第73話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
もう外はすっかり暗くなっていた。
そう言えば、薄っすらお腹も減っている。
そこへスマホがポロリンと鳴った。
あ…原さん、お仕事終わったんだ…
「お疲れ様でした」の後、「純」で待ってますとメール。
どんな顔で会って、なんて言えばいいんだろう?
そう思いつつ、すぐにでも会いたくて会いたくて。
矛盾する気持ちのまま、「純」で編み物を始めた。
「落ち着け!私」と始めた訳だけど、出だしからわからなくなり大家の純子さんに助けを求めた。
「ああ、ここはね…」
さすが純子さん。
編み物教室を開けるぐらい、詳しくて上手だ。
やり始めてまもないけれど、わかったのは、私は縫い物は得意だけれど、編み物はセンスないってこと。
ん〜…こうして上手な人の傍で手取り足取りじゃないと、1人で編むとなると難しいと感じた。
でも、そんな泣き言は言っていられない。
頑張らなくちゃ!
原さんがランニングする時かぶったら丁度いい様に、帽子を編むんだ。
そうそう、帽子を…編んで…あれ?なんか帽子にしては、頭周りが大きくなってきちゃった様な…
編みかけの輪っかに両手を入れてみる。
あれ?
これじゃ、帽子と言うより腹巻きっぽい。
ダメだ!やり直し。
「純子さん、ごめんなさい、最初からやってもいいですか?」
「うふふ…ゆりちゃん、大丈夫!大丈夫!違うなって思ったら、何度でも解いて編み直せばいいから…」
もう一度、チャレンジ。
まずは1段目をゆっくり編んだところで、原さん到着。
「いらっしゃ〜い!」
「遅れちゃってごめんね」
「え?あ、ごめんなさい…すっかり夢中で…」
本当にそう。
編み物に夢中で取り組んでいると、ここに来たばかりの時の鼻息の荒さもどこへやら。
気持ちもすっかり落ち着いていることに、気づいた。
あ〜、よかった。
さっきのままだったら、私、原さんに前の彼女の悪口とかぶちまけてしまっていたかもしれない。
そんで、原さんに「大丈夫!私は絶対にそんなことしないから」とか、余計なこと言いそうだった。
でも、もう大丈夫。
普段と変わらず原さんと話せる。
「…それ…もしかして…あ…いや…なんでもない」
そう言いかけてやめた原さんは、自分を落ち着かせる様に温かいコーヒーを一口飲んだ。
「うふふ…うふふふふ…」
「なに?どうしたの?嬉しそうだけど…」
原さんに聞かれても、どう答えたらいいのか。
とにかく自分でもブレーキが効かないぐらい、勝手にうふふと笑ってしまう。
「さあさあ、お待たせしたわねえ…温かいうちにどうぞ〜!」
純子さんが運んで来た熱々のグラタンと、ミックスサンド。
一旦手を止め、原さんと向かい合わせでいただく。
食べながら、時々、横に置いた編みかけの毛糸を触った。
暖かいお店の中で、大好きな人と一緒に温かくて美味しいものを食べていると、パジャマを縫いながら怒っていた気持ちが徐々に薄く消えてった。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




