第42話
お話の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
原さん、原さん、原さん、原さん…
何故だろう?
このところ、私の頭の中は原さんでいっぱい。
いっぱいで、いっぱいで、苦しい。
けれども、もうどうにもならないんだと思う。
あの交通事故はやっぱり渡辺さんだった。
なので、当然、辞めてしまったと言うか、実質解雇された形。
それから程なくして、新しい人が入った。
田口八千代さんと言う女性。
赤瀬川君と同い年らしいその人は、前の渡辺さんの様な派手な感じとは違い、清楚で大人しい雰囲気のふんわりした女性で、物腰が柔らかく、私や高島さん水島さんとも、すぐに打ち解けて仲良くなった。
私が男性だったなら、こういう女の人を好きになっちゃう。
そんな女性。
返事もハキハキ、仕事を覚えるのも早く、動きも慣れた感じだった。
「あ、前はコンビニで働いてたんで」
なるほど!
どうりでテキパキしてるはずだと思った。
可愛らしく笑う田口さんと、原さんが一緒にいる場面をよく見かける様になった。
そうだよね、そりゃ、田口さんみたいな可愛い人の方がずっといいもんね。
ちょっぴり意地悪い見方しかできない自分が、つくづく嫌だった。
原さんの心がもう自分にはないんだと言うのも、少し辛かった。
ヒデさんの助言で、原さんのことを好きなんだと、やっと自分で認められたけれど、もう遅いよね。
失ってから気づいた自分の本当の気持ちを隠したまま、周りの人には悟られない様、なるべく自然に自然に振る舞っている私。
だけど、どうにも女優さんにはなれないみたい。
すぐバレちゃった。
「…ねえ、どうしたの?ゆりちゃん…原さんとなんかあったの?」
「前は原さん、ゆりちゃんに気があるのかと思ってたけど…今は違うの?」
高島さんと水島さんから矢継ぎ早に聞かれても、返答に困る。
「…や…あはは…特に…何にも…ないですけどねえ…あ、ほら、原さん…この前婚活パーティーに行くって、鼻息荒くしてたから…」
なんて嘘。
本当は鼻息なんか荒くしてない。
それどころか、婚活パーティーに行くのを、私に止めてほしかった感じで。
私も、赤瀬川君みたいに、思い切って「行かないで!」って言えたなら、どんなによかったか。
後悔したって遅すぎるのに。
自己嫌悪に陥りながらも、原さんが田口さんと仲良くしている様子を見てしまう。
悔しい!
そして、羨ましい!
私もそんな風に、原さんと笑いあいたい。
でも…今は…ただの仕事仲間。
ああ、苦しい。
原さんの姿を目で追う度に、胸がギュッとなる。
だったら、いっそのこと、原さんと会えなくなった方がマシ。
会うのが辛すぎるんだもの。
こんなに苦しい気持ちになるから…だから、人を好きになるのって怖いんだ。
今更、振り向いてもらえないって、わかっているから、余計、しんどい。
ああ、前みたいに、原さんの姿を見たり、お喋りしたりするだけで、胸がドキドキして楽しかった頃には、もう戻れないんだね。
戻れなくなったのは、全部自分のせい。
…はあ〜…バカだ、私。
自分で自分をぶん殴ってやりたい。
「…あはは、え〜、そうなんですかあ?え〜?原さんが〜?見えな〜い!」
「そ、そうかなあ、ははは」
田口さん、本当に素敵で可愛らしいな。
口元に手を添えて笑う自然な仕草に、育ちの良さみたいなのを感じた。
それに比べて自分はどうだ。
原さんが車に乗せてってくれるとなりゃ、チャンスとばかりに重くて嵩張るものいっぱい買って乗っけてもらって、部屋まで荷物を運んでもらって、わ〜い!ラッキーって。
なんだろ?
これじゃダメだ。
こんなんじゃ、もうこの先誰にも好きになってもらえない。
職場のトイレで1人、また泣いた。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




