円卓の方針
ちょっと日が空いての投稿。
基本的に自分は一話を纏めて書くという形を取っているので毎日投稿なんて事は時間的にも話的にも困難です。
しかも構想が何も無く、必要に応じて設定を考えているのでなかなか進まない・・・。
王城へと続く道をヴィルフリートと8人の巫女達は歩いていた。
「申し訳ありませんヴィルフリート様、本当は巫女の全員で現状の話し合いをと思っているのですが、如何せん今の戦況で巫女が前線を永らく留守にするわけにもいかないのです。」
「いや、気にする事はない。ファイーナの言っている事は当然であり私に気兼ねする必要などないのだから。」
「ありがとうございます。」
そういった会話をしながら道すがら見える町並みや景色にどこか懐かしさを覚えるヴィルフリートはやがて見えてきた王城の姿を見る事で予想していた事に確信を持った。
「やはり、ここはゼノンなのだな。」
その言葉に先導していたエルフリーデが説明をする。
「はい、ヴィルフリート様が行方知れずとなった後、ベルトラム領は王の直轄領として機能することになったのです。王城も当時のベルトラムの堅牢な城をそのまま使用して補強などを行ったため、外観にそれほどの変化はありません。」
「私の城が今では王城か、アンシェリアが王制となったのも驚きだがこの城に関しても驚きだな。」
それからも細かな説明を受けながら一行は王城に入り、やがて大きな扉の前にたどり着いたところで先を歩いていたエルフリーデが振り返った。
「この扉の奥に現在領主会議に使用されている円卓の間があります。」
そういいながら扉を開け中に入っていく。
巫女達に促されてヴィルフリートも中に入るとそこには大きな円卓と等間隔に円卓を囲むように置かれた13の椅子があった。
巫女達に勧められるままヴィルフリートが椅子に座ると、それを見た巫女達も倣うようにそれぞれ椅子に座った。
全員が座ったのを確認してからヴィルフリートは口を開いた。
「先ほど言った領主会議とは一体何なのだ?」
その問いに対し、ヴィルフリートのほぼ反対側に座っていた菫色の髪の巫女が立ち上がり会釈をした。
「リーデルシュタイン家のクラウディアと申します。」
彼女の言葉にヴィルフリートはかつて戦場を共に駆けた友の顔を思い浮かべた。
「リーデルシュタインか、あいつによく似ている。」
「先程の質問ですが、領主会議とは先年崩御された国王陛下に代わって国の方針を取り決めている私たち巫女が実際に意見を交わしている催しのことです。」
「なるほど。ところでずっと気になっていたのだが、この国の王族はどこの家のものがなったのだ?予想では我が家に比肩する力を持っていたブロムベルクかロイエンタール辺りではないかと思うのだが。」
「いいえ、この国には王族といったものはありません。正確に言うと王となった者のみが王族なのです。」
「それはどういう意味だ?」
「アンシェリアではベルトラム家の欠けた残り12家が落日戦争後に覇権を争うようになりました。そのため近隣諸国も含めて大変な緊張状態に陥る事となり、最終的に王の代替わりのたびに12家の当主の中から王の選出を行うことで決着をつけたのです。」
「それで国として成り立つのか?」
「ご懸念の通り時代によっては力を持ちすぎる家や贔屓される家などもありました。ですが現在は先王陛下の善政の後であること、国の存亡がかかっていることもあり少なくとも表面上は団結している状態です。」
「あくまで表面上か。」
「はい、現当主達の間には対立するほどの険悪な状況の者はいないと考えて居ます。しかしながら家同士となるとそうはいかないのです。」
「当然だな。何処の家だって自分達の利益を優先するものだ。そうでなくては領民を守る事など叶わない。」
「はい、そして現状12家を纏めるだけの力を持つものがいないのが実情でして、王の選出もままならず今回の騎士召喚へと踏み切った次第であります。」
そこまで言い終えてクラウディアは再び席に座った。
話を聞き終えたヴィルフリートは周りを見渡しながら口を開いた。
「結果として騎士は召喚されず、代わりに私が召喚されたわけだがどうするのだ?もう一度騎士を召喚するのか?」
その問いにファイーナが答える。
「それが、召喚魔法には土地に宿る光力と呼ばれる力を必要とするのですが、再召喚には少なくとも50年は光力の補充が必要なのです。」
「そうなのか。では私のことも含めてこれからどうするのだ?」
「それは・・・・・・。」
言いよどんだファイーナの左隣に座っていたカミラが突然立ち上がり大きな声で喋り始めた。
「ヴィルフリート様にも私たちと共に戦って欲しい!オルフェウスなんか居なくても関係ないって!」
カミラの大きな声を隣で聞いていた巫女が耳を抑えながら立ち上がった。
「ちょっと!いきなり叫ばないでくださいまし。耳が痛くなるじゃないですの!」
「うっさいわねマルグリット!あんたはいつもいつも私につっかかってきて、私に恨みでもあるの!?」
「えぇ、ありますとも。あなたのせいで私の耳が悪くなったらどうしてくださいますの。」
「あんたの耳なんかはじめからおかしいでしょうが!」
「な、なんですって!言うに事欠いて私の事を・・・・・・。」
カミラとにらみ合う、桃色の髪を腰まで伸ばした巫女―――マルグリットがカミラに向かって彼女に負けず劣らずの声量で叫んだかと思うとそのまま二人は互いの悪口を言い合っていく。
その二人のいつ終わるとも知れない喧騒を見かねたのかヴィルフリートの右隣の座っていた黄金色の髪をサイドに束ねた巫女が二人に向かって言葉を投げかけた。
「いい加減にしないか二人とも、ベルトラム卿の御前だぞ。みっともない格好を晒すな。」
彼女の言葉を聞いた途端、先程まで騒がしく罵り合いをしていた二人は静かになり恐る恐る顔を向けた。
「ま、まぁエミーリアがそういうのでしたら。よかったですわねカミラ、今回は貴女のこと見逃してあげますの。」
「なんですって!見逃してあげるのは・・・・・・」
「二人とも」
再び言い争いを始めそうになっていた二人に今度は先程よりも威圧感の増した声でエミーリアが注意をする。
「「ごめんなさい」」
二人はよほどエミーリアが怖いのか、身体を萎縮させながら謝罪をした。
その様子を見て満足したのか、エミーリアはヴィルフリートの方を向き話し始めた。
「見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。改めて自己紹介をさせて頂きます。私の名はエミーリア、ロイエンタールの当主で主に軍務系統の統括を行っております。」
エミーリア一度言葉を止め目礼をすると再び話を始めた。
「先程のご質問ですが、私たちの総意といたしましてはぜひともベルトラム卿には我々と共に戦いこの国を救って頂きたいと考えています。しかしながら一方的にこの時代に呼び寄せてしまったのも事実、ベルトラム卿が戦いを望まぬのであればご自由になさって頂いても構わないと私は考えます。そうなった際でも我がローエンタールは不自由ない生活をお約束いたします。」
エミーリアの言った潔い申し出にヴィルフリートは好感をもちながら、自分の意思を告げるため口を開いた。
「私としては許される限り護国の任に就こうと考えている。なに、200年経とうが祖国は祖国だ。自分の国が危機に瀕しているというのに安穏としていられるほど私は腐ってはいないよ。」
ヴィルフリートの言葉を聴き、カミラが飛び上がらんばかりの喜びを顔に浮かべながら鼻歌交じりにつぶやいた。
「やった~♪伝説の英雄様と一緒の戦場で戦えるなんて~♪」
浮かれているカミラを尻目にエルフリーデが全員に向けて提案した。
「既に日は落ちていますし、ある程度の方針は決まったので続きは後日と云うことにいたしませんか?」
その提案に一同は同意しようとしたところでヴィルフリートが待ったをかけた。
「その提案は賛成ではあるのだが、できればまだ名前を聞いていない者たちの紹介を先にして欲しい。」
その言葉を聞き、エルフリーデはそうですわねといいながら自己紹介を行っていないものたちに挨拶を促した。
するとエルフリーデの右に座っていた白磁色の髪とその色に負けないほどの白い肌の小柄の巫女が立ち上がった。
「名前はブリギッテ、家はデュムラー。」
そう言うともう用は終わったとばかりに席に座る。
その様子にエルフリーデが苦笑しながら話しかける。
「大方そうなると思っていましたけど、もうすこし何か無いのかしら?」
「無い。今は自己紹介の時間。名前を言うだけでいいはず。」
「あらあら。」
エルフリーデは困った様子を顔に浮かべながらヴィルフリートに申し訳ないと眼で訴えてきた。
それに対しヴィルフリートも眼で気にしてないと合図するとエルフリーデは少し頬を緩ませた。
「では次ですわね。」
そうエルフリーデが言うと隣に座っていた濡羽色の髪の巫女が内側にカールした毛先をもてあそびながら立ち上がった。
「レオナだよ、家はバイルシュミットね。あとは・・・趣味は買い物、特技は料理、武器は槍を使うよ。」
「バイルシュミットで槍と云うと、雷槍アルレシャか?」
「そだよ~。よく知っているね~。」
「私の友も使っていたからな。その槍から放たれる雷を見て何度肝を冷やしたことか。」
「ほへ~。私はまだ雷を制御しきれていないから普通の槍として使ってばかりだけれどね~。」
「あれは相当制御が難しいといっていたからな、鍛錬あるのみだな。」
「うん、この子のためにも早く使いこなしたいな~。そういえばヴィルフリート様の剣はなんていうの?」
「この剣か?この剣はイェド・プリオルという銘で私の半身の様なものだ。」
「へ~、やっぱ自分の武器はいいよね。誰よりも信頼できるし。」
「その点には同感だな。命と同じくらい大切といっても過言ではない。」
「うんうん、気が合いそうで良かったよ~。」
「うむ、これからよろしく頼む。」
二人が挨拶をし終えたのを見届けてからエルフリーデが立ち上がり全員に向け言った。
「ではこの辺りで一通りの紹介はお終いですわね。残りの巫女達とは近いうちに再び会う機会があるはずですのでそれまでお待ちください。ではここで解散といたしましょう。エミーリア、案内を頼みます。」
「了解した。」
そうエルフリーデ告げ終わると巫女達は各々円卓の間を出て王城にある自分達の部屋へと向かっていき、残ったのはヴィルフリートと彼を用意された部屋まで案内するエミーリアの二人のみであった。
「ではベルトラム卿、お部屋までご案内いたします。」
「あぁ、ありがとう。」
そうして二人は連れ立って王城の入り組んだ通路を歩いていき、やがて一つの部屋の前に来て止まった。
「ここは・・・・・・。」
「はい、この部屋はアンシェリアの王の私室となっている部屋でかつてはベルトラム家当主の部屋であったと伺っています。」
「あぁ、確かにこの部屋は私の部屋だな。・・・・・・なんだか不思議な気分だよ。この部屋を見ていると自分が200年後に来たとは思えないのだから。」
「では、あまり当時と変わっていないと?」
「そうだな。もちろん細部には見覚えの無い装飾などがあるが、この部屋の空気、雰囲気は変わってはいないようだ。」
「なるほど。」
「ここで長々と話していても仕方が無い。私はもう大丈夫だからエミーリアも自室に早く帰って休むといい。見たところ、あまり寝ていないのだろう?」
「・・・・・・っ!お気づきでしたか。」
「なんとなくそんな感じがしたのだ。」
「・・・・・・では、お言葉に甘えさせて頂きます。明日の朝此方に使いを寄越しますので、失礼いたします。」
そういって部屋を退室するエミーリアを見届けてからヴィルフリートは鎧を脱ぎ、用意してあった部屋着に着替えると、ベッドに寝転がる。
虚空を見つめながら今日の出来事を考えているうちにいつの間にか眠りに落ちていくのであった。
読んでいただきありがたい。
今回キャラ名が沢山出てきて大変です。
しかもよくよく考えると三話が終わってようやく一日経つというスローペース具合。
設定メモ
アンシェリア13統治区
アンシェリアが連合国であった頃より続く12家の領地と王国直轄地の総称。アンシェリア中央にして海にも面していることから古くより商業の発展したゼノン、東方の文化が流入して多文化交流の地として発展したヨアン、小競り合いの絶えない地域で現在ランドルフ帝国と一部とはいえ接している屈強な騎士団を要するミカエル、精強な水軍と水産業の盛んなピロス、農業に特化したシオ、山岳地帯で狩猟を生業とするものの多いイシドル、異国から流れ着いたものが村落を多く作っているイセ、優秀な魔法使いを多く輩出してきた魔道学の総本山ダヴィド、気性の荒い火龍が多く生息する火山があるアビボス、豊かな自然と深い森に覆われたヨセフ、領地の五分の一が湖になっているステパン、王国中の技工士が集うアントン、水晶の湖があり妖精が多く生息するタデウスの計13の領地である。