第63話
前回の続きです。どうぞよろしくお願い致します。
「え?なるちゃん達の新しい家に住むの?あれ?原さんと結婚して、そのまま彼のとこに行くんじゃないの?」
早番の帰り、さとみのお見舞い。
「…うん…なんかさ…だって…」
原さんの中古マンションの話になった。
「え〜…だって、キャンプの後、2人で一緒に彼の部屋で映画観て、超楽しかった〜ん!ってはしゃいでたじゃん!なのに、なんで?」
「だって…」
言葉が詰まってしまった。
「…ん〜…元カノと同棲してた時のベッドとかが嫌ってか…ん〜、や、わからなくもないけど…ん〜………じゃあさ、直接、話してごらんよ!なるちゃんママもそう言ってたんでしょ?」
「…ん〜…だよねえ…」
「決まり!すぐ連絡!すぐ連絡!今日、彼、遅番なんでしょ?これから会えばいいじゃん!そうしな!ねっ!」
モヤモヤしている私に、さとみが発破をかけてくれた。
「そ、そうだね…そうする!うん!そうする!」
あゆみちゃんとなるちゃん家族の工事中の新しい家を訪れてから、まだたった1日しか経っていない。
電話やメールで話したっていいのに、なんとなくできずに仕事場で会っても「楽しかったよ〜!」などと、はぐらかしてきちゃっていた。
でも、ちゃんと言わなきゃダメだよね!
うん!
…
原さんの仕事が終わるタイミングを見計らって、すぐさまメール。
すると、すぐさま「オッケー!」とこれから病院まで迎えに来てくれる運びになった。
待ってる時間が緊張する。
「好き」と言うまでもドキドキしたけれど、恋が進むにつれ、どんどんと色んな形のハードルが出現してくる。
それを一生懸命、なんとかこなしてきた。
自分にもっと勇気があればなんて、何度思ったことか。
病院の玄関の外に出た。
夜のひんやりした風が、全身を通り過ぎる。
ひゃあ〜!寒い!
そうしている間に、原さんの車が見えて来た。
あ、どうしよう、もう来ちゃった。
タクシー乗り場の前の、車を乗り降りする場所に原さんの車。
フェーッと助手席の窓が開くと、運転席に笑顔の原さん。
「ごめん、待たせちゃった?」
ううんと首を振り、早速車に乗り込んだ。
「あの…雄大さん、ごめんね…急に呼び出したりして…」
「ううん、そんなの、全然…むしろ、嬉しかったなあ…ゆりちゃん、手、冷たくなって…」
そう言うと、原さんは私の手を自分の手で包み込んでくれた。
そして、「じゃあ、行くよ!」
原さんの掛け声と同時に、車は動き出した。
「どこ行きたい?」
「あの…家に寄ってもらって、いいですか?明日、雄大さん、お休みでしょ?」
「あ、うん…いいけど…ゆりちゃんは、明日…」
「遅番だから…」
それ以上、もう言葉が出なかった。
緊張して、ドキドキが原さんに聞こえないか、それだけが心配だった。
もう腹は括った。
大丈夫。
上手じゃなくてもいいんだ。
一生懸命、自分が思っていることを言えばいいんだ。
アパートに到着するまで、ギュッと口を結んだ。
…
「ど、どうぞ…あの…ちょっと、雄大さんにお話があります」
前回、折角初めて原さんを部屋に招いたと言うのに、ペットボトルのお茶しか出せなかった反省を踏まえて、今回はちゃんと電気ポットで沸かしたお湯で、温かいコーヒーを淹れた。
それに加えて、この前工事中の新しいなるちゃん家族の家を訪問した際、あゆみちゃんと一緒に予め買って持って行ったお土産と同じ、駅前のケーキ屋さんのパウンドケーキを出した。
「…どうぞ…」
「ありがとう…それはさておき…今日はどうしたの?改まって、話って何?」
怪訝そうな表情の原さん。
私からなんの話をされるのか、伺っているのがわかる。
「…あの…ですね…私…なるちゃん達の新しいところに、引っ越そうと思ってます…」
「え?」
「ここ、春には取り壊しになっちゃうじゃないですか、だから…あの…この前、お手伝いしにあゆみちゃんと行った時、なんかここっぽい感じってのか、下宿っぽい感じにするって伺って…それで、いいなあって…ここに住みたいなあって思ったんです…ここから近いし、職場にはここよりも近くなるし、なるちゃん達もいるし…後、大家さんの純平さんと純子さんも、住むって聞いたし、あゆみちゃんももしかしたら、赤瀬川君と一緒に住むかもしれないって言ってたし…」
「…」
「私…ごめんなさい…正直に言いますね…あの…あの…雄大さんのとこ、嫌なんです…」
「え?…なんで?」
原さんは一瞬戸惑った様な表情を見せた後、今まで見たこともない暗くて悲しそうな顔になった。
「…雄大さんのこと…大好きだから…本当は…一緒にいたいんですけど…でも…その…雄大さんの部屋…前の彼女と同棲してたって言ってたから…ベッドとか…そういうの…前の彼女とイチャイチャした場所だって思ったら…私…なんだか…耐えられないって思って…だけど…それを処分してって言うのも、なんか違うと思うから…」
喋りながら、涙が止まらなかった。
原さんと正式に付き合うことになって、それが嬉しくて浮かれてたから、特に気にしてなかったけれど、少し冷静になって考えた時、やっぱりどうしても嫌だと思ってしまった自分。
もう付き合っていない元カノに、嫉妬している自分。
原さんには自分だけを見ていてほしい。
自分のことだけ考えていて欲しい。
好きになればなるほど、どんどん愛が重たくなっていくのはわかっているけれど…
本当に好きになるって、きっとそういうことだと思うから。
「…だから…雄大さんのマンションでは、一緒に暮らせないって思ったんです…ごめんなさい…本当にごめんなさい…」
これで嫌いになられたら、なられたでいい。
自分の気持ちを正直に打ち明けられないまま、我慢しているよりずっとマシ、そして、楽。
すると…
「ははは…ごめんね、笑って…な〜んだ…そうだったの…ははは…そっか、そうだよね…元カノがいた時のベッドとかかあ…そっかあ…なるほどねえ…ん〜とさ、なんだろ…なんて言ったらいいか…ん〜…ゆりちゃん…なんか嬉しいよ…なんかわかんないけど…」
「…え?」
「…だって…あはは…まあ、いいや…じゃあ…僕も、ゆりちゃんと一緒になるちゃんとこに引っ越すよ!」
「?え?だって…雄大さんとこのマンション…買ったって…」
「ああ、うん、そうなんだけど…だからね…売ればいいかなあって…」
「?え?そ、そんな簡単に…」
「ああ、うん、まあ、そうなんだけど…まだ、少しローンが残ってるけど…でも、まあ、大丈夫じゃないかなあ?」
「え?そんなこと、できるの?」
「え、ああ、できるできる…不動産屋と相談しなきゃならないけど…大丈夫、イケるって…」
あんなに緊張して、心配していたことが、こうもあっさり解決してしまうなんて。
急にヘナヘナと体中の力が抜けると、原さんが抱き止めてくれた。
「まだ、完成まで時間があるんでしょ?だったら、これからの2人のこと、ゆっくり話し合えるね」
そう言うなり、原さんは優しいキスをくれた。
そして、そのまま、私の部屋に泊まってくれた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。




