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第64話

前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。

きっと選択肢はいくらでもあるんだろう。

けれども、私はよほど了見が狭くて、勉強不足なのだなあと実感しては、悲しい気持ちになる。

北山口さんがアパートを引き払った後、あゆみちゃんが入るまで空室だったあの部屋に、原さんが住みたがっていたことを思い出した。

「そっか…あの時…」

もうあの時点で、原さんは今のマンションを売るなり、貸すなりするつもりだったんだと、今頃になって気づくなんて。

本当にバカだ、私。

本人から直接聞いた訳じゃないけれど、原さんも元カノと暮らしたマンションなんて嫌だったんだとわかった。

そらそうだよね。

色んな思い出がいっぱい詰まっちゃってて。

だけど、あの場所に住んでいるうちは、ずっと何かしらの何気ないタイミングで、いちいち思い出してしまうんだものね。

そうしては嫌な気持ちになったり、懐かしい気持ちになったりするんだろうね。

だけど、時間は戻せないから。

元カノとの甘い時間を思い出しているより、今は私との甘い時間を大切に思ってくれてるようだから。

前にさとみから「あんまり深く色々考えすぎたらダメだよ!底なし沼にはまったみたいに、どんどん深く沈んじゃって、そのうち抜け出せなくなっちゃうから…」と言われたっけ。

さとみが言う「底なし沼」は、絶対悪い方に引っ張るそうだ。

確かにそうかもしれない。

あれこれ悩んで悩んで考えすぎちゃうと、結果、導き出された答えっていつも最悪のパターンばっかり。

ハッピーエンドになることって、まずないものね。

かといって、軽く甘く考えちゃうと、失敗することもしばしば。

考えすぎず、悩みすぎず、かといって軽く甘くしすぎずの加減が難しい。

難しすぎて、また、深くて真っ黒い沼に足を踏み入れそうになっちゃう。

困ったもんだ。

こういう時は…体を動かす。

そうだ!そうしよう!

思い立ったが吉日とばかりに、早速いつも通り寝返りを打って仰向けになった時、ふと隣に誰かが寝ていることに気がついた。

え?誰?怖いんですけど…

きゃあああああ〜〜〜!

慌てて起きようとして、再度きゃあああああ〜〜〜〜!

私、裸じゃん!

そして、隣に原さん。

え〜〜〜〜〜っ!なんで〜〜〜?

じゃなかった、なんでじゃなくて…

そだ、昨日…急に思い出すとあわあわしながら、タオルケットにくるまった。

くすくす笑う原さんもどうやら裸のようだ。

「ぶっ…ぶつかり稽古…」

「へ?」

まだベッドで布団に入っている原さんがキョトンとしている。

「あわわわわ…あ、いえ…あの…な、なんでもないですからあ〜〜〜〜!」

パニック状態のまま、タオルケットを体に巻き付け、急いで脱衣所まで逃げた。

その後は猛スピードだったから。

ただ、わかっているのは、洗濯機の中で洗ってすっかり乾いた昨日と同じ服に2人とも着替えて、ようやく落ち着き、小さなダイニングテーブルで向かい合って、朝ご飯を食べていると言うことだけ。

温かいコーヒーとパン、それにベーコンエッグと申し訳程度のレタスとトマト、後は果汁100%のオレンジジュース。

パンは一昨日水島さんから頂いた食パン。

それをトーストして、バターを塗って。

穏やかで優しい時間。

「美味しいねえ」

こうして大好きな人と一緒の朝ご飯。

結婚したら、これが毎日なんだね。

いつも楽しい訳じゃないだろうけど、それでも、大好きな人との時間がこんなに尊いなんてと思った。

そんなことを考えながら、何度も原さんと目が合う度に嬉しくて恥ずかしくて照れてしまった。

って、それはいいとして…私…私…原さんと…男と女のぶつかり稽古しちゃったんだね。

不意に脳裏に蘇る、昨日の夜の記憶。

甘くてとろけるような時間だったけど、今思い出すと恥ずかしい〜〜〜〜!

「どしたの?急に顔真っ赤にして…どっか具合でも…」

そう言って、原さんの手が私のおでこに触れた途端、頭のてっぺんからピーッと言う音を立てて蒸気が噴き出た様な気がした。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

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