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下宿屋の夫人

作者: 大空東風

 ええ、わたくし、若い人たちとお話しするのがとても好きなんですの。


 やっぱり、若い人たちと話していると楽しいですもの。若くて元気いっぱい。一緒にいるだけで、こちらまで若返った気になりますわ。

 『その気になった』だけで、わたくしの皺が減るわけじゃありませんがね。そこが少しだけ残念ですわ。ふふふ。

 とにかく、若い人たちのお世話をするのが、楽しいんですのよ。

 生き甲斐ですわ。

 お花を飾ったり、お食事を用意したり……


 ほら、最近の若い人たちはご自分で料理をしませんでしょう?

 ちょっと行けばコンビニなどがありますし、スーパーでも美味しそうなお惣菜やお弁当が、たくさん並んでおりますからね。それも若い人たちが好む、揚げ物やお肉ばかり! 味付けは塩辛すぎます!


 わたくし、お節介だとはわかっておりますの。


 でも、心配になりますのよ。年ですかねえ、偏った食事や不規則な生活というのは、どうにもがまんなりませんの。


 ええ、わかっておりますのよ。


 若い人とは、そういうものですもの。わたくしの主人もそうでしたもの、部屋は散らかしっぱなしでまるでゴミ箱、食べるものといえば買ってきたお惣菜か、インスタントのもの(その当時はコンビニはありませんでしたの)。

 明け方近くに寝て、昼過ぎに起きる……夜中にはばか騒ぎ。

 そんな毎日ですよ、若い頃というのは。

 まあ、ここにいらした若い人たちは、わたくしの主人にそっくり!

 顔じゃございませんよ、その暮らしぶりっていうことです。ふふ、誤解なさらないでね……


 ああ、お話がそれてしまいましたわね、ええと、どこまで言いましたかしら?

 そうそう、それで、わたくしが下宿屋を営んでおりますのも、若い人たちにちゃんとした生活をしてほしいということなんですの。

 いえ、それほど厳しいことを言っているわけじゃありませんわ。だって、わたくしは母親ではないんですもの。

 でも、時折思いますわ……わたくしには子供がおりませんから、若い人たちを見ていると、きっとこのようなことをしていたのだろう、って。

 学校がどうの、食事がどうの、バイトがどうの、と食卓を囲んで楽しくお話をしていたんだろう、って……


 ああすみません。お忘れになって、今のことは。


 とにかく、わたくしとしては若い人たちがいてくれることは、とても嬉しいことですの。家賃を格安に設定しているのもそのためですわ。

 ええ、まあ、ときには乱暴な人も来ますけれど、そういった人はごくまれですし、退去もしてもらいます。そりゃ、わたくしにも管理する責任がありますからね、他の下宿人に迷惑がかからないよう、なんとかしなければなりませんから。


 この下宿にはいろんな人が来ますわ。


 お料理ができない女の子には、わたくしがお料理を教えました。

 髪の毛が逆立った男の子がいましたけれど、根は優しい子でしたよ。

 学校にいかなくなって部屋に引きこもってしまった子もいました。


 この下宿屋に馴染めず、毎日泣いている子もいましたし、

 昼夜問わずうろうろしている子、

 物を勝手に壊したり動かしたりする子……

 おびえている子もいましたが

 そういう子たちは、わたしがなんとか落ち着かせさせるんですよ。



 下宿人の子たちには、他にどこへも行くことができませんからね!



 とにかく、いろんな若い方がたくさん!

 わたくしは楽しい毎日ですよ。

 

 ええ、それであなたに見ていただきたいのは、この部屋なんです。

 家具などは備え付けなのですよ。布団も下宿のものなので、ここに来る人は着替えやパソコンを持ってくるだけで十分なんですが……

 このお部屋。

 先月、ある若い方が入居されたんですけどね、ご覧の通り!

 いなくなってしまったのです!

 数日前から気配がしませんの。




 少しの気配もありませんの!




 夜中に現れるかと思って待ってみても、物音ひとつしませんし、その筋の専門家に頼んでみたのですが、どうやら本当にいなくなってしまったようなんです。


 急なことで、わたくしも戸惑ってしまいましたが、ずっとこのままってわけにもいけないでしょう?


 だから、新しい下宿人を募集したわけですの。


 あなた、運がよかったですわね、ふふふ。


 どうしますか?

 他にも幾つか問い合わせがありますの。早い者勝ちですわ……

 ええ、お決めになります?


 それはよかった!

 ここでは、みなが家族のように暮らしておりますの。最初は少し窮屈に感じるかもしれませんが、じきに慣れますわ。


 よかったですねぇ、新しい家族ができましたわね!



 ええ、他の人たち?




 今日もいますわ。





 ずっとあなたを興味津々に見ておりますのよ。





 お気づきになりませんでしたか?





 あなたがおいでになることを、とても喜んでいらっしゃいますよ……








 さて、それでは手続きをいたしましょう。

 とても簡単でございますからね。

 ええ、この部屋でいたしますのよ、だってあなたがこの部屋の下宿人になるわけですからね。









 そうそう、ひとつだけ決まり事がありますの。

 とても大事なことですのよ。忘れるところでしたわ……







 決してわたくしを恨んだりしないでくださいね……













 そういう下宿屋ですから。
















 そうそう、あなたのご遺体は、事件に遭遇したとしてご家族にお渡ししますから、安心してくださいね。


 ようこそ、わたくしの下宿屋へ。


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