第45話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
次の日の朝、出勤前にゴミ出しもついでにとアパートを出ると、なるちゃん家族に会った。
今日は3人共お休みをとって、赤瀬川牧場に遊びに行くとのこと。
昨日腫れてたなるちゃんのほっぺたは、もうすっかり元通りだった。
「ゆりちゃん!いってらっしゃ〜い!」
振ってくれたなるちゃんの手の平の絆創膏が、痛々しいけど。
「は〜い!いってきま〜す!」
いい天気でよかったね!
職場へ向かう道中、昨日のことを思い出してはニヤニヤ。
自分でもびっくりしちゃうぐらい、我ながら大胆な行動をとったもんだ。
あの時、あの場所で原さんの手を掴んで…
あの後、お店から車までの間も、ずっと原さんと手を繋いだ。
特に会話らしい会話もなかったけど、それでも嬉しくて仕方がなかった。
「じゃ、また明日…おやすみなさい」
動き出した原さんの車を、道路脇まで出て、見えなくなるまで手を振って見送った。
うふふ、うふふ。
ニヤニヤしながら、いつもの下り坂を下りて行く。
遠くに小さく見える海が、今日も綺麗に青い。
うふふ、うふふ。
歩きながら、今までのことをあれこれ思い出す。
そういえば…
思い返すと原さん、今まで何度も何度も車の助手席に私を乗せてくれたけれど、一度も強引に手を握ってきたり、抱きついたり、キスしようとしたり、いやらしいことをしてこなかった。
私を好きだと思ってくれてるなら、無理矢理そういうことをしてきたとておかしくないんだけど…
全然なかった。
まあ、同じ職場だし、ほぼ毎日顔を合わせるし、そんなことをしようもんなら、すぐに気まずくなるだろうし、もしかしたら私に通報されるかもしれないものね。
と言うより、原さんの性格上、正式に付き合ってからじゃないと、そういうことは絶対にしないって感じなんだろうと思う。
原さん、きちんとした人だものね。
そういうところも、随分前から好きだったと、今ならわかる。
私…バカだった。
遠回りし過ぎ。
こんな話をさとみに聞いてもらいたい。
けれども、沖縄移住を控えて、毎日毎日目が回るほど忙しいと、昨日、ニャインが来てた。
そっかあ…さとみ…もうすぐ沖縄に行っちゃうんだあ。
行く前、ちょっとでも会いたい。
…
私の思いが通じたのか、沖縄まであと1週間というところで、少しだけ会えることになった。
…
「お疲れ様でした〜!」
原さんも遅番だったけれど、今日はこれからさとみと会うので、残念だけど職場で別れた。
あの日から、原さんと変わらぬ様な、変わった様な。
赤瀬川君にはもうキュンとしなくなった。
けれども、「友達」として普通に接している。
まあ、彼の場合は、あゆみちゃんに夢中だから、高島さんや水島さん達にもっぱら恋愛相談と言うか、女心を聞いているけれど。
…
「わ〜!久しぶり〜!」
よほど忙しいのか、さとみ、少しやつれた様に見える。
大丈夫なのか?
「ごめんね〜、忙しいのにわざわざ時間作ってもらって…あ、そだ、これ、私からの餞別」
「え〜、ありがとう!嬉し〜!開けて見ていい?」
「どうぞどうぞ」
袋の中は赤瀬川牧場のバターとチーズ、それにひざ掛けと作ったエプロン。
「ここ、いいねえ…初めて入ったな…」
「実は私もね、ちょっと前に1人で入ってさ…」
「え!なんでまた…」
「まあ、ちょっと…」
ちょっと前に1人で入って、偶然ヒデさんに遭遇したあの居酒屋さん。
ここで2人だけの送別会。
「…えーっ!自分から手え繋いだんだ〜!やるじゃん!ゆり〜、すごい積極的!」
「うん…自分でも自分のこと、すんごく大胆ってびっくりしちゃったもん!」
「ははは…そうだよね、ゆりは昔からそういうことするタイプじゃなかったもんね」
「…うん…」
「でもさ、でもね、そうしたくなっちゃうほど、その原さんのこと、好き〜ってなっちゃったんだね…」
「そうなんだ〜…そんでさ、思った訳よ、それまで原さんに対して酷い態度とってたなあ〜って…そしたら、なんか訳もわからず、涙がさ、ボロッボロ出てきちゃって…」
「あ〜…なんか、わかるなあ〜…そういうの…あ、それで、告白は?もうしたの?」
「…ううん…まだ」
「…ん〜…じゃあ、原さんからは?」
「それもまだ…」
「ん〜…そっかあ…それは…どうしたもんかねえ…」
「…ん〜、そうなんだけど…私から言えば済む話なんだけどね…でも、なんか…」
「なんか?」
「なかなか…言えなくて…」
「でも、手は勝手に繋いじゃうと」
「や〜、まあ、それはさ〜…」
さとみとこうしていっぱい話せて、本当に嬉しい。
まだまだずっと色んなこと話したい。
だけど、時間は無常に過ぎていくもんなんだね。
「あ、もうこんな時間!早く戻って、あれこれやんないと…」
「大変そうだけど…あんまり無理しないでね、ちゃんとご飯食べて、しっかり睡眠とって休んでさ、じゃないと倒れちゃうよ!行く前に倒れちゃったらさあ…ねえ」
「そうだね、じゃ」
さとみが乗り込んだタクシーが見えなくなるまで見送った。
「さてと、帰りますか!」
少しだけ酔いが回ったまま歩き始めて程なく、向こうからバン!と大きな音が聞こえた。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




