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アンシェリアの騎士  作者: 光坂 叶
旧版
2/6

過日の英雄

続きがいつか分からないといいながらその日のうちに次話投稿。


でも話が進まない。

「申し訳ないが俺は盟約の騎士オルフェウスではない。」


男がそう告げた瞬間、聖堂内は騒然となった。それもそのはずで、ここに集った人々はオルフェウスの召喚に全ての希望をかけていたようなものであり、召喚された者がオルフェウスでないとなればその希望がなくなったことを表しているからである。


男の言葉を聴き、空色の髪の巫女は唇を戦慄かせながら男に語りかけた。


「・・・・・・あ、あなたが盟約の騎士オルフェウスではないというのならば、一体何者なのですか?」


巫女の言葉が聖堂内に響くと共に、集った人々によって騒然となった聖堂内は静寂さを取り戻し、人々は耳を澄ます。この儀式で召喚されるのはオルフェウスのはずである。ならば、巫女の疑問の通りその召喚で現れたこの男は一体何者なのか。


男は巫女の言葉を受け、眼を閉じ一度大きな息を吐くと再び眼を開き言葉を発した。


「私の名前はヴィルフリートという。アンシェリア王国13統治区が一つ、ゼノンを治めるベルトラム家の当主だ。」


男がそう告げたとき、人々は何を言われたのかを理解するのに数瞬の時を要し、理解したときには先程と劣らない驚きと戸惑いから再びあたりは騒然となっていった。


そうした中、男を囲んでいた巫女達の中から若草色の髪をした一人が男に向かって叫んだ。


「ふざけたこと言わないで!200年も昔の英雄様の名を騙るなんて不敬なんてものではないわ!」


その言葉に人々は口々に同意する。

何故なら男の告げた名は200年程前に起きた大国間の戦争の最中行方知れずとなった英雄の名であり、戦後衰退した家系の名であったからだ。


男は巫女の言葉を聴き、思わず耳を疑いながらも搾り出すように声を出した。


「・・・・・・いま、なんと言った。」


その言葉に対して巫女は男を小ばかにしたように言う。


「だから、英雄様の名前を騙るのはやめなさいって言ってるのよ。・・・・・・それともなに?あなたは自分が200年も前から召喚されたとでもいうつもり?」


巫女の言葉を聴き男はなにやら考え込むように眼を閉じた。

ごまかしの言葉でも喋るのではないかと思っていた巫女は期待していた反応とあまりにもかけ離れた男の様子に戸惑ってしまった。

どうすればいいかわからなくなった巫女は助けを求めようと空色の髪の巫女に話しかけた。


「ちょっとエルフリーデ、こいつどうするのよ。」


その言葉に対して少し困ったように微笑みながら空色の髪の巫女―――エルフリーデは答える。


「・・・・・・どうするのかといわれても。ねぇカミラ、私には彼が嘘を付いているようにはとても思えないの。何か身の証になるような手がかりになるものがあればよいのだけど・・・・・・あら?」


未だに眼を瞑って考え込んでいる男を眺めていたエルフリーデは男の腰に差してある一振りの美しい鞘に収められた剣の柄に紋が刻まれているのを見つけたため、男に話しかけた。


「もし、貴方の腰に差された剣をお見せいただけませんか?」


エルフリーデの言葉に男は眼を開き構わないと告げ、剣をエルフリーデに預けた。


「う~ん、確かにこれはベルトラム家の紋ねぇ。でも紋だけでは・・・カミラは見た事あるかしら?」


そう言いながらカミラの方に眼を向けると、何故か剣を凝視しながら固まっているカミラが居た。


「・・・・・・カミラ?」


呼びかけに反応が見られず、再び呼びかけようと考えていたところでカミラの口から呟くような小さな声が聴こえた。


「・・・・・・そ・・・そんな・・・ばかな・・・。・・・・・・その紋、その剣は・・・・・・。」


普通ではない様子でありながら何かしら確信をもったかのような呟きを発したカミラにエルフリーデは少し戸惑いながら問いかけた。


「カミラ、この剣に見覚えがあるの?」


エルフリーデの問いかけに剣の方に視線を落としていたカミラはゆっくりと視線をエルフリーデに合わせ、喋り始めた。


「・・・・・・エルフリーデ、貴方は私が英雄ヴィルフリート様のファンだってことは知っているわよね?」

「え、えぇ。カミラはそれが講じて落日戦争の研究をずっと行っているのでしょう?」

「そうよ。かの御方が消えてしまわれたあの戦争で一体何が起こったのか、あの方の足跡を知りそれを物語として私よりもずっと後世に生まれてくる人々に伝えることが私の夢だもの。」

「でも、そのこととこの剣に何の関係があるの?」

「私の一族は昔から歴史について多くの書物を保管していてね、もちろんヴィルフリート様のことが記されていた書物も。・・・・・・その中にあったのよ、この剣と紋の描かれた書物が。」

「な!・・・・・・で、ではまさかこの方は本当に?」

「そうとしか考えられないわ。私だってその書物を手にするまで存在を知らなかったような剣だし、何よりその剣はヴィルフリート様と共に姿を消したと書物にあったわ。」


気まずそうにカミラは男に向き直り、先程とは異なり今度は丁寧に話しかけた。


「さ、先程は失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。許されぬ事ではあると思いますがどうかご容赦を。」


そういいながら頭を下げる。

先程の言葉使いとは打って変わった丁寧な言葉に男―――ヴィルフリートは苦笑しながら答えた。


「さっきの様な言葉遣いで構わないよ。結果的に君が私の身分を証明してくれたのだろう?それに気負った喋り方では此方も疲れてしまう。」


ヴィルフリートの提案にカミラは安心したようにほっと息を吐くと今度はどこか少し興奮した様子で問いかけた。


「あの、本当にヴィルフリート様ですよね。」


その問いかけにヴィルフリートは改めて答える。


「あぁ。先程も名乗ったように私の名はヴィルフリート・ベルトラムで相違ない。・・・・・・ただ、君達の話を聴く限り私は200年後の未来へ来たということでいいのか?」


ヴィルフリートは確認を求めるようにカミラ達に聞き、エルフリーデが答えた。


「はい。どうやらそれで間違いないようです。もうお察しかと思われますが、私たちは盟約の騎士オルフェウスの召喚をしていたはずでした。しかし何かしらの要因によって貴方様を誤ってこの時代に呼び寄せてしまったようです。」

「そうか、とりあえずはそれでいいとして・・・戻る方法はあるのか?」


そうヴィルフリートが問いかけた途端巫女達の顔がいっせいに強張り、エルフリーデが問いに答えた。


「・・・・・・恐らくは、無理であるかと。先程も申し上げた通り、この時代は貴方様の居た時代から200年程経っております。現在伝わる貴方様に関する記録では二度と戻られなかったとされており、つまりは・・・。」

「この時代に残った、と云うことか。」

「はい、そう結論付けるほかありません。」

「では、我がベルトラム家はどうなった?」


ヴィルフリートの問いかけに巫女達は視線を落とす。

その様子を見てヴィルフリートは察する。


「やはり滅亡していたか、当然だな。我が一族には若き世代が私しか居なかったのだから。」


そのあまりにも哀しんだ様子の無いヴィルフリートの言葉に思わずファイーナは問いかけた。


「その、よろしいのですか?」

「よろしいも何も既に過ぎ去ったことであろう。それに国が200年経っても残っているのだ、喜びこそすれ哀しむべきではないだろうに。」


ヴィルフリートのあっけらかんとした様子に巫女達は器の大きさを垣間見たような気がした。


「はい、はいはい!」


カミラが手を挙げ質問をしたいという顔をしながらヴィルフリートを見ていたが、エルフリーデはそれを抑えて提案をした。


「とりあえず、皆さん王城の方へ移りましょう。民衆の集っているこの場所で話すより落ち着いて話をする事ができるはずです。」


その言葉に、巫女達は自分等が未だに聖堂で民衆に囲まれている事を思い出したのであった。



読んでいただきありがとうございます。


2話にしてようやく主人公の名前が登場。大半の巫女が空気と化しているのはしょうがない、しょうがないんだ・・・・・・。


設定メモ

ベルトラム家

のちに落日戦争と呼ばれることになった大国間戦争の時代まで残っていたアンシェリア13統治区の一つ、ゼノンを治めていた家の名である。落日戦争までは他の家に比べ精強な騎士団やアンシェリア中央部に位置することから発展した商業市場をもつことで、13家の代表の様な存在としてアンシェリアを纏め上げていたが、戦争末期に英雄と名高かった当主ヴィルフリートが行方知れずとなったまま戦争が終結。国として纏まらなくてはならない必要に迫られたアンシェリアは、世継ぎの居なかったベルトラム家の領地を他の12家、つまりは聖堂に集った巫女達の一族の共通統治地区とし、その後王制となったアンシェリアの国王直轄地として王都が置かれることとなった。結果ベルトラム家は事実上滅亡したのであった。

補足―――落日戦争時まではアンシェリアは連合国であった。


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