第69話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
急に冬がやって来た感じ。
それまで寒さはそれほどでもなかったと思うんだけれど、このところ、朝、布団から出るのがしんどくて。
近頃、職場に行く前、坂の途中教会の隣の通称「なるちゃんハウス」を、外からちらっと見てから行く様になった。
あゆみちゃんと見学させてもらってから、外観も結構変わってきている。
前はくすんだグレーのコンクリートだった外壁が、今は赤茶色のレンガに覆い尽くされている。
窓枠が白くなって、2階のアパート部分には、それぞれ大きめのバルコニーが設置された。
洗濯物や布団なんかを干すのも良し、小さなテーブルと椅子で素敵な外用のダイニングにするも良し、プランターなどで家庭菜園をするのも良しといった感じ。
私と原さんが借りようとしている部屋は海側なので、こちらの道路側からは見えないんだけど。
そう、建物の海側は裏がちょっとした森と言おうか、林と言おうか、まあ、そんな感じで大きな木が沢山植えてある。
そして、その先はなだらかな斜面になっており、建物の2階から見える景色が素晴らしい。
今のアパートはベランダ側が山の斜面なので、今度は部屋から海がババーンと見えるのが、今からとても楽しみ。
「あ〜…今度から、ここで暮らすんだ…雄大さんと一緒に…テヘヘ」
出勤途中、1人道路で佇み、これからの暮らしを想像してはニヤニヤして。
…怪しすぎか…
な〜んて思ってたら、早番の時など、あゆみちゃんにここでばったり会うこともしばしば。
やはりあゆみちゃんも、ここでの赤瀬川くんとの暮らしを想像している模様。
「おはよう!今日も寒いね〜!」
今日もばったり会ったので声をかけるも、あゆみちゃん、なんとなく元気がない。
「あ…おはようございます…」
「あれ?どしたの?なんか元気ないねえ…」
2人でゆっくりと坂を下りながら話した。
「…ええ…ちょっと…その…」
「ん?…ああ、ごめんごめん、言いたくないことだってあるよね…ごめんね、ずけずけ聞いちゃって…」
「あ、や…ゆりしゃん…そんな謝らないで下さい…あの…実は、昨日…のり君と喧嘩になっちゃって…それで…売り言葉に買い言葉って感じで…のり君と結婚したくないって…言っちゃって…」
「え!」
それ以上、脳内で必死に言葉を探したけれど、出てこなかった。
喧嘩の原因は些細なことの様。
あゆみちゃんの部屋で一緒に晩御飯を食べた際、2人で暮らす部屋のインテリアをどうするという話になって…揉めたらしい。
赤瀬川君は結婚するんだから、家電や家財道具なんかは全部新しく買いたいそうだが、あゆみちゃんは将来の為にお金はあまり使いたくないから、今、使える物を寄せ集めるのでいいと。
あ〜…確かに、どちらの言い分もわからなくもない。
なんて、呑気にしみじみしてすぐ、ハッとした。
自分達もどうするんだろう?
私と原さん、結婚しようとなったはいいけど、具体的な話まで至っていない。
そうだよね。
一緒に暮らすとなれば、全部新しいのを買いたい気持ちも、今使ってる物はまだまだ使えるのだから、新しく買うのは勿体無いって気持ちも出て来ちゃうよね。
「そ…そっかあ…すんごくわかるなあ…お互いの気持ち…そういうのって、お互いにじっくり膝を突き合わせて話し合わないといけないよねえ…まあ、でも、喧嘩はちょっと…辛いねえ…あ、じゃ、私、これから赤瀬川君と会うから、話してみるね、それで大丈夫?」
「はい…ありがとうございます…」
大丈夫!大丈夫!
ちゃんとすぐ仲直りできるって!
そう言って、あゆみちゃんと別れた。
職場の休憩室で、原さんに立ち会ってもらい、赤瀬川君と話した。
「…まあまあ、赤瀬川君の気持ちもすんごくわかるけど…でもね、あゆみちゃんの気持ちもわかるでしょ?だからさ、勝手に1人で物事を進めちゃダメだよ!ちゃんと細かいこともさ、あゆみちゃんときっちりかっちり話し合って決めていかないと…」
これは赤瀬川君に言ってるんだろうか?
それとも、自分と原さんに対して言ってるんだろうか?
仲直りを進めながら、頭の片隅でぼんやりとそんなことを考えてしまった。
結局はどちらかが折れて、妥協することになる。
譲歩ってなかなか難しいと思う。
けれども、自分にどうしても譲れない強いこだわりがないのなら、相手の意見を素直に飲んだっていいじゃない。
私は…どうだろう?
ずるいけど…原さんの意見に従いたいかも。
ごめんね、雄大さん。
「…そうですよね…結婚って、1人じゃできないですもんね…僕、こんなことであゆみちゃんとの結婚、諦めたくないんです!だから…」
そう言った後、赤瀬川君は早速あゆみちゃんにメールしていた。
「はあ、良かったあ」
「そうだね、ところで、僕達もいっぱい話さなきゃいけないね」
「ね〜!」
3人しかいない休憩室で、丁度赤瀬川君が後ろを向いた隙に、原さんと短くキスしちゃった。
うふふ。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




