円卓の方針
こんにちは!!
ぽつりぽつりと投稿していく所存です。
長い目で見ていただけると幸いです。
広間を出て、至急前線に戻らねばならぬ三名と別れた一行は長い廻廊を歩いていく。
ヴィルフリートは廻廊の窓から臨む景観の中に見慣れたものがあり、歩みを止める。
「ここは、・・・ゼノンなのか?」
ヴィルフリートの視線の先にあったもの、それは城壁に刻まれた一つの紋章であった。
古よりゼノンの地を守護するといわれる聖獣、翼の朽ちしドラゴンがその紋章には描かれていたのだ。
「その通りです。この地はかつてベルトラム家が守護した地、ゼノン。現在はアンシェリア王直轄領として歴代の王が守護をしております。」
エルフリーデがヴィルフリートの問いに答える。
「また、私たちのいるこの城は二百年前まで廃城として放置されていたものを改修、補強した上で王城として据えたものです。」
「・・・まさか、南方に位置していたマルフィク城なのか?」
「はい。凡そ七百年前に建城され、四百年程前に打ち捨てられたとされるマルフィク城です。」
「あの廃城が今では王城か、この分だとゼノン領もかなり変わっていそうだな。」
「そうですね。これからその事についてもご説明いたします。」
「わかった。」
至るところに意匠の凝らされた長い廻廊の中でも、一際目立つ装飾のされた大きな扉を前に一行は止まり、先頭を歩いていたファイーナが振り返る。
「ヴィルフリート様、此方ですわ。」
そう言いながらファイーナが扉に手をかける。
大扉は重厚な音を立てながら開かれ、ファイーナが中へと入っていく。
ヴィルフリートもエルフリーデらに促されて中に入る。
部屋に入ると其処には、部屋の大部分を占める大きく平らな円卓とそれを囲うように置かれた椅子が並んでいた。
「・・・この部屋は?」
ヴィルフリートの呟きに、開いたままであった大扉の方向から返事が返ってきた。
「ヴィルフリート殿、此処は円卓の間と呼ばれる部屋だ。」
声の聴こえた方に振り返るとそこには先程別れたハンネスが立っていた。
「円卓の間、か。・・・・・・それにしても随分と来るのが早いな。」
「私はカミラに指示だけして直ぐに此方に向かったからな。」
ハンネスの言葉に、ヴィルフリートは頭の中でカミラが喚きながら片づけをしている様子が浮かび上がったがあえて何も言わず話を続ける。
「それで、此処で話をするのか?」
「ああ、そうだ。・・・とりあえず貴殿は其処に座ってくれ。」
そういってハンネスが一つの椅子を指差す。
言われた椅子に座るのを確認した後、他の者たちもそれぞれの席へとつく。
居合わせた全員が席に座ったことを確認したところで、白い髭を蓄えた老齢の男が声をだす。
「では、話をさせて頂くといこうかの。」
老人は座ったままヴィルフリートに礼をすると、にこにこと笑う。
「まずは名乗らせてもらおうかの。わしはマティアス・ブロムベルク。イシドルの地を預かって居るものじゃ。現領主の中で一番歳を食っておるのでな、相談役の真似事をしておる。」
マティアスの顔を見て、ヴィルフリートは思わず苦笑いを浮かべる。
「・・・マティアス殿、顔に比べて随分と眼が怖いのだが。」
「ほっほ、これは失礼。歳甲斐も無く興奮してのう、・・・まずはこの国の現状を話すとするかの。」
一度咳払いをすると先程のどこか弛緩した空気を張り詰めたものへと一変させる。
「ヴィルフリート殿が知っているところから説明させて頂くと、ユストゥスとの戦い―――後に落日戦争と呼ばれたこの戦いに勝利を収めることとなったアンシェリア連合でしたが戦後は十三統治区の殆どが疲弊しきった上、ゼノン領主ベルトラム家に至っては血族が途絶えるほどの被害を被っておりまして。近隣諸国に相対するために一人の王のもとで纏まる方針となったのですな。」
「ユストゥスに勝利したか・・・それならば良かった。しかし、アンシェリアに王制を敷いたというのならば一体どの家が王族となったのだ?力を持っていたのはブロムベルクかロイエンタールの辺りだと思うのだが。」
「確かに王の座についたのは当時のロイエンタール当主でありましたが、王族となったわけではありませぬ。」
「・・・?それはどういうことだ?」
「アンシェリアの敷いた王制は少し変わっていまして、代替わりの度に各当主の中から王を選出するという方法を取っておるのです。故にこの国において王族といえるのは王となった人物のみなのです。」
「それで国として成り立つのか?」
「ヴィルフリート殿のご懸念の通り、時代によっては力を持ちすぎる家、贔屓される家などもありましたが、現在は先王陛下がそういったことを望まなかったことやそういった諍いをする余裕も無いため、あくまで表面上ではありますが団結している状態なのですな。」
「あくまで表面上、か。」
ヴィルフリートの指摘に、マティアスは頷きながら重いため息をつく。
「そうですな。現当主間に於いてはそれほど大きな対立は無いと認識しておりますが、家同士となるとそう単純には行かぬものですな。」
「当然だな。幾ら国として纏まっているからといって、己が家の利を度外視するとはとても思えない。むしろそれ位でなくては領民を守ることなど到底できないからな。」
「まこと、そうでございます。また、先王陛下がお隠れになった後、どの家も他の家を纏められるほどの突出した当主を据えられておらぬため王座が空位のままとなっておりますわい。」
「それも現在の王制の弊害だな。」
「はい。そのこともあり、我等は此度の騎士召喚に踏み切ったのですな。」
「なるほど、その結果現れたのがこの私というわけか。」
ヴィルフリートの言葉にマティアスは申し訳なさそうな表情を顔に浮かべる。
「いや、そこまで気にしなくていい。私がそのことに対して思うところがないというと嘘になるが、今はこれからのことを考えるべきだろう。騎士召喚をしようとしていたのならば、再び儀式を行うのか?」
その問いにファイーナが答える。
「いえ、それは不可能なのです。騎士召喚を行う儀式には土地の龍脈に宿る特殊な光力と呼ばれるものが必要とされるのですが、この規模の儀式となると再び執り行うには五十年ほどの歳月を待たなくてはなりません。」
「それは何ともしがたいことだな。では、現状の打開策や私の処遇についてこれからどうするつもりなのだ?」
「それは・・・・・・。」
言いよどんだファイーナや沈黙を続ける他のものがいる中、廻廊の方からドタバタと物音が段々と大きくなりながら聞こえてきたかと思ったら、閉じられていた扉が飛んでいきそうなくらい勢いよく開かれた。
「ヴィルフリート様~!!」
空気を震わせながら入ってきたのは、片づけを押し付けられていたカミラであった。
扉に一番近い席に居たためにカミラの大きな声を一身に浴びた女性が、耳を両手で押さえながら立ち上がる。
「ちょっと!!いきなり叫びながら入ってくるなんて、どういう神経していますの!!」
「邪魔しないでマルグリット!!私はあんたの相手している暇はないのよ!!」
「じゃ、邪魔ですって!?あなたの起こす被害をいつも受けている私に対してよくもそんなことが言えますわね!!」
「被害って何よ!!むしろあんたがいつも私に突っかかってきて迷惑しているのよ!!」
「な、なんですって~!!い、言うに事欠いてこの私の事を・・・・・・。」
カミラと睨み合う、桃色の腰まで真っ直ぐに下ろした艶のある髪の女性が言い争いの途中でふと言葉を止めてヴィルフリートを見た。
そして自身を見つめる眼に気付くと同時に、羞恥から一瞬で顔を紅く染め上げる。
わたわたと手を振ったあと、ごほんと咳払いをしたかと思うとなるべく平静を装う。
「・・・マルグリット・ブランケンハイムですわ。そ、その・・・見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんわ。で、ですが勘違いなさらないで下さいまし。普段は先程のようなことはしませんので。」
そういって今度はたおやかに一礼するマルグリットを見て、カミラは顔を顰める。
「うわ、すごい猫かぶり。」
「・・・っ!!・・・・・・。」
「ヴィルフリート様、マルグリットの言ったことは嘘だからね~。」
ぶちっ!!
我慢して黙っていたマルグリットからそんな音がする。
「・・・見逃してやっていれば調子に乗って!!」
「なによ、本当のことじゃない。」
「・・・いいでしょう、今日と云う今日は引導を渡して差し上げますわ!!」
一触即発の状態に発展してきたのを見かねたのか、ヴィルフリートの右隣の座っていた黄金色の髪をサイドアップした女性が言葉を二人に投げかける。
「・・・はぁ、いい加減にしないか二人とも。ベルトラム卿の御前でみっともない姿を晒すな。」
女性の言葉に、先程まで騒がしく罵り合っていたカミラとマルグリットはばつが悪そうになった。
「し、仕方ありませんわね。エミーリアに免じて今回は見逃して差し上げますわ。」
「な、なんですって!!見逃してあげるのはわ「二人とも」」
「「・・・はい。」」
第二ラウンドを始めそうであった二人であったが、先程よりも威圧感の増した女性の声に身体を震わせながらおとなしくなる。
それに満足したのか、女性はヴィルフリートに視線を移す。
「申し訳ありません、ベルトラム卿。二人は元気が有り余っておりまして、あとで私自ら躾しておきますので今回は眼を瞑って頂きたい。」
女性の躾といった部分で震えている二人の顔が絶望に染まる。
そんな二人を無視して話を続ける。
「私はエミーリア。エミーリア・ロイエンタールと申します。ミカエルの守護に就くと同時に王国騎士隊隊長につかせて頂いております。」
エミーリアは一度言葉を止め、目礼をすると話を続ける。
「先程の質問ですが、私達の総意としてはぜひともベルトラム卿には轡を並べてこの国を守護して頂きたいと考えています。ただ、そういいましても一方的にこの時代へ呼び寄せてしまったのも事実、ベルトラム卿がそれを望まぬということであれば強制することではありませんのでご安心ください。その際には我がロイエンタールの名にかけて、不自由ない生活の保障をお約束いたします。」
エミーリアの飾らぬ申し出に、ヴィルフリートは好感を持ちながら自身の意思を告げる。
「私としては共に戦う事を臨む。なに、二百年が経ち国のあり方が変わったからといって祖国であることに変わりはない。己が祖国に牙を向けられて穴熊を決め込むほど、私の心は腐ってなどいない。」
ヴィルフリートの言葉を聴き、先程まで縮こまっていたカミラが飛び上がらんばかりの喜びを顔に浮かべる。
「やった~♪ヴィルフリート様と一緒に戦える~♪」
「・・・まぁ、浮かれているカミラは相手にしなくても良いので、とりあえず残りの者の紹介をさせていただきますわ。」
カミラに対し呆れた顔を向けながらエルフリーデが提案する。
その言葉に応じて、エルフリーデの右隣に座していた少女が立ち上がる。
「名前はブリギッテ、ヨセフのデュムラー家当主。」
そう簡潔に述べた白磁の肌とそれに負けない白い髪を持つ少女は、言うべき事は終わったと言わんばかりに直ぐに席に座りなおす。
そんな少女―――ブリギッテの様子に、エルフリーデが苦笑しながら話しかける。
「まったく、大方そのようなことになると思っていましたが他に何か言う事は無いのかしら?」
エルフリーデの指摘に対し、心底不思議そうに首をこてんと傾げるその様はとても愛らしかった。
「他に言う事?・・・今は自己紹介の時間。名前を言うだけでいいはず。」
「あらあら。」
エルフリーデは困りながらも手のかかる娘を見るような眼でブリギッテを見つめる。
エルフリーデが申し訳ないと小声で伝えると、ヴィルフリートも気にしていないと眼で返事をする。
「では、次ですわね。」
そういって、エルフリーデが視線を向けた先には濡羽色の内側に巻かれた髪の毛先を弄っている少女がいた。
少女はエルフリーデの視線に気付いていないようで、一向に反応を示さない。
そんな様子を見ていられなくなったのか、少女の隣に座っていたマティアスが肩を叩く。
「ほれ、おぬしの番なのだから早くせんか。」
「・・・うぇっ!?び、びっくりした~。脅かさないでよ、じっちゃん。」
「おぬしが話を聴いておらぬからであろうが。」
「う~、わかったよ。」
そういって少女立ち上がる。
「えっと、レオナだよ。家名はバイルシュミットね。あと~、趣味はお買い物と料理で特技は掃除?かな。武器は基本的には槍だよ。」
そういって持っていた槍を見せてくる。
「その槍は・・・雷槍アルレシャか?」
「そだよ~良く知っているね。結構じゃじゃ馬で使える人少ないんだよ~。」
「ははっ、だろうな。私の友もその槍を制御するのには苦労させられていた。」
「ほへ~。私はまだ制御仕切れていないから普通の槍として使ってばかりだよ~。」
「まぁ、覇刃はみな、一癖も二癖もある武器だからな。鍛錬して認められる他ないな。」
「うん、そうだよね~。この子のためにも早く使いこなせるようにならなくちゃ。・・・そういえばヴィルフリート様の剣も覇刃なの?」
レオナはヴィルフリートの腰の剣を指差しながら問う。
「あぁ、確かにこれは覇刃だよ。」
「あは、やっぱりそうだよね。ねね、今度あたしのアルレシャと勝負しようよ?」
「いいだろう、楽しみにしている。」
「やった!!じゃあこれからよろしく♪」
二人のやり取りを見てカミラが何か言おうとしていたが、エミーリアの一睨みで開きかけた口を閉じる。
カミラが大人しくなったのを確認してエルフリーデが全員に向けて声をかける。
「では、この場にいる者の紹介は終わりですわね。残りの者とは近いうち改めて顔を合わせるかと思いますのでその時に紹介いたしますわ。時間も遅くなってきましたので本日はこの辺りで終えて、また明日話の続きをさせていただきます。エミーリア、私は所要がありますのでヴィルフリート様をご案内して。」
「了解した。」
各々が出て行き、円卓の間にはヴィルフリートとエミーリアのみとなった。
「ではベルトラム卿、お部屋までご案内いたします。」
「あぁ、ありがとう。」
二人は廻廊に出る。
迷路のように入り組む城内を歩いていくと、やがて一つの扉の前まで来て止まった。
「ここか?」
「はい、この部屋は貴賓室です。ベルトラム卿に休んで頂くにはいささか見合っておりませんがご容赦頂きたい。」
「いや、そんなに気を使ってもらわなくても構わない。むしろ待遇が良すぎるぐらいだ。」
「それはしかたありませんよ。」
ふふっ、とエミーリアは微笑を浮かべながら言う。
「あなたは我々にとって、盟約の騎士に劣らぬ英雄なのですから。」
「・・・なんとも反応しづらいな。」
「そのうち慣れるかと思います。では、今日はお疲れでしょうから失礼させて頂きます。ゆっくりとお休みください。」
「ありがとう。・・・エミーリアもしっかりと休んだほうが良い。見たところ、あまり寝ていないのだろう?」
「っ!!・・・お気づきでしたか。」
「なんとなくそんな気がしたのだ。」
「そうでしたか。成るべく直ぐ休むようにいたします。・・・では明日の朝、此方に使いを寄越しますのでその者についてきてください。」
エミーリアは一礼すると、来た道を折り返していった。
その後姿を暫く眺めた後、ヴィルフリートは扉を開け部屋に入る。
いろいろなことが起きた一日を思い返しながらヴィルフリートは眠りについた。
読んで頂いてありがとうございます!!
物語の中では一日しか経ってないんだよなぁ(遠い目
翼の朽ちしドラゴン・・・・・・竜?いいえ蛇です。
今後ともヨロシク!!
設定メモ
アンシェリア13統治区
アンシェリアが連合の頃より続く12家の領地と王国直轄地の総称。アンシェリア中央にして海にも面していることから古くより商業の発展したゼノン、東方の文化が流入して多文化交流の地として発展したヨアン、小競り合いの絶えない地域で現在ランドルフ帝国と一部とはいえ接している屈強な騎士団を要するミカエル、精強な水軍と水産業の盛んなピロス、農業に特化したシオ、山岳地帯で狩猟を生業とするものの多いイシドル、異国から流れ着いたものが村落を多く作っているイセ、優秀な魔法使いを多く輩出してきた魔道学の総本山ダヴィド、気性の荒い火龍が多く生息する火山があるアビボス、豊かな自然と深い森に覆われたヨセフ、領地の五分の一が湖になっているステパン、王国中の技工士が集うアントン、水晶の湖があり妖精が多く生息するタデウスの計13の領地である。
覇刃
アンシェリア連合の領主達の家に代々伝わる神器。未知の物質で造られたそれらの中には意思を宿すものもあるという。担い手を神器自身が選ぶという性質から、資格の無いものが手にしても力を発揮する事はない。
アルレシャ
通称雷槍アルレシャ、その名の通り雷を纏う意思を持つ短槍。バイルシュミットに代々伝わる覇刃でありながらその荒い気性の為、使いこなせる担い手が極端に少ない。