第71話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願いいたします。
あれから色々考えた。
そして、原さんへのクリスマスプレゼントは、「パジャマ」を縫おうと思う。
オーソドックスなパジャマだけど、私の分も色違いかなんかでお揃いにして。
決まってしまうと、気持ちが随分軽くなった。
休みの日、朝から張り切って出掛けた。
毎度お世話になっている手芸屋さんへは、オープン時間に合わせて行った。
うふふ、うふふふふ。
パジャマに良い生地を選びながら、顔がニヤニヤ。
こんな風に好きな人に手作りの物をあげるなんて、生まれて初めてじゃないかしら。
…初めてじゃない…ね…うん…
浮かれた気持ちが急降下。
あれは小学6年生の時。
隣のクラスの武田君に家庭科の授業で習った「巾着」が上手に縫えたから、自分で生地や紐を買って、自宅でお母さんのミシンを借りて一生懸命縫ってプレゼントしたんだけど、「こんなのいらない」って、渡したその場で床に叩きつけられ上履きでぐっちゃぐちゃに踏まれて汚れて、その後、それを廊下の窓から外に放り投げ捨てられて…同じクラスのみんなや、他のクラスの人達が大勢いる前で…
本当はその場ですぐに泣きたかったけれど、無理してわざとおどけて「いらないってさ」とか言って平気なフリして、急いで走って外に落ちてった巾着を拾いに行った思い出。
前の日が酷い雨だったから、落ちてったグラウンドはまだ泥水でぬかるんでたっけ。
その茶色く濁った水たまりに、巾着が哀しく浮いてたよなあ。
多分、急いで拾って水で洗ったりしたんだろうけど。
あの巾着、あの後、どうしたんだろう?
その後のことは、まるで覚えていない。
きっと激しく傷ついちゃったから、自分で自分の記憶から消し去ったんだと思う。
だけど、覚えているあの時の記憶が蘇ると、大人になった今でも胸がきゅっと苦しくなる。
両目に薄っすら涙が溜まってきちゃったのを、さりげなくハンドタオルで拭って仕切り直し。
いやいやいやいや、昔の苦い経験は置いといて、今はパジャマの生地選び。
良い生地が沢山ありすぎて、ものすごく迷った。
迷って悩んで考えて考えて、結局、紺色に白の小さな水玉模様の生地に決定!
自分のは、それと色違いの赤いのにした。
久しぶりに大物を縫うので、自然と気合が入る。
生地の他にミシン糸やボタン、パジャマの型紙、接着芯などなど、パジャマを作るのに必要な材料は全て買えた。
ついでに毛糸のコーナーもチラリと覗く。
色とりどりの毛糸がずらり。
用途に合わせて太さも様々。
コーナーのあちこちに店員さんが編んだものがディスプレーされている。
あ〜、これ可愛い!
あ〜、こっちも素敵!
「初心者向け」のコーナーで、店員さんに相談してみた。
「あのう…帽子を編んでみたいんですけど…」
「男性用ですか?それとも女性用ですか?」
「あの、男性…用なんですけど…」
自分が編み物初心者であること、どういう感じの物を作りたいかなど、あれこれ説明すると、慣れた感じの店員さんは丁寧に教えてくれた。
原さんグレー系の物が多いから、きっと好きなんだろうと思ってグレーの毛糸にした。
そして、毛糸の太さに合わせた編み針も購入。
「わからないことがあったら、いつでも聞きにいらして下さいね」
店員さんの優しい言葉に、涙が出そうになった。
駅前の大型商業施設の地下の食品街でソース焼きそばと鯛焼きのクリームを買い、お惣菜屋さんでカボチャのサラダと鴨のマリネを、そして、老舗の蒲鉾店で揚げ蒲鉾の端っこの詰め合わせが安かったので買った。
荷物が多くなったので、帰りはバスに乗ることに。
バスに乗る前、駅中のオシャレな珈琲屋さんでカフェオレをテイクアウト。
ストローでチューチュー、乾いた喉を潤していると、道路の反対側に見覚えのある車が停まっている。
そんでもって、その車の助手席から降りた人が、こちらに向かって手を振りながら大声で私を呼んでいる。
「ゆりちゃ〜ん!ゆりちゃ〜ん!乗って行かないか〜い!」
声の主は、ぎっくり腰でやむなく仕事を辞めた、漬物名人の川島さん。
…
「あれえ、久しぶりだねえ…みんな元気?」
川島さんは旦那さんの付き添いで病院の帰りらしい。
「ああ、はい、もうそろそろ忙しくなってきましたけど…」
「ところで…聞いたわよ〜!原さんと付き合ってるんですって!良かったわねえ、お似合いの2人だわあ…」
どうやら高島さんと水島さんから、仕入れたらしい。
家に送ってもらう道中、色々楽しい話で盛り上がった。
「…じゃあ、あの、わざわざ送っていただいて、本当にありがとうございました!川島さんも旦那さんも、あの、寒くなってきたので、どうぞお身体に気をつけて下さいね」
「ありがとうねえ、ゆりちゃん…そだ、原さんと仲良くねえ…じゃあ、またね!」
久々会った川島さん、前よりも少し痩せたみたい。
それに腰の状態が前よりも悪化している様だ。
それでも、変わらぬ笑顔が印象的だった。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




