第34話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。いよいよ赤瀬川牧場に行く日、朝から張り切って…
日曜日。
珍しく自力で早く目が覚めた。
昨日、原さんとのことで、自分の中に溜まっていたモヤモヤがスッキリしたからだと思う。
汚れてもいい服装に汚れてもいいレインシューズを履いて、肩掛けバッグを下げ、外に出て深呼吸を一つ。
ああ、いい天気!
絶好の牧場日和だ。
階段の下になるちゃんとなるちゃんママ&パパ。
「おはようございま〜す!」
挨拶しながら階段を降りて、「なるちゃ〜ん!」「ゆりちゃ〜ん!」のハグ。
こんな風になるちゃんとハグし合うのは、久しぶりだった。
「いやあ、いい天気だねえ、ね〜、ところでなるちゃん達、どこかお出かけ?」
「うん…そうなの…ゆりちゃんは?ゆりちゃんもお出かけなの?」
「うん、そうだよ〜!ほら、教会のバザーの時の赤瀬川君、覚えてる?あの、赤瀬川君のおじさんの牧場にね、ヒデさんと金田さんと一緒に遊びに行くんだよ〜!」
「ふ〜ん、そうなんだあ…」
そうしていると、ヒデさんと金田さんも合流。
「いやあ、楽しみだねえ」とヒデさん。
「牛さんいっぱいですかねえ?」と金田さん。
「ふ〜ん…みんなで、牧場なんだあ…………なるも…一緒に行きたいなあ…」
「ん?なるちゃんも一緒に行きたかった?…でも、パパさんとママさんとお出かけって…あ、じゃあ、ミズエさん達も一緒に」
「違うの!違うの!ゆりちゃん!なる、1人で行きたいの!パパとママ、ごめんなさい…なる、ゆりちゃん達と一緒に行きたくしたの…ダメ?パパとママは、2人でお出かけして!お願い!なる、ちゃんとゆりちゃん達の言うこと聞いて、いい子にするから…ゆりちゃん達と一緒に行ってもいい?お願い!」
なるちゃんが急にわがまま言うなんて。
正直、驚いてしまった。
「どうする?」
ミズエさんとパパさんが迷って、話し合っていると。
「いいんじゃないですか?なるちゃん、僕達と一緒に行きたがってるみたいだし」とヒデさん。
「そ、そうですよ!なるちゃん、しっかりしてるし!ほら教会のバザーの時だって、私達と一緒で大丈夫だったから」
「そうですか…じゃあ…お願いします…なる、ちゃんとゆりちゃん達の言うこと聞いてね…ママ達、お出かけしないで、お家で待ってるからね」
急遽なるちゃんも参戦。
程なく、赤瀬川君が牧場の大きなワゴン車で迎えに来てくれた。
ミズエさんのピンクの軽自動車から、なるちゃん用のチャイルドシートを移し替えると、早速出発。
赤瀬川牧場は町外れの小高い丘の上にあった。
「わあ〜!広〜い!」
広大な牧場の柵の中に、大きな牛達が放牧されている。
「牛〜!」
なるちゃんと金田さんがはしゃいでいる。
赤瀬川君と酪農ヘルパーさん達に案内してもらい、牧場の様々な設備を見せてもらった。
そして、赤瀬川君にくっついて、みんなで牛がいる放牧地の中へ。
「うわあ〜!大きい〜!」
生まれて初めて牛に触った。
あったかい。
何故か訳もわからず、涙が出てしまった。
ふと見ると、なるちゃんと金田さんが牛に囲まれて泣いている。
可愛い!
二人ともギュッと抱き合って。
「大丈夫!大丈夫!」と赤瀬川君が助けてくれて。
「ふあ〜、助かった〜!」
牛が離れて安心した金田さん、今度は今したばっかりと思われる牛糞を長靴で踏んでしまって。
「ぎゃあああああ〜〜〜!牛のうんこ、踏んじゃった〜〜〜〜!」
わはははははははははは。
金田さん、面白〜い!
そして可愛すぎ〜!
再び赤瀬川君に手をとってもらって助かった金田さん、半泣き状態でそのまま長靴を洗いに連れて行かれた。
なるちゃんは柵の傍で、酪農ヘルパーさんに手伝ってもらいながら、子牛にミルクをあげている。
私は柵によしかかって、牛達を眺めた。
隣でヒデさんが鉛筆を走らせている。
「いいねえ、牛…いいわあ…ここ…本当、いいところだねえ」
青い空と緑の牧草、そして白と黒のコントラストがなんとも味わい深い牛達。
鼻から思い切り空気を吸い込むと、微かに牛の臭い。
「…なるちゃん…気を利かせたんだろうねえ…きっと…パパとママをさ、二人っきりにしてあげたいって、思ったんだろうねえ…」
ヒデさんの言う通りだと、私も思った。
だって、なるちゃん、あんな風にいきなりわがまま言って、みんなを困らせるような子じゃないもの。
ミズエさんもパパさんも、それをわかってるから。
「なるちゃん…健気だよねえ…」
「ええ…そうですねえ…」
ヒデさんと一緒に、なるちゃんを目で追った。
…
ヒデさんは、さらさらっと何枚も何枚もスケッチブックに、目に入る風景を描いていった。
「…あ、そうだ…あれからね…教会に通ってるってのか…行ける時は行ってるんだよね…」
「え!そうなんですか?」
「うん…なんかさ、ミシェルと妙に気が合っちゃって…それでね、教会の広報紙のね、挿絵とか、クリスマスのポスターも頼まれてね…」
「へえ、すごい!素敵!」
そこに長靴を洗った金田さんがやって来た。
「お二人さん、もうすぐお昼ご飯ですっ…て…えーーーーーっ!ヒ、ヒデしゃん!その絵!」
いや、「しゃん」って、金田さんよ。
「ん?これ?」
「そっ!そうです!そうです!その絵!ヒデしゃんが描いた絵なんですか?」
いや、見ればわかるでしょ!金田さんよ!
「えーっ!じゃあ、教会のバザーの、猫の絵はがき!あれもヒデしゃんの?」
「うん」
「嘘〜〜〜〜っ!探し求めてた人〜!ここにいたよ〜〜〜〜!」
金田さん、興奮しながら牛達に向かって大きく叫んだ。
話を聞くと、教会のバザーで一目惚れした猫の絵はがきを購入した金田さん。
職場で見せたら、支店長を始めとする「偉い人々」から、「是非!我が銀行のイメージポスターを描いて欲しい!」との声が上がったそうで。
教会にどなたが描いたかご存知ないですか?と問い合わせたばっかりとのこと。
すぐには教えてもらえなかったので、後日お知らせしますと言われたのだが…
「ヒデしゃん!いや、前田ヒデしゃん!どうかお願い致します!詳細は後日追ってお知らせ致しますんで!…って、いやいや、それは置いといて、ヒデしゃん!ゆりしゃん!お昼ですって!お昼!バーベキューとピザですって!行きましょ〜!行きましょ〜!」
鼻息荒くしたままの金田さんに連れられて、母屋のバーベキュー会場へ移動した。
それにしても金田さん。
多分、なるちゃんの「ゆりちゃん」「ヒデさん」が混ざって、「ゆりしゃん」「ヒデしゃん」になったんだね。
じゃあ、私も金田さんじゃなくて、「あゆみちゃん」って呼んでもいいか聞いてみなくっちゃ!
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




