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椎岳町龍神録~ミヅエ様と愉快な眷属たち

作者: 烏木真

ミヅエ様の愉快な仲間たち

只人が足を踏み入れぬ、ミヅエ主の本来の住居は、一種の異界である。どこまでも広がる澄み切った湖面から生える寝殿造りの建物は竜宮の名に相応しい厳かさを備えていた。


しかし現在、その神の宮に轟くのは、悲鳴と何かが崩れ落ちる騒々しい音である。


「いやー、派手にやったねえ」

棚が倒れ、御器が散乱し、天井の一部が崩れ落ちた台所。その中心で、この宮の主であるミヅエはからからと笑った。


「「「申し訳ございません」」」


その声に一斉に頭を下げるのは彼に仕える眷属達だ。


「つい頭に血が昇ってしまって……やり過ぎてしまいましたわ」


自慢の刀を片手につぶやくのは眷属の中でも古株のコダチの橋姫である。椎岳の境界を守る優しくも勇敢な女神だ。


「……賊の侵入を許した自分の責任です」


沈痛な面持ちで告げる軍服姿の青年は、この宮の警備隊の副隊長。ナナツカ。全長30センチ近い巨大蜘蛛にミヅエ主が息吹を吹きこんで力を与えたこの物の怪は、妖になる以前から天性の狩人であり、宮の中を警護する頼もしい護衛である。


「いえ、悪いのは私です。二人は、私を守ろうとしてくれただけなのです。どうか、罰は私一人に」

目にも鮮やかな赤と黒の着物をパリッと着こなした彼はカシワデ。漆塗りの椀の付喪神だ。戦闘能力は持たないが、この宮の切り盛りを一手に引き受けるミヅエの優秀な補佐官である。その彼が震えを堪え、瞳を潤ませながらも、気丈に進言する。


「はいはい。気にしなーい! やっちゃったことはもう仕方ないから切り替え切り替え! 」


眷属の醸し出す重い空気を跳ね飛ばすかのようにミヅエは明るい声を出した。ついでに、怖かったねとカシワデの頭をワシャワシャとかき混ぜる。


「俺が直してもいいっちゃいいけど。せっかくだから業者も入れて術も掛け直して、お前たちが多少暴れても大丈夫なように改築しようか」


ぱんぱんと軽く手を打ち鳴らしながら、宮の主は軽やかに笑う。

そして、彼の忠実な眷属たちを見渡して厳かに宣言した。


「次はちゃーんとゴキブリが出ても対応可能な建物にしよう!」


「ミヅエ様……! なんてお優しい……!」

「まあ太っ腹ですのね」

「末長くお仕えいたします」

「いや、おかしいだろうこの状況!」


沸き立つ眷属たちに紛れて、ぽかんと口を開けて見ていた稲城少年が耐えきれずに叫んだ。


「誰か1人くらい突っ込め!」

屋根に空いた穴から稲城少年の声が虚しく響き、どこからともなく現れた茶色い虫が遠い空へと飛んでいった。

ゴキブリの名前の由来は

「御器(食器)をかぶる(かじる)」ことから「御器被り(ごきかぶり)・御器噛り(ごきかじり)」

カシワデ君的には結構怖かったらしい。

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