第31話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
先に渡辺さんを家まで送り届けると、原さんと2人っきりになった。
だからと言って、空いた助手席に私がというのもなんかおかしい気がして。
そのまま後部座席で荷物と一緒に乗った。
渡辺さんの香りが、まだ車内に充満している。
それが嫌だったのか、原さんは何も言わずに車の全部の窓をほんの少しだけ開けた。
雨は入ってこないけれど、ひんやりした空気が車内を洗う。
「あ、あのさ、なんかごめんね」と原さん。
「ん?何がですか?」
「や〜、ほら、渡辺さん」
「へ?」
「いや、ほら、ゆりさんが買い物してる間、勝手に渡辺さんも乗せることにしちゃって…なんか悪いなあって…」
「え?いえ、全然!全然!全然大丈夫ですよ、だって…雨だし、渡辺さんも歩きで来てるから、助かったんじゃないんですかねえ」
「いや、あの、そうじゃ…なくって…なんと言うか…」
運転しながらしどろもどろの原さん。
原さんが言いたいことはわかってる。
本当は自分と私の2人きりでって思ってたところに、邪魔者と言ってはなんだけど、渡辺さんも同乗してきたことを申し訳ないと思っているんだと。
「なんかさ、とにかく、ごめんね」
「いいえ、原さん、謝らないでくださいよ〜…なんで謝るんですかあ、だって、はは、私達、別に付き合ってる訳じゃないんだし、この車は原さんのなんだもん、原さんが誰を乗せようと、そんなの自由じゃないですかあ…そんなのいちいち私に謝らなくたっていいのに〜…って言うか、私、謝られる筋合い全然ないし〜…ははは」
あ…原さん…
「そうだね…」
原さんの声のトーンが、一段下がった。
そして、それっきり何も話さず。
私からも何も話せず。
ただ、車全体に打ち付ける雨の音が聞こえるだけ。
後部座席からルームミラー越しに原さんの表情を伺う。
怖いようにも見える真顔の原さん。
今まで見せたことのない、暗い表情。
私のせいだ。
私が、あんな風に言ってしまったから。
(別に付き合ってる訳じゃない)
(原さんが誰を乗せようと、そんなの自由じゃないですか)
(そんなのいちいち私に謝らなくたっていいのに)
(謝られる筋合いは全然ない)
なんでああ言う言い方しかできなかったんだろう。
あんなぶっきらぼうで、投げ捨てた様な。
それを半笑いで言うなんて。
沈黙が長く感じた。
そうしている間に、アパートに到着。
「あ、あの、ありがとうございました…荷物は、1人で大丈夫ですから…」
そそくさと逃げる様に車を降り、アパートの階段で雨を避けると、原さんに手を振った。
てっきり今日も「純」で何か食べて帰るんだろうと思っていたのに、原さんは車から出て来ず、そのまま行ってしまった。
…
多分…いや、絶対、原さん傷ついただろうなあ。
怒らせちゃったよなあ。
あの時、なんか私、原さんが渡辺さんを勝手に車に乗せてたことが、更にはいつも私が乗せてもらっている助手席に乗せてたことが、なんか許せなかった。
今は赤瀬川君に夢中のくせに。
原さんのことなんか、今は全然なんとも思っていないはずなのに。
それでも、なんだか許せない気持ちでいっぱいだったんだ。
なんで渡辺さんなんか乗せるのよー!って、言いたかったんだと思う。
原さん…いつも優しいから…あんな顔するなんて、思わなかった。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




