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ふうせんかづらの、あいな、お話

作者: 地海月

注意。この小説は、わざとこんな書き方がされてます。おかしいと思うのは正常です。多分。

読んでいて気分が悪くなったらブラウザバックしてください。

普通の恋愛ものが読みたい方は、同じ企画に参加されている他の作者の小説をお読みください。

今年も、庭でふうせんかづらの実がなっている

風に揺られてかさかさなるその実を

娘と一緒に摘み取る

楽しそうに摘み取る娘に、君の面影を見て

心が温まったけど、少しだけ痛む

あらかた収穫したので、娘に先に家へ戻るように言う

君との思い出を懐かしみながら庭を眺めて

摘み取った実を一つだけ割ってみる。

3つ種が出てきた

一つだけハートが割れているのを見て、ちょっとだけ乾いた笑いが出る


娘に、先に家に戻るよう言って

私は庭に座って、手のひらでころころ種を転がす

君と初めて出会ってから、植えつづけてるふうせんかづら

君と出会ってからの年月と同じだけ、代を重ねたふうせんかづら

娘と一緒に収穫するようになってから

私が最初に割る実にだけ、ハートの割れた種が入ってる

皮肉なものだな。と言うのが毎年の習慣になってしまった


君と出会ったとき、君の家の庭先になっていたのを一つもらったのが最初。

小さいけど、硬くてころころしている種にハートマークがあるのが気に入って

それから毎年植えるようになった

貰った種から始まって、最初に手におさまった種の一粒だけビンにためるようになったのは

なんでだったか、思い出せない

子供のときの淡い記憶なんてそんなものなのだろう。毎年そう思ってる。

私もこりないものだな。クククと自嘲する


それからしばらく、手のひらの上で種を転がしながら、思い出を懐かしんでいく

細かいことは憶えてないけれども、君と歩んだ幸せな記憶

毎年毎年、軽く冗談を言い合いながら思い出を振り返ってた

その光景を思い浮かべたところで、心がズキリと痛み出す

結婚しても変わらなかった光景が急に歪みだす

もう、語り合うこともないのだと。思い出してしまうから

毎年、この瞬間だけは嫌だ。そう心底思う。

無意識に握った手が、種でほんの少し痛い。


ぎこちなく手をひらく。汗で種がぬれている。毎年のことだが、毎回こうなってしまう。

ふうせんかづらが繋いだ絆を、ふうせんかづらが引き裂いた

毎年、ふうせんかづらが恨めしくなる。八つ当たりだとわかってるけれども、思わずにはいられない。

そして毎年、そんな私自身が嫌になる。

また握ってしまったようで、その淡い痛みで意識が戻ってくる


ふうせんかづらが原因じゃない。ただ運が悪かっただけだ

そうなんども、自分に言い聞かせたけれども、割り切ることが未だに出来てない

こんなんだから、娘にも心配されてしまっている。けれども、直りそうもなくてまた自嘲する。

わき道にそれて、まとまらなくなっている思考を、一度切り替える。


あの日は、雨だった。私は仕事に、君は珍しく出張に、娘は学校に。

いつもどおりの普通の日だった

君が事故に巻き込まれるということがなければ

私と娘はしばらく君がいないとわかっていたから、二人で生活していた

まさか、出張で事故に巻き込まれて、意識不明になっているとも知らず

ののほんと、君が帰ってきたら何を食べようかとかお土産はなんだろうかと

娘とたわいもなく話していた


出張の予定日が過ぎても君が帰ってこなかった

おかしいと思って、君の会社に電話をかけようとしたとき

ちょうど電話がかかってきた

君が事故に巻き込まれて、意識不明だという知らせだった


娘の学校に連絡して、娘に帰宅してもらい、急いで荷物をまとめて、駆けつけたことだけは憶えている。

遠かったため、荷物をまとめるので一日、ものもろの処理で二日、移動で一日費やし、君に面会にいけたのは電話があってから5日後だった


病院について看護師と医者と君の上司から、詳しく話を聞いた。君が数日前に既に意識を取り戻していることも。

彼らの目や、言葉につまり気味だったのが気になったが、深く気にしなかった。気にしておけば、多少は変わったのだろうか。今思い返しても、それだけはわからない。娘も私もいっぱいいっぱいだったから。


病室に向かうと、君と誰かの楽しそうな声が聞こえてきた

何故か嫌な予感が、娘も私もしたが、気のせいだと思っていた


そこからは、あまりよく憶えていない。娘も憶えてないと言っていた。

君が記憶喪失になったまでなら、私も娘も受け止めきれていただろう

運が悪かった。そういうことだった。

たまたま、出張のパートナーが君に好意を寄せていた同僚で

たまたま、君の興味を引こうとふうせんかづらの種を、私と同じように小瓶に入れて持っていて

たまたま、その同僚のぱっと見の印象が私に似ていて

たまたま、その同僚の言った言葉が君の喪った記憶の補完のトリガーとなって

そう。たまたまにたまたまが重なって、私と娘は記憶から消えた

そして、消えた私のところにその同僚が入った

矛盾する娘の記憶は補完されなかった

それだけの話だった。そうそれだけの。


気づいたら、私たちは私の家に帰ってきていて

法律等々の擦りあわせが終わっていて

君と私たちは他人になっていて

約1年が過ぎていた。


私たちに残されたものは、君とのアルバム・半分に割れた私が渡したふうせんかづらの種・君との思い出の染み込む私の家だけだった。


あれから、十数年。娘は結婚し、孫が生まれた。夫は娘の幼馴染で、昔から娘が好きでたまらなかった男だ。あの約一年、抜け殻のようだった私たちを支えてくれたのは彼と彼の家族だったから、感謝してもしきれない。


毎年この日だけ、彼の家族と彼と孫はこの家を離れてくれる。そこまで気をつかわなくてもいいとはいってるものの、私たちが吹っ切れ切れてないことを察せられてるため、強く出ることができない。情けないなと、また自嘲の声が出る。娘の方が気丈だな、情けないと毎年思ってるような気がする。



……彼と彼の家族が帰ってきたようだ。娘が私を呼ぶ声がする。毎年のことだから、彼らもなれたものだな。

あははと嗤い、ころころころと種を転がしながら、家の中へ戻る。


家の中に入る前に、ふと後ろを振り返る。あの頃の君が笑ってる気がする。君が死んだこの日に、ふうせんかづらを収穫する。未練がましいかな?答えは返ってこないけど。


ふうせんかづらの花言葉は「あなたと永遠に」だったか。うわさに聞こえてくる彼らからすれば、それは実現してるのだろうね。子宝も仕事も順調なようだし。

そう考えてから、カラリカラリと哂いながら家へ戻る。そんな意図はそうなかったとはいえ、私たちから奪ったんだ。幸せにせんと呪うぞと空の下にいるだろう奴にささやかな意趣返しをする。自己満足でしかないだろうけれどもね。





風に吹かれるふうせんかづらに残った実から、種が一つ落ちる。それはハートの模様をしていた。
















企画をみて、「!」と思った話を、かけるがままに書いた小説でした。いかがだったでしょうか。久しぶりに小説かけて私は満足です。純粋なあいも怖いといえば怖いのよってお話なのかもしれません。筆者にもわからないので、捉えたままに解釈していただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは、地海月さん^^ とても切なくて、もう一度あの頃に戻らせてあげたいって凄く思いました;; ハートの割れた、最初に取り出す種。 繋がりの途絶えてしまった愛する人をあらわしているよう…
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