鉄の傘
どれくらい時間が経ったのだろう…。
雨音の激しさに、今僕はこの世で独りなのではないかと錯覚する。
「俺たち、付き合うことにしたんだ」
絡ませた指を僕に見せつけならアイツは言った。
親友の恥ずかしそうな表情と、彼女の照れくさそうな笑顔が脳裏にこびりついて離れない。
そこからの記憶はない。気づいたら傘もささずに公園のベンチに座っていた。
僕はアイツの一番近くにいたのに、なんで気づかなかったんだろう。
僕に向けられたあの笑顔も、あの仕草も、全部好きだったのに、“友達”としてだったんだよな。
こんな甘い考え…もし僕が砂糖なら、この雨に打たれ続けて溶けてしまいたい。
すると急に雨が当たらなくなり後ろから
「風邪ひくぞ」
とアイツの声が聞こえた。
涙で濡れた瞳を雨で誤魔化し、少しだけ振り返るとアイツは俺に傘をさしてくれていた。
そして今はアイツもずぶ濡れだ。
「…オマエのが風邪ひくだろ」とボソッと呟いた。
また前を向き、アイツに背を向ける。
「彼女はどうしたんだよ」
「家まで送っていった。傘持ってなかったし。」
その言葉に胸がチクっと傷んだ。
「そのまま一緒にいればよかったじゃん」と皮肉混じりに言うと、アイツは突然僕の肩を掴み自分の方に僕の体を向けて憤った。
「いきなり目の前で顔面蒼白になって走り去った親友見て、放っておけるわけないだろ!!」
その残酷な優しさの矢に僕は心臓を貫かれた。
傘が地面に落ちる。
こんな時ーー
アイツの胸に飛び込めたらいいのに。
…いや、出来るわけない。
なぁ、神様。なんで僕を“女”に産み落としてくれなかったんだよ。




