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第35話

前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。

母屋のバーベキュー会場では、エプロン姿のなるちゃんが何やら真剣な顔つきで小さな包丁を握りしめていた。

横についている赤瀬川君のおばさんに教えてもらいながら、手を切らないよう慎重に慎重にゆっくりと野菜を切り始めた。

まずは1つ、ナスを輪切りに。

すると、一旦手を止め、大きな声で「やった〜!お野菜切れた〜!」と喜んでいる。

ああ、可愛い!

「なるちゃん!上手〜!すごいね〜!」

みんなから褒められると、なるちゃん、「えへへ」と可愛い笑顔。

それに負けじと、作業台の向かい側で、あゆみちゃんがやはり同じく包丁作業。

その横で赤瀬川君がピザの生地をこねている。

私とヒデさんが細々(こまごま)した小さな手伝いをせっせとしていると、「イッタ〜〜〜!イタタタタタタ!」とあゆみちゃんが声を上げた。

「だ、大丈夫〜?」

慌ててヒデさんと駆け寄ると、硬いカボチャを切っている途中で、押さえている左手をざっくり切ってしまったようだ。

痛くない右手で左手を掴みながら、あゆみちゃん、泣いてしまった。

急いで、急いで手当しないと!

私もヒデさんも慌てていると、横でピザ生地をこねていた赤瀬川君がものすごい速さで手を洗ったかと思ったら、傍にあった綺麗なタオルで血が出ている部分を素早く包み込むと、そのまま泣いているあゆみちゃんを抱きかかえて母屋へ走った。

「だ、大丈夫かしら」

私の心配をよそに、赤瀬川君のおばさんは優しい笑顔で「大丈夫!大丈夫!のりやすに任せておけば、大丈夫だから」と。

そうだった。

赤瀬川君、獣医師の資格を持ってるってことは、人間の処置もちゃんとできるってことだものね。

「二人の作業の続きしよっ!ねっ!」

ヒデさんにそう促され、私はあゆみちゃんの代わりに野菜を切り、ヒデさんは赤瀬川君の代わりに上手にピザ生地をこねて丸い形に整えていた。

「あんら、ヒデさん、じょんずだねえ」とおばさん。

なるちゃんはたった今、目の前で見た光景がよほどショックだった模様。

「…あゆみちゃん…手手、大丈夫かなあ…可哀想…あゆみちゃん、手手痛いよねえ…なるも…なるも…手手切っちゃったら…ど…どうしよう…」

震えるなるちゃんをおばさんがギュッと、包み込む様に抱きしめた。

ふくよかなおばさんのお腹に顔をつけると、安心したのかなるちゃんも「わ〜ん!」と泣いた。

おばさんは優しく、なるちゃんの柔らかい髪を静かに撫でた。

「なるちゃん、もう大丈夫だあ…そだ、あん人達が戻って来る前に、みんなで美味しいの作っておがないかい?ねえ、なるちゃん、どんだべ?なるちゃんが美味しいの作ってけれたら、あゆみちゃんも元気出るんでないべかねえ」

おばさんの声がけに、私とヒデさんも温かい気持ちになった。

「よし!なるちゃん!あゆみちゃんと赤瀬川君の為にさ、とびきり美味しいピザにしよう!」

おばさんにくっついたままのなるちゃんは、「うん、なる、頑張る!」と言った。

慣れた手つきでドンドンと庭のピザ釜に、なるちゃんが一生懸命トッピングしたピザを焼いていくおじさん。

ピザを焼いている間、私となるちゃんとおばさんで、今度はおにぎりを握った。

「あのねえ、なるねえ、この前ね、保育園でね、みんなと一緒におにぎり握ったんだよ〜!」

なんでも、つい最近、保育園で新米の収穫作業を手伝って、その後、とれたての新米を炊いてみんなでおにぎりを握り、豚汁と一緒に食べたそうだ。

「だから、なるちゃん、上手なんだねえ」

えへへと照れるなるちゃん。

もう大丈夫そうだった。

ピザも美味しそうに焼き上がり、おにぎりも全部握り、バーベキューの炭火もバッチリオッケー!のタイミングで、あゆみちゃんと赤瀬川君が戻って来た。

「すみませ〜ん!なんか心配かけちゃって〜!」

涙の痕が残るままのあゆみちゃんの左手には、包帯がぐるぐる巻きで痛々しい。

結構な深い傷だったのがわかる。

そんなあゆみちゃんの背中に、そっと赤瀬川君が手を添えて

それがなんだか、ちょっぴり気になった。

牛達の世話などを終えた酪農ヘルパーさん達も合流し、全員が揃ったところでランチタイム。

なるちゃんはおばさんの横ではにかみながら、「これね、なるが乗せたの」とピザを頬張る面々に教える。

「へ〜え!そうなの〜!なるちゃん、ナイス〜!美味しいねえ〜!」なんて、みんなに褒められ、その度にえへへと照れながらおばさんにペタッとくっついて甘えて。

そすと、次に「おにぎりもねえ、なるが握ったの」と。

可愛いなるちゃんに、その場にいた全員がメロメロだった。

片手が使えないあゆみちゃんの横には、赤瀬川君がピッタリ並んで、いそいそと焼けたお肉や野菜をあゆみちゃんのお皿に入れたり、ピザも片手で食べやすい様にキッチンバサミで一口大にカットしたり、ジュースが減ると注いであげたり。

甲斐甲斐しくお世話する姿が、なんとなく寂しかった。

ふとした拍子にあゆみちゃんの左手がテーブルにぶつかって…

「イター!イタタタタタ!」

再び泣き出したあゆみちゃんの包帯の手を、両手でそっと掴まえた赤瀬川は、静かに静かに「いたいの、いたいの、遠くの遠くの山の向こうの、深〜い海の底に飛んでいけ〜!ヒュ〜、ポチャン!ブクブクブクブク!ほら、痛いの海の底に飛んでったよ!だからもうだいぶ痛くないでしょ?」と言った。

…あ…いたいの、いたいの…

私の時は…ヒュ〜、ポチャン!ブクブクブクブクは、なかったな…

あゆみちゃんには、ヒュ〜、ポチャン!ブクブクブク付きなんだあ…

そっかあ…そうなんだあ…

おにぎりを頬張りながら、ぼんやりと二人のやりとりを見てしまった。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。

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