第29話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。川島さんが職場に挨拶に来て…
今日、ぎっくり腰の川島さんが旦那さんに連れられて、職場に顔を見せた。
「あの、こんな形で辞めることになって…」
お昼の休憩時間で私と原さんは川島さんに会えたけれど、休憩時間が違う水島さんや赤瀬川君なんかは、残念ながら会えず。
高島さんは丁度お休みで。
しょうがないけれど、こればっかりは仕方がない。
それでも、私と原さんと他数人の皆さんは、川島さんときちんと挨拶できた。
「今度から、お客としてまたここに来ますんで、その時は…」
前もって用意していた大きな花束と、このスーパーのほぼ全員からのカードを渡すと、川島さん、泣き崩れてしまい、旦那さんに抱きかかえられる形でお別れとなった。
「皆さんで」と、川島さんからチョコレートの焼き菓子の差し入れ。
長年苦楽を共にした店長も、人目も憚らず号泣してたっけ。
寂しいなあ。
すっかり日が暮れた帰り道、1人とぼとぼ坂を上っていると、前にやっぱり私みたいにとぼとぼと坂を上っている小柄な女性。
「あ!金田さん」
思わず声が出てしまうと、その人がゆっくりと振り向いた。
「あ!広瀬川さん!今、帰りですかあ?」
とぼとぼしている後ろ姿とは裏腹に、明るく元気いっぱいな金田さん。
一緒に帰ることになった。
「まだ、あの、慣れなくて…ちょっと、息が…」
「わかる〜、私もね、あのアパートに住み始めた頃、行きは楽なんだけど、帰りのこの上り坂がなかなか大変だなあって…だから、ちょっと上っては休んで、息を整えてって感じで…」
共通の話題から始まって、2人で並んでゆっくり歩きながらお喋り。
「…なんか…職場の先輩の当たりがキツいってのか…その、パワハラ…まではいかないんですけどね…そこまでじゃないんですけど…なんか…私と一緒に入った、その同期の男にはすんごく優しくて丁寧に教えてるんですけど…私がわからないこととか尋ねると、なんか…雑…ってのか、そっけない感じってのか…まあ、そんな感じなんですよねえ…その女性の先輩1人だけなんですけどね…後…今日…」
金田さんの愚痴が止まらない。
うんうんと聞きながら、私も以前勤めていた職場でのことなんかを思い出していた。
話している途中、金田さんのスマホが鳴った。
「あ、ちょっとすいません」
そう言ってバッグの中から取り出したのは、私が教会のバザーに出した動物の顔巾着。
「あ!それ!」
「え?ああ、これですか?…なんだあ…ニャインかあ…もう、しつこいっての!…え〜と、なんでしたっけ?」
私が巾着を指さすと…
「ああ、これのことですか?可愛いでしょ〜!これ!教会のバザーでゲットしたんです!うふふ…他にも色んな動物のがあったんだけど、私、猫が大好きだから、これにしたんですよねえ!えへへ…スマホを入れるのに丁度いいサイズなんですよねえ、これ、そんで、このふわふわの感じと、このずるい顔とか、全部!全部大好き!お気に入りなんですよ〜!だから、大事に大事になるべく汚さないように気をつけて…」
「う…嬉しい…」
「え?」
「そんな風に言ってもらえて、嬉しい!ありがとう!金田さん!」
「ん?ん?なんですか?どういうこと?」
その動物の顔巾着を作ったのは自分だと告げると、金田さん、辺りに響くほどの大声で「ええええ〜〜〜〜っ!」と驚いていた。
…
「一人暮らしって、やってみると大変だなあって…」
「わかる〜!」
「始める前は、毎日料理しようとか、お弁当作ろうとか、天気が良いお休みの日は、お布団干してとか、色々やろうって意気込んでたんですけど…実際は、なかなかどうして…ゴミはかろうじてきちんと仕分けて捨ててますけど…他が…洗濯もちゃんとやってるんですけどねえ…乾いたそれらをきちんと畳んでしまってってのが…めんどくさくて…」
「わかる〜!わかりすぎる!」
金田さんは、あの頃の私だ。
荒んだ生活を送っていたあの頃の私と一緒。
心も体も疲れ切っちゃってて。
でも、全部自分でやらなくちゃいけなくて。
きっちりはやり遂げたい気持ちはあるけど、現実はふんわりボワ〜っとしかできなくて。
そっかあ。
じゃあ…
「あ、そうそう…金田さん、来週の日曜日にね、私とヒデさん、ほら金田さんの部屋のお隣の」
「ああ、前田さん」
「そう!ヒデさんとね、私の同僚の赤瀬川君のおじさんの牧場にね、遊びに行かせてもらうんだけど…よかったら一緒にどうかなあと思って…ダメだったら、無理しないでね…そこはちゃんと断ってもらって大丈夫だから…」
「へ?いいんですか?わあ!行きたいです!行きたいです!牧場ですか?じゃあ、牛さんいっぱい…」
誘ってよかった。
少しでも金田さんの気分転換になればと思って、思い切って誘って本当によかった。
普段と違う場所で、自然や動物と触れ合えば、きっと幾らか心も軽くなるはず。
そうやってリフレッシュしたら、またお仕事頑張ろうって。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




