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第43話

お話の続きです。ごめんなさい。今回はちょっと長いお話です。どうぞ宜しくお願い致します。

「…いやいやいやいや、僕はそんな都合のいい男じゃないですよ〜…ヤダなあ…ははははは」

「ん〜…今は、そうだねえ…好きな人は特に…いない…かなあ」

休憩時間に田口さん達と話していた原さんの言葉だけ、頭の中でぐるぐる何度も何度も再生される。

…都合のいい男…

私…原さんとそういう風に接していたかもしれない。

重くて嵩張る買い物の時、車で送ってもらって。

そのくせ、「別に付き合ってる訳じゃないから」とか、冷たい言い方で突っぱねて。

…好きな人は特にいない…

そっか、原さん、好きな人はいない、んだね…

そうなんだ…

折角早番で帰宅したものの、昼間のことばかり考えてしまう。

そんな時…ピンポーン!

玄関のチャイムが鳴った。

ハッと我に帰り、急いで玄関の扉を開けた。

一瞬、原さんが訪ねてきたんじゃないかと、期待してしまったから。

でも、違った。

慌てた様子のなるちゃんママのミズエさん。

その後ろに、同じく血相を変えたなるちゃんパパさん。

「ゆりちゃん!急にごめんね!あの、あのさ!なる…うちのなる来てない?」

「えっ?」

来ていないと答えると、カンカンカンカンと階段を駆け下り、1階のあゆみちゃんの部屋のチャイムを鳴らして、同じことを聞いていた。

まさか!なるちゃん!1人でどこかに行った?とか?

事情を察すると、私も急いで外に出た。

ヒデさんのところは留守の様だけど、アパートの隣の純喫茶「純」に行くと、そこでいつもの様にクリームソーダを啜っていた。

「なるちゃんがいないの!」

「えっ!」

ヒデさんと大家の純子さん、それにあゆみちゃんも慌てて外に出て来て、ミズエさん達に話を聞いた。

「…や、パパと…今後のことを色々話して、ちょっとだけエキサイティングしちゃってたら…1人で遊んでたなるがどこにもいないことに気がついて…」

口論と言うほどではないらしいのだが、少しだけ声が大きくなってしまっていたかもしれないと…

「どうしよう…なる…なる…まさか…誘拐…どうしよう」

ミズエさんがその場で泣き崩れた。

「大丈夫ですって!絶対に無事ですって!」

とりあえず、ここにいるみんなで、手分けして探すことに。

「あ〜、ミズエさんは純子さんと一緒に、店の中で待ってて下さい!」

そう言って、まずはアパートの周りと「純」の周りを探した。

「なるちゃ〜ん!」

「なるちゃ〜ん!いたら返事して〜!」

「お〜い!なるちゃ〜ん!どこ〜?」

「あっ!」

アパートと「純」の間の物置きの辺りで、あゆみちゃんが大声を発した。

「なるちゃんいた?」

バラバラになっていた私達は、バタバタと急いで集まった。

「ここにいつもあるなるちゃんの自転車が…」

あ!本当だ!

ピンクの補助輪付きの自転車がない。

なるちゃんのお気に入りで、いつもアパートの駐車場で遊んでたっけ。

…なるちゃん…どこに…

あっ!もしかして!

「あのっ!あのっ!もしかして…なるちゃん、赤瀬川牧場に行ったんじゃ…」

確かあの日の帰り際、赤瀬川君のおばさんが「またいつでもおいで〜!」「泊まりに来て〜!」って言ってたのを思い出した。

「あっ!そうかも!」

あの時一緒だったヒデさんとあゆみちゃんが声を揃えた。

「だったら、私、赤瀬川君にニャインで連絡…」

あゆみちゃんがスマホで連絡を取ろうとしたその時、見慣れた車がス〜ッと「純」の駐車場に入って来て停まった。

「あ!原さん!」

見ると、遅番だった原さんと赤瀬川君、それになるちゃん。

「なる〜〜〜っ!」

車に駆け寄ったパパさんが、泣き顔のなるちゃんをギュッと抱きしめた。

「よかったあ〜…」

「パパ…ごめんなさいなの…」

謝りながら、再び泣き出したなるちゃんにつられて、私とあゆみちゃんも泣いた。

ヒデさんがお店になるちゃんの無事を伝えに行くと、ミズエさんは急いで出て来てなるちゃんの腕を引っ張ると、開口一番大声で叱った。

「なる!今までどこに行ってたの!みんな心配したんだよ!こんな真っ暗な中、ダメでしょ!1人で出かけるなんて!」

そう言うと、涙顔のミズエさんはなるちゃんの頬をぶった。

バチン!

「痛っ!え〜ん…ひっくひっく…ママ!…ママ!ごめんなさい…ひっく…ごめんな…ひっく…さい…ひっく…なる…ひっく…なる…牛のおばさんの…ひっく…ところに…ひっく…行こうと思ったの…」

ぶたれた左の頬がみるみる赤くなった。

なるちゃんは、しゃくり上げつつ泣きながら泣きながら、一生懸命話した。

「なんで?なんで勝手に出ていったの?」

泣きながらミズエさんは、なるちゃんの両肩を激しく揺すった。

「…だって…ひっく…だって…ひっく…なるが…ひっく…いたら…ひっく…パパとママ…ひっく…大人の…お話…ひっく…できないから…」

「なる…ごめんね…ごめんね…」

ミズエさんはなるちゃんを強く抱きしめた。

そして、そのまま優しく優しくなるちゃんの頭を撫でた。

「ささ、ここじゃなんだから…とりあえず中で、ねっ!」

純子さんに促され、みんなお店の中へ。

けれども、私だけ原さんを待った。

原さんは、車に積んであったなるちゃんの自転車をゆっくりと丁寧に下ろしていた。

「ああ、広瀬川さん…なるちゃんの自転車、どこに置いたら…」

「あ…こっちです…」

物置きの前まで案内すると、原さんは丁寧に自転車を置いた。

「あ…雄大さん…あの…ありがとうございました…」

原さんに深く頭を下げた。

「いやいや…」

聞くと、原さんと赤瀬川君でこちらに向かう途中、歩道に転がった子供用の自転車の横で泣いているなるちゃんに会ったとのこと。

こんな時間にどうして?と思い、車で一緒に送って来てくれたそうだ。

そうだったんだ。

もしも、原さん達に会っていなかったら…そう考えると、本当に良かったと思った。

「…私…私…あの…」

「…ん〜…とさ…あのさ…広瀬川さん…手…」

原さんに言われて、ハッとなった。

私、どういう訳か、原さんの右手を両手で強く掴んでしまってた。

「あっ!ご、ごめんなさい…あの…」

原さんに謝るも、なかなか手を離せなかった。

と言うより、離したくなかった。

「…え〜とさ…あのさ…みんな…あの…待ってるから…行こう…ねっ…」

手を離さないまま、原さんにおでこをつけて寄りかかった。

「…雄大さん…もうちょっとだけ…あの…ごめんなさい…あの…もうちょっとだけ…このままでいてもいいですか…もうちょっとだけ…ですから…」

初めて触れた原さんの手は、とても温かかった。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

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