第32話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
原さんはいつもと変わりなく接してくれる。
と思ってたけど、もう「ゆりさん」ではなく、私を前の様に「広瀬川さん」と呼ぶようになった。
あ…やっぱ、そうだよね…
私はあの時、どれだけ原さんのことを深く傷つけてしまっていたのか、「広瀬川さん」と呼ばれることで思い知った。
そうくるならこっちだって。
と言う訳じゃないんだけれど、牧場見学が近づくにつれ、どんどんと赤瀬川君とばかり話すようになった。
「え〜、やだ〜、あはははは」
笑いながらポンと赤瀬川君の背中を軽く叩いた。
その時、不意にハッとした。
…あ…私も同じ感じかも…
あんなに原さんにベタベタしている渡辺さんを嫌っていたのに。
嫌悪感しか感じていなかったのに。
あんな風には絶対にならないって決めてたのに。
…でも、今、私も、赤瀬川君に対して、同じようなことしちゃってるかも。
原さんが見ている前で、これ見よがしに赤瀬川君と親し過ぎる程、仲良くしちゃってるかも。
私はベタベタしてないつもりでも、原さんの目には私が赤瀬川君にベタベタ、イチャイチャしている様に見えているかもしれない。
気がついてしまうと、急にへなへなと体の力が抜けていく様な感覚に陥った。
そして、何故か原さんに「ごめんなさい」って言いたくなった。
…
休憩時間、トイレの前で原さんとばったり。
これはチャンス!と思い、すれ違う一瞬の隙に深く頭を下げて、大声で謝った。
「原さん!この間はごめんなさい!」
店内に戻りかけていた原さんの足が止まった。
「え?」
「原さん、この間の雨の夜、折角車で送っていただいたのに、私、原さんに酷い言い方しちゃったから…だから、どうしても謝りたかったんです…それで、図々しいけど、やっぱり広瀬川さんじゃなくて、ゆりさんって呼んでもらいたいです」
そこまで言うと、勝手に涙が溢れた。
「え?え?え〜っ?そ、そんな、急に謝られても…」
「本当にごめんなさい」
もう一度深く頭を下げた。
どうしても許してもらいたいと思った。
「あの、もう、あの、頭を上げて下さいよ〜、やだな〜、も〜…僕は、何も怒ってないですから…」
「本当に?本当ですか?」
「本当に本当です」
「じゃあ…あの…」
「あ〜、はいはい、ゆりさん!これでいい?」
「はい!ありがとうございます!」
「じゃあさ…ゆりさんも、今度から原さんじゃなくて、雄大って呼んでもらえるかなあ」
「え!え!え!は、はい…あ、あの…ゆ…ゆゆゆゆ…ゆう…ゆうさん…ごめんなさい、雄大さんってちょっと無理です…だから、あの…ゆうさんでもいいですか?」
「…ん〜…じゃあ、それで…んふふ、じゃ」
朗らかに笑いながら、原さんは仕事に戻って行った。
良かった〜!
仲直りできて、本当に良かった〜!
心ではちゃんとわかってる。
原さんは大人だから、ああ言ってくれたんだと。
だから原さんの本当の心はわからない。
でも、表面上は今までと同じ形で接してもらえそう。
やっぱり原さんは、私にとって憧れの人だなあと思った。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




