【怪談注意】読切『聞こえない音』
ホラー企画投稿です。
よろしくお願いします。
夕方の部室。
一年生の俺達がボールの片づけをやらされてる間に、先輩たちはすでに帰っていた。
「いやー、今日の練習キツかったな。」
友人の田中が着替えながら愚痴をこぼす。
「大会も近いしな。それにしても監督、張り切りすぎだって。」
汗ばんだ肌に、制服のワイシャツが張り付く。
梅雨があけたばかりの季節に、冷房もないロッカーは地獄そのものだった。
「うおっ!?」
急に田中が飛び退き、耳をふさぐ。
「……ビックリした。何の音!?」
「音?俺には何も聞こえなかったけど。」
部室にはお互いの声と、遠くで鳴くセミの声。
「耳元で虫でも飛んだんじゃねえの?」
「そんな音じゃなかったけどなぁ…。」
普段は豪快なくせにビビりな奴。
でも、サッカーは上手いんだよな。
部室の鍵を閉めて校門へ歩き出す。
部活終わりでもまだまだこんなに明るい。暑さもだいぶ残っていた。
「今日ラーメンでも食ってく?」
「わりぃ、今日は俺パスで。」
昨日、母親とケンカしてしまったからな。今日こそは早く帰らないと。
「そっか。じゃあまた明日な。」
「おう、また明日。」
俺は家に帰って洗濯物を出すと、泥だらけのユニフォームを見た母親にまた怒られたのだった。
次の日の朝。
教室に入ると、いつもの元気な声が飛んでこない。
「あれ?珍しいな。」
いつも自分より早く来るはずの田中が、まだ教室にいなかった。
その後も続々と集まるクラスメイト。
それでも、その友人だけはついぞ来なかった。
「あいつ来ないな。もう先生来ちゃうぞ。」
キーンコーンカーンコーン
朝の予鈴と共に担任が教室に入ってくる。
「席着けー。」
立って喋っていた奴も、みんな自分の席に戻っていった。
「授業の前にみんなに言っとくことがある。えー、昨日の帰りに田中が事故った。命に別状は無いが、しばらくは入院だ。」
事故?まじかあいつ。それで今日来てないのか。
「みんなも気をつけろよー。じゃあ教科書開いてー。」
帰りってあの後だよな。……ラーメン、一緒に行ってやれば良かったかな。
そう思いながら授業を聞き、昼メシの購買で何を買おうか考えた。
ようやく放課後。
今日もグラウンドは蒸し暑い。
「じゃあ今日はチームに分かれて練習試合だ。呼ばれた者からゼッケン着けろー。」
今日も監督は張り切っている。その証拠に、試合中の怒声がいつもより大きい。
試合も終盤、俺はボールを受けると、ドリブルで華麗に相手をかわしていく。
キーパーとの一騎打ち。
右か。左か。
「ひっ!」
悲鳴と共に、突然相手キーパーが頭を抱えて倒れ込んだ。
ボールを止めるために飛び出したのではない。
急にどうしたんだ?俺、まだシュートしてないぞ?
「どうした!?大丈夫か!?」
慌ててかけつける監督とチームメイトたち。
あっけに取られていた自分も、遅れて駆けつける。
「み…耳が…!」
……耳?
近くに来てわかったことは、どうやら頭を抱え込んでいるんじゃあなく、両耳を強く塞いでいたことだった。
倒れたまま、ずっと耳を塞いでいるキーパーは、こちらの呼びかけにも応じることができず、ただただ苦しんでいた。
「おい!誰か救急車呼べ!」
先輩が慌てて職員室へ駆け出していく。
救急車の到着は思ったよりも早く、すぐさま運び込まれると、救急車は慌ただしく出発していった。
「どっかぶつかってたか?」
近くにいた自分に、先輩は質問をする。
「わ、わかりません。熱中症ですかね?」
もちろん自分にも訳がわからない。ひねり出した答えに、自分でも納得できないまま、部活は急遽中断、そのまま帰宅となった。
次の日。
連日の暑さも、今日は雲が多く出ていて和らいでいた。
放課後のいつもの教室。
いつもなら授業が終わるとすぐさま部活だが、昨日の一件もあったため、今日は全部活動がお休みとなっていた。
「バレー部も今日休み?」
「そうそう、サッカー部なんだって?昨日の救急車。」
「おかげで今日休めてラッキー。」
女子と話す貴重な機会。
「そういえばさ。」
誰が最初に振ったのか、話はいつの間にか怪談話になっていた。
「学校の七不思議ってあるじゃん。」
「二階の教員トイレ。あそこさ、出るらしいよ。」
本当かどうかも怪しいオバケ情報。
女子は怖がっていたが、夏の薄暗い夕暮れにはぴったりの話題だった。
「じゃあさ、音楽室の花子さん、知ってる?」
自分も負けじと、誰に聞いたかも覚えていない逸話を披露する。
えーうそー。こわーい。
女子の怖がる声に、面白がる。
「ねえ知ってる?こういう怖い話してるとさ。幽霊が寄ってきちゃうんだってさ。」
「ちょっとー、そういうのやめてよー。」
自分も聞いたことがあった。面白がる人間に腹を立てて呪われるだのなんだの。
そんなことがあるわけないだろうに。
「きゃっ!?」
突然、女子二人が耳を塞ぎながら悲鳴を上げた。
「え、なに。どうしたん。」
男子がニヤニヤしながら聞く。
「何って。今のパーンって音、聞こえなかったの?」
そのセリフに既視感を覚えた俺は、一瞬で鳥肌が立った。
また、音…?
そういえば、昨日のキーパーも…
「…耳って、音?」
ふいに言葉が出てくる。
クラスメイトたちがふざけて話してる声も届かないほど、昨日までの出来事が頭の中を駆け巡った。
考えれば考えるほど、嫌な想像ばかりが頭でいっぱいになった。
ゾッ
鳥肌と共に身震いが自分を襲う。
「おい、お前ら。帰り気をつけろよ…?」
「は?なに。どういうこと?」
自分でも意味不明な注意。
「怖がらせようとしてもダメだよー。もうお腹いっぱい。」
「いや、そういうんじゃなくて…。
ビビらすとかそういうんじゃない。
でも、なんだか。すごい嫌な予感がする。
次の日の教室。
クラスメイトたちが自分の席までやってきて言った。
「おい、聞いたか?あいつら二人、昨日家に帰ってないらしいぞ。親から学校に連絡があったって。」
え…。
二人とも…?
「なにそれ。誘拐?家出?」
もう一人がおどけながら言った。
「なあなあ。お前はどう思うよ。」
「え?あ、あぁ。何か言った?」
「おいおい、どうした?顔色悪いぞ?」
びっくりするくらいの汗が吹き出してくる。
考えれば考えるほど嫌な予感。
心配された俺は保健室に連れていかれると、そのまま早退させられた。
帰り道。家までの距離が遠く感じる。
田中、キーパー、女子二人。
確かにみんな『音』を聞いたあとに何かしらが起きている。
なんだ?音っていったい……。
俺にも、聞こえたら……やばい?
カァー!!!
ビクッと身じろぎする。
「な、なんだ。カラスか。」
驚かせやがって。
でも……そうか。音って…俺にはみんなが何を聞いたか、わからないんだよな…。
じゃあ、もし俺にも…聞こえたら…。
少し考えたあと、背筋がゾクッとした。
おもむろにポケットからイヤホンを取り出すと、耳にはめた。
いつもなら注意されるほどの大きな音。
「要は、聞こえなきゃいいんだよ。聞こえなきゃ。」
自分に言い聞かすように大きな声で喋る。
人の声。
自動車の音。
鳥の声に犬の鳴き声…。
普段は気にも留めない音が、イヤホン越しでも何故かやけに大きく聞こえてくる。
もういやだ…。
聞きたくない。
何もかも…。
ぜんぶ……。
下を向いてブツブツと呪文のように呟きながら、横断歩道に踏み出す。
ドンッ!
瞬間、目の前の景色が飛んだ。
気づいたら全身の痛みと共に、空を見上げていた。
「きゃー!」
「人がはねられたぞ!」
周りから何か、慌てたような声が聞こえてくる。
「きゅ――う車を――べっ!」
でも、どんどんその声も遠くなっていった。
さっきまで煩かった音も、不安も、意識さえも。どんどん薄れていくのを感じていた。
あぁ、なんだ。
簡単なことだったんだ。
これでもう、聞こえない。
ご拝読ありがとうございました。
このお話、実体験を元にしております。友人たちと怖い話をしていたら、自分にだけ聞こえない音がありまして。
怖い話していると、寄ってきちゃうんでしょうねえ。
うわっ!びっくりした。
え、あなた今の音
聞こえなかったんですか?




