第62話
前回の続きです。どうぞよろしくお願い致します。
「…私…原さんからプロポーズされてて、それで、僕のところに来ませんかって、一緒に暮らそうって誘われてるんですけど…でも、その…なんて言うか…結婚したくない訳じゃないんです…もちろん、彼のこと、大好きだし…でも、ちょっと、早いって言うのか…なんか、その、まだアパート取り壊されるまで時間はあるんですけど…その、なんて言ったらいいのか…」
「あ〜、わかる!わかります!ゆりしゃん…私ものり君と婚約したけど…でも、なんとなく、心が落ち着かない様な…ねっ!そう言う感じですよね!」
「そ、そうなの…」
ごめん、あゆみちゃん…ちょっと違うかもしれないけど…まあ、似たような感じではあるかな…うん。
「ん〜…そっかあ…」
ミズエさんは腕組みをして考え込んでいる。
「ゆりちゃん、ごめんね、続けてもらえる」
「ああ、はい…で、なんて言ったらいいのか…今の生活が、すご〜く満足しちゃってるから…だから、急にアパート取り壊しますから、出て行って下さい、はい、わかりました…じゃあ、結婚しますって言うのが…なんか、違うんじゃないかって…そんな流れでいいのか?って思ってしまって…」
「ん〜…そうかもねえ…」
「かと言って、すぐ新しいとこ探す意欲もなく…で、彼のマンションなんですけど…駅の向こうの中古のマンションで…それは別に全然平気なんですけど…」
「…けど?」
「5〜6年前に付き合ってた彼女と同棲してたマンションなんですって…それで、そのまま、その彼女と結婚して、そこで一緒に暮らそうと思って買ったって言ってて…」
「…そっかあ…」
「はい…で、もう当時の彼女の物とかは一切ないって言ってるんですけどね…でも、一緒に使ってたダブルベッドとかは、そのまんまで…あと家電類とか…細かいことなんですけど、カーテンとかラグマットとか、ソファーは違うって言ってたか…まあ、でも、そんな感じで…物は物だからってわかってるんですけど…でも、前の彼女と一緒に暮らしてた時のだって聞いたら…なんとなく…ちょっと…や…かなあって…彼のことは大好きなんですけど…大好きだけど…それはちょっとって思って…だからと言って、処分してとも言えず…言える訳ないですよね…だから…だから…まだ、結婚は一旦置いといて…それで…ここ、いいなあって思ったんです…」
「あ〜…なんかわかるなあ〜…ゆりしゃんの気持ち…心がちょっとしんどいですよねえ…彼のこと大好きだったら、余計に…」
あゆみちゃんの言葉が、やけに沁みる。
「じゃあ、ゆりちゃんもなる達と一緒に住もう!いいよねえ!ママ!」
なるちゃんからのお誘いが嬉しい。
でも、なるちゃん、私の話、ちゃんとわかってるのかなあ?
「うん、そういうことならさ、ゆりちゃん、ここ、出来たらおいでよ!今、工事してる部屋だけどいい?大丈夫?」
「え!いいんですか!よかったあ〜…よかったあ〜…」
「…じゃあ…私も、ゆりしゃんと同じく、ここに住みたいです!」とあゆみちゃん。
「え?でも…赤瀬川君と結婚するから、牧場で暮らすんじゃないの?」
「あ、ええ、まあ、そうなんですけどお…それはおいおいって感じで…実はまだ正式なことって、決めてないんですよね」
「え!そうなの!」
「はい…だから、銀行もまだ辞めないですし…結婚はのり君とするつもりではいますけど…でも、それもいつとか決まってないですし…もしかしたら、牧場で暮らさないで、ここで2人で暮らして、牧場へは通いでもいいかもしれないですし…あ、そうだ…あの、ミズエさん…ここを貸すとなったら、あの…家賃って、どれぐらいで…」
私もそれ、聞きたかった。
「…ん〜…今と同じでいいんじゃないかなあ?ねえ、なる!」
「うん!いい!」
なんだか私の前に、パーッと一直線に光る道ができた気がした。
「ゆりちゃん…あのさ…ここに引っ越して来るのは全然構わないけどね…でも、やっぱりさ、原くんともちゃんと沢山話さなきゃダメだよ!それからだって全然大丈夫なんだからさ…焦って決めることないから…ゆりちゃん、ゆっくりね!ゆっくりじっくり考えたらいいよ…それで、やっぱり彼のところに行くなら行くでいいし…応援するし…ね…ゆりちゃん…あゆみちゃんも、しっかり赤瀬川君と話し合ってさ…それから決めても全然遅くないから…ねっ!」
「はい!」
ミズエさんの言う通りだ。
私、もっと原さんと話さなきゃいけない。
お互いのこと、それから将来のこと。
でも、その前に一度、原さんには今の私の部屋に来てもらわないと。
私の今の部屋、そして、私も原さんのマンションへ。
きっと原さんが私の「運命の人」なんだと思う。
だけど、だからって、すんなり結婚なんてできないよ。
はい、そうですか、お願いしますなんて、簡単に言えないよ。
だって、結婚って、そういうものじゃない気がするから。
もっと、こう、大事に大事に扱わなくちゃいけないことだと思うから。
今は彼のことが好き過ぎて、何も見えなくなっちゃってるかもしれない。
それはそれで、そのままの勢いで結婚しちゃう手もあるんだろうけど。
その後、彼のあんなところが嫌いとか、こんなところが受け入れられないとか、絶対出てくるだろうから。
それが他人と一緒に暮らすってことだと、十分理解している。
そこを許せるか、妥協できるか、それとも絶対に許せないか、妥協なんてできないなのか。
許せなくても、妥協できなくても、それでも好きだから離れたくないって思えたら素敵だと思う。
ただ、私にそういう気持ちがあるかどうかだよね。
それとも、今はそんなことどうでもいいって考えた方がいいのかな。
その時はその時。
その時になったら、深く考えたり、腹を割ってお互いの正直な気持ちをぶつけ合ったり、時に傷つけあったりすればいいんだろうけど。
でも…原さんと…喧嘩なんかしたくないけど…結婚したら、いつかはしちゃうんだろうか?
そんな先のことを考えるだけ、無駄なんだろうけど…
だけど、やっぱり考えちゃうよ〜〜〜!
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。




