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【怪談注意】読切『聞こえない音』

作者: さくらもち
掲載日:2026/08/15

ホラー企画投稿です。

よろしくお願いします。

 夕方の部室。

 

 一年生の俺達がボールの片づけをやらされてる間に、先輩たちはすでに帰っていた。

 

 「いやー、今日の練習キツかったな。」

 

 友人の田中が着替えながら愚痴をこぼす。

 

 「大会も近いしな。それにしても監督、張り切りすぎだって。」

 

 汗ばんだ肌に、制服のワイシャツが張り付く。

 梅雨があけたばかりの季節に、冷房もないロッカーは地獄そのものだった。

 

 

 「うおっ!?」

 

 

 急に田中が飛び退き、耳をふさぐ。

 

 「……ビックリした。何の音!?」

 

 「音?俺には何も聞こえなかったけど。」

 

 部室にはお互いの声と、遠くで鳴くセミの声。

 

 「耳元で虫でも飛んだんじゃねえの?」

 

 「そんな音じゃなかったけどなぁ…。」

 

 普段は豪快なくせにビビりな奴。

 でも、サッカーは上手いんだよな。

 

 部室の鍵を閉めて校門へ歩き出す。

 部活終わりでもまだまだこんなに明るい。暑さもだいぶ残っていた。

 

 「今日ラーメンでも食ってく?」

 

 「わりぃ、今日は俺パスで。」

 

 昨日、母親とケンカしてしまったからな。今日こそは早く帰らないと。

 

 「そっか。じゃあまた明日な。」

 

 「おう、また明日。」

 

 俺は家に帰って洗濯物を出すと、泥だらけのユニフォームを見た母親にまた怒られたのだった。

 

 

 

 


 次の日の朝。

 教室に入ると、いつもの元気な声が飛んでこない。

 

 「あれ?珍しいな。」

 

 いつも自分より早く来るはずの田中が、まだ教室にいなかった。

 その後も続々と集まるクラスメイト。

 それでも、その友人だけはついぞ来なかった。

 

 「あいつ来ないな。もう先生来ちゃうぞ。」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 朝の予鈴と共に担任が教室に入ってくる。

 

 「席着けー。」

 

 立って喋っていた奴も、みんな自分の席に戻っていった。

 

 「授業の前にみんなに言っとくことがある。えー、昨日の帰りに田中が事故った。命に別状は無いが、しばらくは入院だ。」

 

 事故?まじかあいつ。それで今日来てないのか。

 

 「みんなも気をつけろよー。じゃあ教科書開いてー。」

 

 帰りってあの後だよな。……ラーメン、一緒に行ってやれば良かったかな。

 

 そう思いながら授業を聞き、昼メシの購買で何を買おうか考えた。

 

 

 

 

 

 ようやく放課後。

 今日もグラウンドは蒸し暑い。

 

 「じゃあ今日はチームに分かれて練習試合だ。呼ばれた者からゼッケン着けろー。」

 

 今日も監督は張り切っている。その証拠に、試合中の怒声がいつもより大きい。

 

 試合も終盤、俺はボールを受けると、ドリブルで華麗に相手をかわしていく。


 キーパーとの一騎打ち。


 右か。左か。

 

 

 「ひっ!」

 

 

 悲鳴と共に、突然相手キーパーが頭を抱えて倒れ込んだ。

 ボールを止めるために飛び出したのではない。

 

 急にどうしたんだ?俺、まだシュートしてないぞ?

 

 「どうした!?大丈夫か!?」

 

 慌ててかけつける監督とチームメイトたち。

 

 あっけに取られていた自分も、遅れて駆けつける。

 

 「み…耳が…!」

 

 ……耳?


 近くに来てわかったことは、どうやら頭を抱え込んでいるんじゃあなく、両耳を強く塞いでいたことだった。

 倒れたまま、ずっと耳を塞いでいるキーパーは、こちらの呼びかけにも応じることができず、ただただ苦しんでいた。

 

 「おい!誰か救急車呼べ!」

 

 先輩が慌てて職員室へ駆け出していく。

 

 救急車の到着は思ったよりも早く、すぐさま運び込まれると、救急車は慌ただしく出発していった。

 

 「どっかぶつかってたか?」

 

 近くにいた自分に、先輩は質問をする。

 

 「わ、わかりません。熱中症ですかね?」

 

 もちろん自分にも訳がわからない。ひねり出した答えに、自分でも納得できないまま、部活は急遽中断、そのまま帰宅となった。

 

 

 


 

 次の日。

 

 連日の暑さも、今日は雲が多く出ていて和らいでいた。

 

 放課後のいつもの教室。

 いつもなら授業が終わるとすぐさま部活だが、昨日の一件もあったため、今日は全部活動がお休みとなっていた。

 

 「バレー部も今日休み?」

 

 「そうそう、サッカー部なんだって?昨日の救急車。」

 

 「おかげで今日休めてラッキー。」

 

 女子と話す貴重な機会。

 

 「そういえばさ。」

 

 誰が最初に振ったのか、話はいつの間にか怪談話になっていた。

 

 「学校の七不思議ってあるじゃん。」

 

 「二階の教員トイレ。あそこさ、出るらしいよ。」

 

 本当かどうかも怪しいオバケ情報。

 

 女子は怖がっていたが、夏の薄暗い夕暮れにはぴったりの話題だった。

 

 「じゃあさ、音楽室の花子さん、知ってる?」

 

 自分も負けじと、誰に聞いたかも覚えていない逸話を披露する。

 

 えーうそー。こわーい。

 

 女子の怖がる声に、面白がる。

 

 「ねえ知ってる?こういう怖い話してるとさ。幽霊が寄ってきちゃうんだってさ。」

 

 「ちょっとー、そういうのやめてよー。」

 

 自分も聞いたことがあった。面白がる人間に腹を立てて呪われるだのなんだの。

 

 そんなことがあるわけないだろうに。

 

 

 「きゃっ!?」

 

 

 突然、女子二人が耳を塞ぎながら悲鳴を上げた。

 

 「え、なに。どうしたん。」

 

 男子がニヤニヤしながら聞く。

 

 「何って。今のパーンって音、聞こえなかったの?」

 

 そのセリフに既視感を覚えた俺は、一瞬で鳥肌が立った。

 

 

 また、音…?

 

 

 そういえば、昨日のキーパーも…

 

 「…耳って、音?」

 

 ふいに言葉が出てくる。

 

 クラスメイトたちがふざけて話してる声も届かないほど、昨日までの出来事が頭の中を駆け巡った。

 考えれば考えるほど、嫌な想像ばかりが頭でいっぱいになった。

 

 ゾッ

 

 鳥肌と共に身震いが自分を襲う。

 

 「おい、お前ら。帰り気をつけろよ…?」

 

 「は?なに。どういうこと?」

 

 自分でも意味不明な注意。

 

 「怖がらせようとしてもダメだよー。もうお腹いっぱい。」

 

 「いや、そういうんじゃなくて…。

 

 ビビらすとかそういうんじゃない。

 

 でも、なんだか。すごい嫌な予感がする。

 

 

挿絵(By みてみん)

 

 

 次の日の教室。

 

 クラスメイトたちが自分の席までやってきて言った。

 

 「おい、聞いたか?あいつら二人、昨日家に帰ってないらしいぞ。親から学校に連絡があったって。」

 

 

 え…。

 

 

 二人とも…?

 

 

 「なにそれ。誘拐?家出?」

 

 もう一人がおどけながら言った。

 

 

 「なあなあ。お前はどう思うよ。」

 

 

 「え?あ、あぁ。何か言った?」

 

 

 「おいおい、どうした?顔色悪いぞ?」

 

 

 びっくりするくらいの汗が吹き出してくる。

 考えれば考えるほど嫌な予感。

 

 心配された俺は保健室に連れていかれると、そのまま早退させられた。

 

 

 

 帰り道。家までの距離が遠く感じる。

 

 田中、キーパー、女子二人。

 

 確かにみんな『音』を聞いたあとに何かしらが起きている。

 

 なんだ?音っていったい……。

 

 俺にも、聞こえたら……やばい?

 

 

 カァー!!!

 

 

 ビクッと身じろぎする。

 

 「な、なんだ。カラスか。」

 

 驚かせやがって。

 

 でも……そうか。音って…俺にはみんなが何を聞いたか、わからないんだよな…。

 

 じゃあ、もし俺にも…聞こえたら…。

 


 少し考えたあと、背筋がゾクッとした。

 

 おもむろにポケットからイヤホンを取り出すと、耳にはめた。

 

 いつもなら注意されるほどの大きな音。

 

 「要は、聞こえなきゃいいんだよ。聞こえなきゃ。」

 

 自分に言い聞かすように大きな声で喋る。

 


 人の声。

 自動車の音。

 鳥の声に犬の鳴き声…。

 

 

 普段は気にも留めない音が、イヤホン越しでも何故かやけに大きく聞こえてくる。

 

 

 もういやだ…。

 

 

 聞きたくない。

 

 

 

 何もかも…。

 

 

 

 ぜんぶ……。

 

 

 

 下を向いてブツブツと呪文のように呟きながら、横断歩道に踏み出す。

 

 

 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 

 

 瞬間、目の前の景色が飛んだ。

 

 気づいたら全身の痛みと共に、空を見上げていた。

 

 「きゃー!」

 

 「人がはねられたぞ!」

 

 周りから何か、慌てたような声が聞こえてくる。

 

 「きゅ――う車を――べっ!」

 

 でも、どんどんその声も遠くなっていった。

 

 

 

 さっきまで煩かった音も、不安も、意識さえも。どんどん薄れていくのを感じていた。

 

 

 あぁ、なんだ。

 

 

 簡単なことだったんだ。


 

 

 

 

 


 これでもう、聞こえない。

 

 



ご拝読ありがとうございました。


このお話、実体験を元にしております。友人たちと怖い話をしていたら、自分にだけ聞こえない音がありまして。

怖い話していると、寄ってきちゃうんでしょうねえ。



うわっ!びっくりした。

え、あなた今の音



聞こえなかったんですか?

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