第91話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
もうちょっとダラダラ寝ていたかったけれど、そういう訳にもいかず、元旦から早起き。
私も原さんも急いで身支度を整えると、まだ薄暗くて寒い外に出た。
駐車場を見ると、大家の純平さん純子さん夫婦となるちゃん家族が待っていた。
「おはようございま〜すで、あけましておめでとうございま〜す!」
原さんと2人で声を揃えた。
「ゆりちゃ〜ん!原さ〜ん!あけましておめでとうなの〜!」
赤い猫耳の毛糸の帽子を被ったなるちゃんが、階段から降りて来た私達にぺこりと頭を下げた。
可愛い帽子は、クリスマスに純子さんからプレゼントされた物。
「なるのマフラー使ってけれて、ありがとうなの」
「こちらこそ、暖かいマフラー編んでくれて、本当にありがとうねえ〜!」
「そうだ!なるちゃん!これ、僕達から…どうぞ」
用意していたお年玉を渡すと、なるちゃん、「わ〜い!わ〜い!ありがとう!」と言って、笑顔で小さくジャンプして。
あ〜、可愛い!
少しづつ空が明るくなってくると、ヒデさんが自分の部屋から大きなスーツケースをゴロゴロさせて出て来た。
「あ、皆さん、おはようございます…もそうだけど、あけましておめでとうございます…あの…どうされたんですか?みんな揃って…」
ヒデさんはポカンとしている。
すると、なるちゃんがすかさず…
「ヒデさんにね、いってらっしゃいって言いたいの」
「あっ!」
みんなが早朝から集まってる理由がわかると、ヒデさんはメガネの下から目に手を当て、ズルッと鼻を啜った。
そして、そのまま「…あ…ありがとう…皆さん…」と続けた。
「や〜ね〜、湿っぽいのは…ささ、ヒデさん、顔をあげてちょうだい…」
純子さんに促され、顔をあげたヒデさんに、純平さんから小さな包みが手渡された。
「…ヒデちゃん、向こうに着いたらさ、連絡ちょうだい…後、そうそう、これ…荷物になっちゃうけど…僕らからの餞別とサンドイッチ…」
それに続けとばかりに、なるちゃんパパさんから、「これも、僕達からの餞別と、やっぱりごめん、荷物になっちゃうけど…ママが焼いたパウンドケーキ…よかったら、飛行機とかででも食べて」と。
更に続けと、私と原さんからも「ヒデさん、向こうに行っても元気でね…私達からも選別と、後、私が縫ったクッション、よかったら、使って下さい」と渡した。
「いやあ、皆さん、本当にありがとうございました…なんか…その…」
ヒデさんの挨拶の途中、「純」の駐車場にタクシーがやって来た。
「いやあ!皆さん、お揃いで…アハッピーニューイヤー!」
タクシーから出て来たのは、坂の途中教会のミシェル牧師。
聞くと、一緒にフランスまで行って、向こうでヒデさんのホームステイ先など色々案内をしてから、2週間ぐらいで戻ってくるそうだ。
「ミシェル先生〜!」
「なるちゃ〜ん!元気でしたか?風邪などひかない様に、気をつけて下さいね〜!また、保育園で会いましょうね〜!」
そう言いながら、ミシェル牧師は腕時計に目をやった。
「おやおや時間が…ごめんなさい…皆さん…では、ヒデさん、行きましょうか!」
ヒデさんがタクシーに乗り込んだタイミングで、あゆみちゃん達がパジャマ姿でアパートのドアをバーンと開けると、バタバタと2人慌ててタクシーまで駆けて来た。
そして…
「ヒデさん!ごめんなさい!私達、寝坊しちゃって!これ!荷物になっちゃって申し訳ないんですけど、これ!どうぞ!」と、紙袋を手渡した。
中身は赤瀬川牧場の牛乳とやっぱり餞別らしい。
「ありがとう!なんか悪いねえ…じゃあ皆さん!行って来ま〜す!」
タクシーの窓を開けて、ヒデさんとミシェル牧師が笑顔で手を振ってくれた。
こちらにいる全員で、「ヒデさん!行ってらっしゃ〜い!」と口々に叫んでお別れとなった。
純平さんと純子さん、そしてなるちゃんと私は、笑って見送るつもりだったけれど、やっぱり涙が出てしまった。
タクシーが見えなくなると、なんだか急に寂しい気持ちになった。
「…もう…会えないのかなあ…」
「いや、会えるよ!きっと!」
原さんの言葉は、なんだか妙に説得力があった。
「そうだね…いつか、必ず会えるよね…うん」
きっと、会える。
いつになるかわからないけれど。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。




