闇の巫女と魔族の騎士
また来たの。鬱陶しい。
今日は……君の願いをなんでも一つ叶えてあげる。代わりに
じゃあ言うわ。帰って。
…分かった、帰る。代わりに、明日は俺と一緒にいてね?
チッ……一瞬でよければ。
何時間でもこうやって喋りに来るから?
話聞きなさいよ。貴方耳付いてるでしょうね?
あ、やっとこっち見た。嬉しいなあ。
何が嬉しいなあ、よ。頭を動かす労力が無駄になったわ
じゃあ戻す労力が無駄だと思うくらい、退屈しない事をしてあげる。
闇の巫女は、部屋に閉じこもり本を読み。
騎士のアシュリーは窓から話しかける。
初めは慌てていた侍女達も、今では日常のよくある風景として捉えていた。
(まったく、危機管理としてどうなのかしらね。私、こいつの名前も知らないわ。)
少女はふてぶてしく肘をつき、もう何週間か前から数日に一度、窓から話しかけてくる青年を睨む。
………まあ、退屈しないのは確かだわ。頭の回転も速いし。ただし。…………趣味の邪魔。
一回怒鳴り付けてやろうかし…
「じゃあ、今日はお願い通り、帰るよ。また明日。」
フワリと笑みを溢すと、青年は窓からひらりと消えた。
………いつもこう。怒ろうとすると、直前で逃げられる。………またやられたわ。
ご機嫌斜めの少女がさらに不機嫌になろうとかまわず、侍女は「少しは散歩でもして、身体を動かし下さい。」と言い放ち強制的に部屋から追い出した。
「どこに行けっていうのよ。」
さっきの騎士に文句を言いに、鍛錬場へ行こうかしら。
……いや、前に行ったら、あの故障中の思考回路が、俺に会いに来てくれたんだね、嬉しいよ。なんていう戯言を言っていた気がするわ。
じゃあお庭かしら?…これもダメね。あのクッソイラつく教祖が、『巫女たるもの、安易に人の目に触れてはいけないのである。』なんてほざいていたわ。
結局、また神殿…ね。
神殿への内廊下を歩きながら、少女はここへ来る前のことを思い出す。
『闇の巫女は、魔族への捧げ物。人ではなく、魔族となる。』
『聖人に使える光の巫女のそばに置くなど、汚らわしい。』
『来ないでよ、魔族の黒が移るわ……
……』
『……………へえ、綺麗な黒髪だな。新しい巫女?やった、お近づきになっちゃった。』
ああ、そうだった。ここに来て、初めて本当の優しい笑顔を向けてくれたのは、あの騎士だった。