第93話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
街の外れにある「崖岬」は、その名の通り崖にある岬だ。
今まで何度も、サスペンスドラマの撮影が行われたらしい。
追い詰められた犯人が行き着くのに、丁度いい大きさの崖。
だからか、結構、頻繁にテレビや映画の撮影隊が訪れる、我が街の名所でもある。
そんな崖岬に、これまた丁度いいサイズの神社があり、岬なのでこれまた絵になる丁度いい灯台も。
そういう場所なので、当然駐車場もなかなかの広さを確保している。
私達が到着すると、駐車場待ちの列になっていた。
やっぱり元旦なので、みんな初詣。
ここの「崖岬神社」は縁結びのご利益もあるそうなので、若いカップルに人気があるのも頷ける。
ついさっき入籍したばかりの私達は、もう「縁結び」しちゃっているけれど、なんとなく「初詣たい」と思って来たのだった。
初詣たいってなによ?と言われちゃうかもしれないけれど、今はそれがしっくりくるので使うけどさ。
30分ぐらい待って、ようやく車を停められた。
やっぱり初詣だから、みんなそれほど滞在時間は長くない。
神社へ続く参道をはぐれない様しっかり手を繋いだ。
ぞろぞろと歩く人の波に乗っかって、ゆっくりゆっくり進むと言うより、勝手にどんどん押されて歩く感じ。
これもまた、初詣ならでは。
参道の両端には美味しい匂いをさせている、食べ物屋さんの屋台がいっぱい。
まだ神様にお参りしていないけれど、今、このタイミングで食べたい物を買わないと、帰りは人の波が逆方向なので難しいと感じた。
石の階段を上って行くと、少しづつお社が見えてきた。
デーンと重厚な造りの神社は、厳かな雰囲気を漂わせている。
お参りする私達は海を背にした形なので、後ろから吹き付ける猛烈に冷たい風が体に堪えた。
私達の番になった。
パンパンと手を叩き、手を合わせて目を閉じた。
心の中で「私達が末長く幸せに暮らせます様に」だの、「少し痩せます様に」だの、「世界中で哀しくて辛い思いをしている人が、幸せに暮らせます様に」だの、「もうちょっと物価が下がります様に」だの、色々考えられるだけの願い事を唱えた。
「ゆりちゃん、そろそろいいかい?後ろの人、まだまだいっぱいだから」
隣で手を合わせていた原さんに声をかけられハッとしてしまった。
「あ、ご、ごめんなさい、長々と…」なんて言いながら、原さんの手を引っ張る形でそそくさとその場から離れた。
「なにそんなに沢山お願いしたの?」
原さんは笑っている。
「え、あの…色々…えへへ」
自分でもちょっと欲張りすぎだったかなと思った。
その後、2人お揃いのお守りを買って、おみくじを引いた。
今年最初の運試し。
すると原さんは中吉、私は大吉だった。
「わ〜!嬉し〜!」
本当に嬉しかった。
ほんのちょっと前に原さんと夫婦になったこともそうだけど、不意に今までの記憶がフラッシュバック。
思い出すと、私は何故か今まで「大吉」を引いたことがなかった。
大概「小吉」や「末吉」、高校から洋裁学校時代なんて5年連続「大凶」だったっけ。
その時はさとみが一緒で、「大丈夫!大丈夫!大凶なんてそうそう入ってないから、逆にラッキーなんだって!」などと励まされたけれど、どうにも納得がいかなかった思い出。
それを考えた時、もしかして今日苗字が変わったから?なんて、自分の都合の言い様に解釈できた。
「そろそろお腹空いたね」
神社の参道の屋台で人の波に押されながら、やっと棒に刺さったフランクフルトを買えた。
それしか買えなかったというか、それを買うのが精一杯だった。
だもんで、お参りの帰り、港の運河沿いにある古い石造り倉庫を改装した和風のお店で、お雑煮を食べた。
お頭付きの大きなエビが入ったそれは、冷えた体をじゅわ〜っと内側から温めてくれた。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




