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プロローグ
小高い丘の上にある古い教会。
信心の薄い私にしてみれば、これは資産価値のない「廃墟」だ。
本来ならば、この廃墟の解体にかかる費用を見積もるのが今日の私の国役人としての務めであった。だが、すんでの所で、この廃墟の買取を申し出る者が現れたために、今日はその交渉と案内のためにここを訪れている。
「どうだ、見ての通りの朽ち果て様なんだがな。その…提示の条件のまま交渉を進めていいのか?」
私は男に尋ねる。かなり、訝しげな顔をしていたかもしれない。なんせ、本来なら費用を投じて解体しようという建造物を金を出して買い取った上に、補修やその後の教会としての運営も一手に請け負うというのだ。役所としては非常にありがたい限りなのだが、ここまで都合のいい話となると逆に怪しく思ってしまうものだ。
「ああ、もちろんだ。」
男はそう答えて、契約書にサインをした。
私はその契約書を受け取り確認をする。
"Archer"
均整のとれた美しい字だ。
少し気が引けたが、その下に私のサインを追記する。
"Brams"
ちっ。我ながら国役人に似つかわしくない粗末な字だ。