではしゃいでいた廻星の巫女アルクレアさんもかなりの美少女さんだし、ユークレイズの人は美形ばかりなのかもしれない。

 この日の私はこれと言った予定もなくゴロゴロと怠惰に読書を楽しんでいた。たまに送られてくる空から撮影したユークレイズの美しい景色が目を楽しませてくれる。アルクレアさんの解説も、旅行ガイド誌を読んでいるようで実におもしろい。

 午前中をダラダラと過ごした私は、そろそろ昼食の準備にかかろうかと思った時だった。

 携帯電話が鳴った。

 知らない番号からの着信に、少々気が引けつつもとりあえず電話に出てみる。

『あ、あの、えと、大林の娘です。昨日お会いした』

 気の弱そうな女の子の声。先生の娘さんがなぜ?

『あの、もしお時間よろしければ、今からお会いできませんか?』



 私は大学近くのカフェを待ち合わせ場所に指定した。大通りから路地一つ入った角にあり、落ち着いた雰囲気の隠れ家的なお店だ。

 この店なら先生のお宅からバス一本で来られるし、私のアパートからもそう遠くない。

 そして、大学生はファミレスだけじゃなくこういうオシャレな店も知ってるんだぞ、という見栄もあった。

 先に入店してカフェオレを飲んでいると、待ち合わせ時間の五分前に先生の娘さんが現れた。

 窓辺のボックス席から軽く手を振ると、ほほ笑みを返してくれたのだが、どこかカタい。慣れない場所で緊張しているのか、話したい内容が重いのか。

 なんとなく両方の気がした。

「あの、すみません……。お時間をいただいて……」

 本当に申し訳無さそうに娘さんは頭を下げる。

 私はとりあえず席を勧めると、メニュー表を手渡した。年上としてこの場の会計は持つつもりだ。

「大林智花です」

 あらためて自己紹介した智花ちゃんは、真っ直ぐに私を見た。メガネの奥の瞳を見て思う。気が弱いと感じた印象を取り消そう。きっとこのコは見かけ以上にタフで芯が強い。

 智花ちゃんが注文したミルクセーキが運ばれてくるまで、私たちは無言だった。彼女がストローに口をつけると、ふわっと少女らしい表情になる。

「おいしい。久しぶりです。このお店、私が小さい頃お父さん――いえ、父がよく連れて来てくれたんです」

 笑顔につられるように私も笑った。半分はほほえましいエピソードに。もう半分は「そっか。来たことあったのか」と残念がっている自分に。

 父の教え子とお茶をしにきたのではないと思い出したのか、すぐに智花ちゃんは真剣な面持ちになる。

「あの……」

 一度セリフを止めたのは、言葉を探したのではなく事前に用意していた言葉を確認したのだろう。

「父は本当に出張なんですか?」

 覚悟はしていた。勇者たちの不在を誰かに疑われるのを。今まで誰にも疑問を持たれなかったのが幸運だったのだ。その一人目が女子高生になるとは私も思っていなかったが。

 しかし、なんと伝えたものか。

 正直に「アナタのお父さんは、今異世界で魔法使いになっています」と言っても私がバカになったと思われるか、不都合な真実を隠すために適当なウソをついたと思われて終わりだろう。

 ここはとりあえず……。

「先生からは出張と聞いてますが」

 この場で明言は避け、お茶を濁そう。そして異世界にメールして先生の指示を仰ぐのだ。具体的にはもっと上手な言い訳を考えてもらおう。

「ちがうと思うんです」

 のらりくらりとかわそうとする私に対し、智花ちゃんは切り込んでくる。まるで言い訳は許さないとでも言うように。

「父が出張先からすぐに別の出張先に向かう、というのは以前にも何度かありました。だけど、その時は必ずわたしたち姉妹に電話をくれたんです。父の性格を考えても、人に伝言を頼むのは不自然です。正直に言ってください山崎さん。父はなにか事件か事故に巻き込まれたんじゃないですか?」

 事件と言えばこれ以上ないくらいのトンデモな事件の渦中に先生はいる。

 智花ちゃんはうつむき、小さな肩が震えた。

 私は先生の家庭のことを思い出した。

 何年か前に奥さんを亡くされ、三人のお子さんは全員女の子で、智花ちゃんは末っ子だったか。上の二人は他大学に進学したと聞いたし、現在大林家は父一人子一人である。その父が急に連絡がつかなくないとなれば、心細く心配にもなるだろう。

 先生は大丈夫だから。

 そう言おうとした言葉は、声にならなかった。

 全てを知っている私も異世界に行ってしまったみんなが心配なのだ。お気楽な道中ばかりとは限らないのに、何をもって私はこの子に大丈夫だと言えるのか。

 私は一つ息をして決意を固めると、テーブルの上にケータイを置いた。




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