ねえ、私を見てよ
ねえ、いまトイレから戻ってきたけど手、洗った? 洗ってないでしょ?
やだ。汚い手で触らないでよ! もう、本当に男ってデリカシー無いわね。
酷い。乱暴にしないで。
いま、舌打ちしたでしょう。
私のせいじゃないわ。自分の失敗を私のせいにしないでよ。
初めて私に触れたときには、指先で優しく触ってくれたのに。
あんなに緊張して私に釘付けだったのに。
今は何よ。私の事を殆ど見もしないじゃない。
貴方は、もう長い事、私に関心が無いでしょう。
知ってるわ。だって、貴方は前しか見ていないもの。
誰もが初めは私に夢中になるのに、付き合いが長くなると私を見なくなる。
乱暴にしないで、って、お願いしたじゃない。
ねぇ、止めてよ。そんなに強く叩かないで。
良く考えて。貴方は私がいないと何も出来ないのよ。仕事どころか、遊びも趣味も買い物も小説を書くことだって出来なくなるわ。
たまには私を見てよ。前ばっかり見てないで。
「あれ? ローマ字変換にならなくなっちった。どうやったら戻るんだっけ? 仕方ない。検索して調べるか」
――――すらほもちまにみんななすんらのな
「あはは。困ったな。ろ、ろ、ろ……『ろ』はどこだ?」