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Servival Strategy  作者: 風猫
1/1

(一人目の死)

二十時。

我々一同は、ダイニングで夕食を共にしていた。

知らない者同士、同じ縦長のテーブルで食事をすると言う事は

どこか気まずいものを感じているようだ。

この天候ともあいまって

どんよりとした空気に包まれていた。


食事は、五つ星ともあって、フランス料理のフルコース。

一皿ごとに盛り付けられ、支配人であるシリオットが給仕していた。

味も格別だ。


だが、この暗い雰囲気は消えそうになかった。


それを嫌がってか、宿泊客の一人、ルールムは食事の時間だと言うのに

姿も見せなかった。


残された我々は、黙々と食事を続ける他なかった。


その時だった。


「ぎゃあああぁぁあぁぁぁぁぁぁああああ」


この洋館内に、およそ人とは思えない叫び声が響き渡った。


「きゃっ」

みどりが、咄嗟に隣の席にいたワンダー雅光の腕にしがみついた。

「何だね?今のは」

ワンダー雅光が、ナプキンで口を拭きながら、呟いた。


「やだね、食事時に。何だって言うんだい」

とヴァネッサが文句を垂れる。

アダムは、なおも黙々と牛のほほ肉のステーキをほおばり続け、

給仕をしていたシリオットは、突然のハプニングにオロオロするばかりだった。


「諸君、これはただ事ではないぞ」

思わず、私は机を叩き、声を大にした。


「いったいどうしたっていうんだい?」

ヴァネッサが、迷惑そうな表情で私を見た。


「この尋常ならない叫び。何かが起きたに違いない」

私の持つ長年の探偵としての勘が、急を叫んでいた。


「気のせいではないのですかね?ただの叫び声一つ。

何を気を尖らせているのですか?」

ワンダー雅光が、何かを言っているがそんなもの、私の勘の方が正しいに

決まっている。

一般人とは、踏んだ場数が違うのだ。

間違いなく、なにか事件が起きた。

しかも、極上の殺人事件だ。

この勘だけは、一度も外れたことがない。


「ここにいないのは…」

周りを見渡すと、ルールムだけが席にいなかった。

「諸君、ルールムの部屋へ急ぐんだ。全員で全員のアリバイを証明する為に、

共に行かねばならない」


そう言うと、私は先頭に立つと

ルールムの部屋へと向かおうとした。

ふと、後ろを振り返ると、誰も席を立とうもせず黙々と食事を続けていた。

私は飽きれる他なかった。

「諸君、全員で行かなければアリバイが成立しないのだが?

自分から殺人犯の汚名を被りたい馬鹿はどなたかな?」

私の言葉に他の宿泊客渋々立ち上がった。

全員で、ルール無の部屋へ急ぐ。


部屋の前の立つと、息を潜めつつ、ドアをノックした。

しかし、返事はない。


ドアのノブを回すが、鍵が閉まっている。

これは、最悪の事態を想定しなければならない。


私は、そこにいたアダムと共に、ドアを蹴破った。

支配人であるシリオットが、ドアの修繕費がかかる、

マスターキーをとりに行かせてくれと

渋ったが、そんなものは聞いていられるはずもない。

人命がかかっているのだ。


数度の突撃でドアが破られた。

そして、そこには…。


「きゃあああああ」

みどりの悲鳴が部屋中に響き渡った。


他の人々もその光景をみて、凍りついている。

そんな中私は一人、落ち着きを払いそこにある物の元へしゃがみこんだ。


そこにあったのは、まぎれもないルールムの死体だった。

そっと脈をはかるが、反応はない。

カッと目を見開きながらルールムは確かに絶命していた。

しかも奇妙な事に口には大量の砂が詰め込まれている。


誰が一体こんな手の込んだことを…。


「こ…これは…」

シリオットがおろおろしながら、ルールムに駆け寄ろうとした。

だが、

「いけない!すでにここは事件の現場なのです」

と愚かな支配人を制した。


「いいですか。皆さん。ここは、すでに殺人事件の現場です。

何一つ触ってはなりません。現場を保存してください。

でなければ、事件解決へのノイズとなります」


そう言って、私は宿泊客達の目を見た。

皆一様に怯えた目をしている。


…いや。

ただ一人、アダムだけが、平然とした目で

手に料理の一つであった、ステーキの皿を持ちながらもぐもぐと口を動かしていた。


私の中で彼に対する疑念の色が強まる。

しかし、先入観は一番の敵。

真犯人は決まって、もっとも怪しくない人物だ。

しかも…。


私は、周りを見渡した。

窓は、きっちりと閉まっており、雨が入った痕跡はない。

この嵐だ。

窓から出入りすれば、即座に雨で床が濡れてしまうだろう。

天井も、侵入する隙間もない。

だとすれば、出入り口はたった一つ…。


私は、支配人であるシリオットにこう質問を投げかけた。

「この蹴破ったドアの他に、出入り口はありますか。

答えてください。これは、事件を左右する問題です」


なおもシリオットは、おろおろし、周りをキョロキョロと

何かに焦るかのように見渡しながら言った。


「いえ。そんなものはないはずです」

「よろしい!」


思わず私は叫んだ。

叫ばずにはいられなかった。


「これは密室殺人だ。しかも、全員にアリバイがある。

不可能犯罪だよ」


そう言って、私はルールムの口元に手をやった。

口元には、これでもかと言わんばかりに

砂がが詰め込まれている。

しかも、この砂もほとんど湿り気がなかった。


つまり、犯人はどこからか乾いた砂持ち込む。

それを無理やり食わせ、窒息させ、


殺害後、密室を作ったことになる。


「支配人。我々以外に、宿泊客はいますか?

そして、マスターキーは今、どこにありますか?

確認してきてください。すぐに!!」


私の言葉に従い、シリオットが走り出した。

さて、その間に私は犯人の残した手がかりを探すとしよう。


私は立ち上がると、そこに集まっていた宿泊客に向かい

こう問いかけた。


「全員、あの叫び声が上がった時何をしていましたか?」

「全員、ダイニングルームにて食事をしていたに決まってるじゃないのさ」

すぐさま、ヴァネッサが答えた。

そうだ。

確かにそうだ。

しかし、

「本当にそうでしょうか。この中に双子の方はいませんか?

単純な入れ替わりトリックです。一人は食事し、一人は殺害。

あたかも一人しかいないように見せかける。

古典的なトリックの一つです」


「おらんね」(ワンダー雅光)

「いません」(みどり)

「いないさ」(ヴァネッサ)

「もぐもぐ」(アダム)


彼らの証言が正しいとするのなら、

これで双子の入れ替えトリックという線は消えた。

ならば、どうやってこの密室を作り出した?

まさか、超常的な能力を持つ人間がこの中に紛れ込んでいるとでも言うのか。

馬鹿馬鹿しい…。

超能力など………。


とここでふと思い出した。

「ワンダー雅光さん。あなた、マジシャンをされているそうですね」

「そうだが、何か?」

「だとすれば、壁抜けなんかも自由自在にできるんじゃないですか?」


私はキメ顔でそう言った。


すると顔を烈火の如くこうちょうさせ、彼は叫んだ。

「何を馬鹿なことを言う!?マジシャンと言えど私は、人間だ。

こうを言ってはなんだが、なんの仕掛けもないところで、マジックなどできるはずもない」

「そうですわ」

みどりも、ワンダー雅光を庇うかのように、私に追いすがった。

「この方のマジックは確かに奇跡のようだと言われています。

けど、そんな人殺しのために使うはずがありません」


「そうだぜ。探偵さん。ちょっと冷静になった方がいいのはあんただぜ」

ヴァネッサが呆れたような表情で言うが、なんとも失礼な女だ。


所詮下賤な職業をするしかない女だ。

私のように、知の結晶とも言うべき『探偵稼業』など理解できるはずもない。

なおも、私の灰色の脳細胞を働かせる。

考えろ、考えるんだ。


すると、支配人シリオットが、息を切らし部屋に走りこんできた。

「ホームル様…。はぁ、はぁ…。

監視カメラをチェックしましたが、怪しい人物は一切見つけられませんでした。

そして、この部屋にルールム様以外の人間が入った痕跡も」

「そうか、ではマスターキーは?」

「はい、ここにあります。鍵の電子収納箱の記録を見ましたが、

一切使われた形跡はありませんでした」

「ふむ」


私は、立ち上がり腕組みしながら頭を捻らせた。

「やはり、これは完全な密室殺人だ。

しかも、私がこれまで体験したことのないような特A級の難題。

ぞくぞくするな」


「あ…あんた…」

ヴァネッサが、なおも怪訝な表情を浮かべて私に問うた。

「探偵だとは聞いていたが、殺人事件に出くわしたことがあるのか?」

「あぁ、当然だが?」

私は、ことなげもなく言った。

探偵たるもの、常に事件と隣り合わせの日々を過ごさなければならない。

「これまで、私の周りで起きた殺人事件は数知れず、

私の周りで何人もの人が犠牲になった。

しかし、そんな醜い殺人者を私は一人残らず逮捕してきた。

安心せよ、一般人。そして、恐怖せよ、殺人犯。

私がここにいる限り全ての事件は瞬く間に解決する」


そう言って、私は思わず高笑いした。


一同に絶句していたが、余程私の存在を頼もしく思ったことだろう。

いや犯人である事に恐れをなしたか。


そのどちらかだろう。


「とにかく、このホテルはただ今より全て私の監視下に置かせてもらう。

明日、警察がやってくる前にこの密室の謎を解明し、犯人を暴いて見せよう」



「あの…」

食事を終えて、空になった皿を持ったアダムが、部屋の隅っこでうずくまりながら

こっちを見ていた。


「どうしたのかね?」

「ここに、こんなテープレコーダーがあるんですが。

まぁ、今時カセットもないと思うんですけど、MDとかiPodだとか

ややこしいんで、テープレコーダーって事にしてあるんですが…」

「それがどうしたというのだね?」

全く素人はこれだから困る。


この専門家に全て任せておけばいいものを。

好奇心は猫をも殺すという言葉を知るべきだ。


「いや、ずっとなんか起動しててですね。もしかしてと思って…」

そう言って、彼は、皿に残ったソースをぺろぺろと舐めつつ、

(なんとはしたないことだろう)

巻き戻しボタンを押した。

そして、再生。



「ぎゃあああぁぁあぁぁぁぁぁぁああああ」




耳をつんざく様な叫び声が響き渡った。

すぐに、その声はやんだが、それと同時にある確証を得た。


「この男は、食事時に殺されたのではない。あらかじめ、カセットテープに

音声を吹き込み、全員が集まる時間に

この叫び声が聞こえるように仕組んだのだ」


私は、そう判断した。


「よって、これで、全員のアリバイは崩れることになる。

まだ密室の謎は解けないがそんなことはどうでもいい。

全て犯人が話してくれるはずだ」


「何だよ、あんた犯人がわかったって言うのかい?」

ヴァネッサが問いかける。

「もちろんだとも」


そう言って、つかつかとテープレコーダーに私は歩み寄り

再び先ほどの音声を再生した。


「ぎゃあああぁぁあぁぁぁぁぁぁああああ」



「そう、まさかルールムが自分で自分の叫び声を録音するはずがない。

よって、このテープを作った者が犯人だ」


キメ顔で私はそう言った。


「だから、それは誰なのですか?早々に解決してもらわないと、

ホテルの名前に傷が。

いや、もうすでに人が死んでいる時点で泥を塗られたものなのですが」

「本当にそうですか?」

私は、支配人であるシリオットに詰め寄った。

「率直に言いましょう。あなたが殺したんじゃないですか?シリオットさん?」


シリオットは、何かを恐れるかのように

キョロキョロと周りを見渡し始めた。


「違います。私はやってません。そもそも、何を証拠に?」

「このカセットテープの声」

私は、レコーダーの中身を指差す。

「あなたの声に似ていませんか?

そもそも、こんな所にレコーダーがある時点で不審に思うべきだった。

最初からあなたは、ルルームさんを殺すつもりで

ここにこれを置いたんじゃないですか?」

「ルールム様では?」

「支配人。そんな事言ってもごまかせませんよ。

さぁ、白状してください。どうやって、この密室殺人を行ったのか」

「ホームル様。大変失礼ですが、テープレコーダーは、全ての客室に

備え付けられています。確かに中身は、存じ上げませんが

そんな事を言うのなら、明日を待って声紋鑑定をかけてみればよろしいのでは?

間違いなく、私ではないとわかることでしょう」


「く…」


痛いところをつかれた。


明日まで待ってしまっていては、警察に手柄を横取りされてしまう。

殺人事件の解決は、私の探偵暦でもっとも輝かしい勲章となっている。

それを奪われるわけにはいかない。

今夜までに、日付が変わるまでに解決しなければならない。

24時以降は眠りの時間。


でないと、朝7時半の日朝キッズタイムに起きられない。


「いいでしょう」

私は、犯人候補の支配人から一歩足を引いた。

「ここは、引き下がりましょう。しかし、心してください。

あなたは疑われていると言うことに」

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