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第28話

前回の続きです。漬物名人の川島さんが、ぎっくり腰を理由に仕事を辞めることになって…

今日も今日とて忙しすぎた。

毎週火曜日は「火曜トクトクお得デーっす!」なもんだから、朝から大変。

セルフレジだけでは間に合わないので、私達の出番。

とにかくひっきりなし。

仕事が終わるまでが、いつもよりも長く感じられた。

「お疲れ〜!」

蒲鉾の高島さんに声をかけられた。

「ねえ、聞いた?川島さん、ほら、今、休んでるでしょ?ぎっくり腰で…」

「ええ」

「それがね、なんか仕事辞めるんだって…」

「えっ!そ、そうなんですか?え〜っ!ヤダ〜!」

「ねえ、ヤダよねえ…でもね、結構、腰、大変みたいで…川島さん、年齢も年齢だから…それで、残念だけど、今月いっぱいでってことになってるんだけど…仕事に出て来れなさそうなのよねえ…どうしたものかしらねえ…」

ほんの2〜3日前、お休みだった川島さん、自宅で漬物の仕込み作業中、ぎっくり腰になっちゃって、それから休んでいるのだけれど…

よほど悪いらしい。

明後日の休み、丁度同じく休みの水島さんに誘われて、一緒に川島さんのお見舞いに行こうとなった。

前日、高島さんから「お見舞い用」と託された蒲鉾を持って、水島さんの車で川島さんのお宅へ伺った。

「あら〜、水島さん、ゆりちゃん、わざわざありがとうねえ…ささ、あがってあがって」

訪れた川島さんのお宅は、道路から家までのストロークがなかなかの長さで、大きくて広い立派なお宅。

広くきちんと手入れされた庭には、沢山の果物の木が植えてある。

今の季節は、栗と林檎と葡萄が実をつけている。

そして、芝生が敷いてあるところの物干し竿に、大根が沢山干してあった。

初めて入れてもらったはずなのに、どこか懐かしさを感じるお部屋。

リビングの大きなテーブルは、大きい木を輪切りにした形の天板で、美しい年輪がなんとも言えない風情を醸し出していた。

「コーヒーでいい?」と川島さんの旦那さん。

川島さんは部屋の中でも杖をついていた。

「大丈夫ですか?」

「ん〜…ねえ…まあ、家の中だけなら、こんな感じで、お父さんが色々やってくれるから、まあ、そこそこ大丈夫なんだけどねえ…仕事となると…なかなかどうして…」

「そうですかあ…」

「まあ、私も歳も歳だから、今まで働かせてもらえてただけ、ありがたいって思ってる…それは本当…だけど、本音はさ、あんた達とまた一緒に働きたいんだけどねえ…」

そこまで言って、川島さんは頬に流れた涙を、漬物柄のエプロンで拭った。

そして、ティッシュでふん!っと鼻をかむと、赤くなった目の周りと鼻のまま、顔をあげてぎこちない笑顔を見せた。

私が縫ってプレゼントしたエプロン。

川島さん、ちゃんと使ってくれてるんだ。

なんだか嬉しいのに、悲しかった。

「…そうそう、ゆりちゃん、あれからおでこは大丈夫?」と言う話になった。

「ええ、もうすっかり」

「あの時ね、ゆりちゃん気絶しちゃったでしょ、それで、私と高島さんで抱き上げて休憩室の座敷のところまで運ぼうとしたんだけど、なんかね、私達2人だと上手くできなくって、高島さんとね、どうしようって困ってたら、すかさず赤瀬川君がサッとゆりちゃんをお姫様抱っこして、運んでくれたの!すんごく助かっちゃった…あの時、赤瀬川君が休憩室にいなかったら、誰か男の人呼びに行こうって言ってたのよお…」

え?え?え?え?

そ…そうなの?

おでこをぶつけて気を失ってた時、座敷に寝かせてくれたのは赤瀬川君だったんだ…

知らなかった。

「え、え、今の話、本当ですか?」

「うん、あれ?ゆりちゃん、赤瀬川君から聞かなかった?」と水島さん。

「ええ…何も…」

何も聞いてない。

おでこの心配をしてくれたけど…

「いたいのいたいの」してくれたけど…

そんなこと、何も教えてくれなかった。

でも…

「…あ、それでねえ…ちっちゃい男の子が、おばあさんが桃を指で押した!って、すんごい必死に教えてくれて…それでね…」

水島さんと川島さんの楽しい話が、何も入ってこない。

今は、どうしても赤瀬川君の顔ばっかり、思い出してしまう。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

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