召喚の儀
人生初めての小説投稿と相成りましたのでよろしくお願いします。
自分の好きなように書いていこうと考えています。
ステンドグラスに光が差し込む時刻、聖堂には人々が所狭しと集まっていた。
その聖堂の奥に座する祭壇の上には白装束で身を固めた十二人の巫女が円陣を組みながら儀式を執り行っていた。
円陣の周囲には幾重にも文字が円を成して描かれ、中央には一つの名が記されていた。
【ヴィンフリート・オルフェウス・クラインシュミット(Winfried Orpheus Kleinschmidt)】
清廉な静けさを感じさせる聖堂内に巫女達が紡ぐ言葉が響き渡る。
「我等、盟約を交わせし初源の民なり。」
「我等、汝を求める者なり。」
「我等、同胞を守護せし者なり。」
「我等、新たなる盟約を望む者なり。」
「汝、召喚の儀に応えよ!」
最後の言葉が紡がれた瞬間、聖堂内に突然突風が吹き、円陣が光り輝き始めた。
集った人々はその眩い光に思わず眼を瞑ってしまう。
光が収まり状況を確認しようと人々は円陣のほうに眼を向ける。
「おぉ!」
誰かの感嘆のような呟きが、静けさの戻っていた聖堂に響く。
何故なら、円陣の中央にはいつの間にやら一つの人影が現れていたからだ。
円陣の中央には男が一人佇んでいた。
豪奢にみえながら、それでいて実用性に富んでいる鎧、そこから垣間見える均整の取れた身体、鳶色の少し癖のある髪、一見優男のようでその実精悍な顔、その顔から覗き見える鋭い瑠璃色の眼光にその場に居た全ての者は畏怖を抱きつつも魅入られた。
誰もが言葉を発することのできない沈黙の中、男を取り囲んでいた巫女達のうちの一人、紅の髪をした少し強気な印象を受ける浅葱色の瞳をした少女が男に向かい一歩近寄り語りかけた。
「召喚の儀にお応え頂きありがとうございます、オルフェウス様。私は聖巫女が一人のファイーナと申します。あなた様のご尊名はヴィンフリート・オルフェウス・クラインシュミット様でお間違いないでしょうか?」
男に問いかけながらファイーナは頭の中で考えていた。
(このお方が盟約の騎士オルフェウス様。さすがとでもいうべき威圧感ですわね。古より伝わる召喚の儀、実際にこうして召喚するまで半信半疑でしたがどうやら救国の騎士というのもこけおどしではなさそうですわね・・・・・・それにしても、なかなかに男前でありますこと。)
考えが横にそれてきてしまい再び男に集中しようとしたそのとき、さきほどまで円陣の中央にいたはずの男が目の前で自分の顔を覗き込んでいることに気付きファイーナの頭は真っ白になった。
男は戸惑っていた。
自分は戦場に居たはずである。幾多もの戦を共に戦い抜いてきた戦友や部下と共に長きに渡る戦の終止符を打つために隣国の本拠地に攻め込んでいたのだ。後一歩で敵大将の首をとることができるというところで急に目の前がまばゆい光に包まれ思わず目を瞑ってしまった。光が収まったかと思えば何故か自分は建物の中にいるではないか。その上何かの祭儀でもしていたのだろうか、巫女の服を着た女性たちが自分の周りを囲っており、その背後には建物から溢れんばかりかというような人々がこちらをみているではないか。
いろいろと考えている内に巫女の一人が如何にも緊張しているといった面持ちで自分の前に出てきて自分に向かい問いかけてきた。
「召喚の儀にお応え頂きありがとうございます、オルフェウス様。私は聖巫女が一人のファイーナと申します。あなた様のご尊名はヴィンフリート・オルフェウス・クラインシュミット様でお間違いないでしょうか?」
呆気に取られた。何故なら巫女の口より出た名前は自分のものではなかったからである。
自分はオルフェウスなどと云う名前ではない。オルフェウスとは誰なのだ、聞いた事も・・・聞いた事も・・・・・・あった。自分が幼き頃何度も聴いたことがあったはずだ。たしかその名は、自分の祖国に古から伝わる御伽噺にでてくる、国を救うために人々の願いにより召喚される騎士の精霊・・・・・・盟約の騎士オルフェウス。
そこまで理解した事で男は自分の置かれた状況を大方理解した。つまり自分は騎士オルフェウスを呼ぶ召喚魔法の際に起きた何らかの失敗で召喚されたのだと。男は考える、ここは果たしていつの時代なのだろうか、未来なのか過去なのか。
男は現状を詳しく知ろうととりあえず先ほど話しかけてきた巫女に話を聞くため近づいたのだが巫女は何の反応も示さない、どうやら何かを考え込んでいてこちらに意識が向いていないようだった。
他の人に聞いてみるのも良かったがなんだか男はこの巫女に聞いてみたくなり顔を覗き込んだ。
綺麗な娘だと思った。先ほどは大人びた話し方をしていたから年上かと思ったがこうして改めて顔を見ると自分と大して変わらないように思える。
そのときようやく巫女は自分が顔を覗き込んでいる事に気付いたようである。
さっそく話を聞こうと思った男であったが巫女がどうやら再び反応しなくなってしまった事に気付いた。
どうしたものかと考えていると別の巫女がこちらに近づいてきた。
その巫女も非常に美しい少女であった。空色の長髪を後ろで一つに纏め、すこし垂れ気味の琥珀色の瞳からの眼差しは優しげな印象をかもし出し相手を落ち着かせる。
その巫女が一度こちらに礼をした後、男に謝罪をしてきた。
「オルフェウス様、ファイーナの非礼をどうかご容赦ください。」
その言葉を聴いて男は思い出した。自分がオルフェウスではないことをまだ言っていなかった事を。
「申し訳ないが俺は盟約の騎士オルフェウスではない。」
呼んで頂きありがとうございます。
書き溜めなどはないため続きがいつになるかは未定です。
一応一話毎に設定を一つずつあとがきに書いていくつもりです。
設定メモ
盟約の騎士オルフェウス
かつてアンシェリア王国がアーグレリアという名の国であった時代に幾度かあった国の危機を救うために召喚魔法によって呼ばれ、戦乱を終焉に導いた異世界の騎士たちの総称。アンシェリアと国名を変えてからは召喚されておらず、人々の間では精霊として御伽噺に伝わる中でしか認知されておらず、詳細を知っているのは聖職者や一部の権力者の者たちのみであった。今回召喚されるはずであったヴィンフリートはオルフェウスの中でも最も高潔な人物とされていた者の名であり、特定して呼び出す召喚を行ったはずであった。