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第49話 戦士

 三層の通路で、ガルシュタインの班と鉢合わせた。


 角を曲がった先で、向こうも曲がってきた。どちらも予期していなかった。双方が一瞬止まった。


 ガルシュタインの班は五人だった。装備は重く、素材回収用の袋を背負っている者が二人いた。先頭に立っていた人間を、恒一はすぐに他の四人と区別した。


 大きかった。身長は恒一の倍近い。肩幅が広く、革と金属を組み合わせた重装備が体型に合わせて作られていた。左手に大盾——体の半分ほどの大きさがある。右手は空きで、腰の後ろに長柄の斧が収まっていた。三十代、男性。目が細く、動いていた。前を見ているのではなく、空間全体を確認していた。天井、壁、床、人員の配置。一秒もかけずに全部見ていた。


 視線がヘルマで一度止まった。それからベック、ノル、最後に恒一のところで来た。


 恒一のところで、一拍だけ長く止まった。


「ドラク商会か」


 男が言った。ヘルマに向けた言葉だった。


「そうだ。区画は東側を予定している」


「こっちも東だ。一時的に同じ通路を使うことになる」


「合流するか、それとも交互に通過するか」


 男が少し考えた。


「前方に大型の反応がある。うちの敵意感知(センスエネミー)が拾った。単独より合流した方が早い」


「わかった」


 ヘルマが答えた。恒一は頷かなかった。聞いていた。ヘルマの返答が速かった——男の情報提供を信頼したからだ。信頼する根拠がある相手、とヘルマが判断している。


 二つの班が合わさって動き始めた。ガルシュタインの班が先頭、ドラク班が後に続いた。恒一は列の中で位置を確認した。自分の前がノル、後ろにベックがいた。


「お前、前に出るな」


 男の声が後ろに飛んできた。恒一に向けていた。


「ガキは後ろにいろ」


 振り返らなかった。ヘルマを見た。ヘルマは前を向いていた。何も言わなかった。


 恒一も何も言わなかった。


 男の言葉は正確だった。この身体の見た目は十四歳だ。知らない人間が見れば、なぜ三層に子供がいるのかと思う。男は合理的に動いている。感情的な侮辱ではなく、能力評価の結果だった。


 魔力感知(センスオーラ)を広げた。前方——男が言っていた大型の反応がある。一体。動いていない。待機しているか、眠っているか。反応の密度が三層の常駐種より高い。一層も二層も違う質だった。


「前方の反応を確認中です。一体、静止中。反応の密度が三層の常駐種より高い」


 男が振り返った。初めてまともに恒一を見た。


「感知系か」


「はい。魔力感知(センスオーラ)です」


「距離は」


「六十歩ほど。前方の分岐を右に入った先だと思います」


 男が前を向いた。ヘルマに言った。


「使えるな、それ」


「新入りだ」


「新入りで三層に来てその感知精度は、普通じゃない」


 ヘルマが答えなかった。


 分岐を右に曲がった。前方の通路が広くなっていた。天井が三層にしては高い。大空間だった。その奥に、変異動物がいた。


 恒一は息を止めた。


 これまで見た変異動物の中で、いちばん大きかった。四足だったが、前脚が後脚より長く、体が前傾している。甲殻に覆われていた——三層の常駐種の突起とは違う、連続した板状の硬質な甲殻。頭が小さく、目が二つだけ。しかし下顎が大きく、顎の力で地面の岩を噛み砕く形跡が周囲にあった。


 男が斧を取り出した。長柄が腰の後ろから前に回ってきた。


「起きる前に終わらせる。感知——今の状態は」


「眠っているか、休止中。こちらに気づいていません」


「距離を詰める。静かに」


 九人が静かに動いた。恒一は後方で魔力感知(センスオーラ)を維持した。変異動物の反応を追いながら、周囲に他の個体がいないかも確認した。


 一体だけだった。


 男が先頭で二十歩、十歩と距離を縮めた。他の四人がそれぞれ位置を取った。恒一には分かった——あれは、陣形だった。魔法なしに成立する陣形。先頭の男が前から圧をかけ、左右の二人が逃げ道を塞ぎ、後ろの二人が退路を確保する。地形に合わせて各人の立ち位置が計算されていた。


 変異動物が反応した。目覚めた。


「来ます」


 男がすでに動いていた。


 長柄の斧が横に振られた。甲殻に当たった。金属を叩く音がした。甲殻の一枚が剥がれた。それだけで、変異動物が後退した。痛みよりも衝撃だった——あの打撃力で、甲殻が一枚剥がれた。残った甲殻も、次の一撃を受ければどうなるか。


 変異動物が方向を変えた。左の壁に沿って逃げようとした。左の二人が塞いだ。前に戻ろうとした。男が正面に立っていた。右を向いた。


「左後ろの甲殻に継ぎ目があります」


 恒一が言った。魔力感知(センスオーラ)で拾っていた。甲殻と甲殻の接続部分の密度が、右側より左後ろの方が薄い。


 右の一人が動いた。男が連動して斧を引いた。変異動物が一瞬前を向いた。その隙に右の一人が左後ろの継ぎ目を突いた。変異動物が大きく揺れた。男の斧が落ちた。


 終わった。


 静かになった。


 男がこちらを見た。


「継ぎ目の情報、どこで把握した」


魔力感知(センスオーラ)です。甲殻の密度の差が反応の差として出ました」


「それを戦闘中に拾って伝えるか」


 男の声に、驚きはなかった。ただ確認していた。


「今回はたまたま見えていました」


「……たまたまでも、役に立った」


 男がそれだけ言った。恒一に向けてではなく、空間に向けて言ったような言い方だった。


 鋼甲獣(スチールシェル)の素材回収が始まった。ガルシュタインとドラク、双方で分担した。ヘルマが取り分の交渉をした。三対二の比率で合意した——相手の班員が多い分、攻撃の主体はガルシュタインだった。


 通路を戻る途中、男が前から言ってきた。


「名前は」


「コイチです」


「リガードだ」


 それだけだった。


 入坑口まで戻って、二つの班は別れた。リガードは一度も振り返らなかった。そのまま自分の荷車の方へ歩いていった。


 ドラク商会に戻る道を歩きながら、恒一はリガードの動きを頭の中で再生していた。


 魔法を使わなかった。一度も。それでいて、ヘルマの精霊魔法(スピリットアーツ)やノルの神聖魔法(ディヴァインアーツ)と同じことを、別の手段でやっていた——地形を読んで陣形を作り、退路を確保し、連携を取る。魔法で補える要素を全部、身体と位置と判断で補っていた。


 それがどれだけの積み重ねの上にあるか、恒一には想像がついた。


 「ガキは後ろにいろ」——あれは正しい評価だった。この身体で前に出ても、役に立たない。しかし後ろで感知を続けることはできる。リガードはそれを後半で認識した。最初の評価が変わったかどうかは、わからなかった。


 わからなくていい、と恒一は思った。まだ、それだけのことだ。



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