第46話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
酔い覚まししながら、いつもの坂を上る。
時々後ろを振り返り、この街の夜景を見つめた。
お酒が入ってホカホカした体に、ひんやりした空気が気持ちいい。
あ〜、よかった、さとみに会えて…
もうすぐ沖縄に旅立ってしまうさとみと会うのも、今日が最後なんだと思ったら、急に寂しくて涙が後から後から溢れ出た。
そっか…そうだよね…もう、今までみたいに、休みの日を合わせてひょいひょい会えないんだね…
さっきまでの時間が、こんなにも尊かったと気づいたなら、もうちょっとなんかわかんないけど、丁寧に…って、どういう風に?
さとみとの貴重な時間の過ごし方が、あれで良かったのか考えてしまった。
考え事をしていると、どうしても足取りが遅くなる。
アパートまで残り半分ぐらいまで来た時、坂の下の方でサイレンがけたたましく鳴って通り過ぎて行く。
救急車にパトカー、それに消防車の音も。
ん?なんだ?事故?
もう一度振り向くと、下を横切る道路を右から左に赤色灯をつけた車が、何台も何台も通り過ぎた。
あれ?あっちはさとみの…
居酒屋で別れて、タクシーに乗ったさとみが向かった方向は…
いやいや、まさか…絶対違うって…
脳裏を横切る嫌な予感。
何度も何度も払拭するも、勝手にどんどん不安だけが広がった。
あ…じゃあ…
そう思い、さとみに電話をかけてみた。
…
応答がない。
何度かけても応答なし。
…じゃあ、メールで…
ニャインでメールを送るも、既読なし。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう…
さとみ、どうか無事でいて…
あははと笑って、電話して!
お願い!お願い!
…
どうやって家に帰ったか覚えていない。
シャワーを浴びたものの、パジャマには着替えず、すぐ出かけられる様な格好をした。
そのまま夜通し連絡を待っていたけれど、結局いつの間にかソファーでうとうとしてしまっていたようだ。
どうしよう…このまま仕事に行くか、それとも…
そんな中、さとみのお母さんから連絡が来た。
「ああ、急でごめんなさいね、ゆりちゃん、びっくりしないで聞いてもらえる…さとみ、昨日…」
出会い頭の事故だそうだ。
慌ててテレビをつけると、毎朝見ている地元のニュースで報道されていた。
「…それで、今ね…」
…
急遽、仕事を休んだ。
本当は今日お休みだった高島さんが、シフトを代わってくれた。
ありがたい。
助かる。
原さんにも連絡したかったけれど…今はそれどころじゃない。
とりあえずタクシーを呼んで、さとみが入院している病院へ向かった。
…
廊下でさとみのお母さんに会った。
「おばさん!さとみは?さとみは大丈夫なんですか?」
さとみのお母さんと一緒に、病室に入ると…
「あ!ゆり!」と元気いっぱいの声のさとみ。
けれども、ベッドで頭や布団から出している片方の足は包帯でぐるぐる巻き。
腕には点滴と、やっぱり包帯ぐるぐる。
左側が腫れた顔だけど、今できる精一杯の笑顔を見せてくれた。
「あ〜…良かった〜…心配してたんだよ〜…」
さとみの顔を見ると安心して力が抜け、涙がポロポロ溢れてきた。
「あはは…ごめ〜ん…ゆり…なんか…沖縄行けなくなっちゃった…えへへ」
詳しいことは聞いたけれど、全然頭に入ってこなかった。
けれど、とりあえず無事で何よりと思った。
「ん〜…多分…2〜3ヶ月ぐらいかかるかも」
入院したばっかりなのに、もう退院のことを考えてるなんて。
「…こういう風になっちゃったからさあ…」
まだ残っているやらなきゃならないことは全部、人に任せるしかないものね。
沖縄に行くにあたって、愛車の赤い軽自動車はとっくに売ってしまったらしい。
あんまり長くはいられない。
「また、来るね!」
「うん、ありがと!」
…
病院を出てから、そのまま仕事に行こうかどうしようか。
…ん〜…
折角なので、若干のズル休み感で心がチクッとしたけれど、このままぶらりと歩き出した。
さて、どこへ行こう?
ゆっくり歩きながら考えて、もうだいぶ肌寒いけれど、海に行こうと決めた。
病院からなだらかな下り坂を進んで行く。
すると、建物の間からしか見えていなかった海が、徐々に視界に広がって来た。
わあ〜!海〜!
何度となく飽きてもいいほど見てるけれど、やっぱり海はいいなと感じた。
なんとなく、港の端っこにある大きな公園を目指した。
途中のパン屋さんで、1人じゃ食べきれないほどパンを買ってしまった。
だって、どれもこれも美味しそうだったから。
到着した公園の駐車場に、原さんの車と同じのが停まっている。
あれ?原さん?
な訳ないか。
だよね、ないない。
出入り口の自販機で、温かい紅茶を買った。
は〜、気持ちいい〜!
海側から吹き付ける潮風は、冷たいけれど気持ち良かった。
「さてさて…」
ベンチに腰掛け、港の景色を眺める。
すると、視界の端からランニングしている人が見えた。
へ〜え。
初めはちゃんとはっきり見えなかったその人が、徐々にはっきり見えてきた。
あれ?原さん?
そう思うが先か、その人が何故かこちらに向かって手を振って…
「ゆりさ〜ん!」
私の方に駆けて来たその人は、やっぱり原さんだった。
「あれ〜?ゆりさん、なんでこんなところに?あれ?今日仕事じゃなかった?」
「え?ゆ、雄大さんこそ…なんで?」
「え、なんでって…僕は、休みの時とか、大概ここで走ってるから」
え!そうなんだ〜…そうなんだ〜…
驚きつつ、こんな場所で偶然会えた喜びを、なんとなく神様に感謝した。
最後まで頂き本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。




