第27話
前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。なるちゃんのパパが登場します。そして、原さんにまた車で送ってもらって。
「ゆりちゃ〜ん!おかえり〜!」
「あ〜、なるちゃ〜ん!ただいま〜!」
仕事から帰って来てすぐ、アパートの駐車場前で、なるちゃん親子と見知らぬ男の人に会った。
近頃、ちょいちょい見かけるその男性。
こうしてきちんとした形で会ったのは、今日が初めて。
「あ、どうも〜」などと軽く会釈。
それと同時にちょんちょんと私を軽く突いたなるちゃん。
「あのね〜、え〜とねえ、ゆりちゃん、あのね、なるのパパなの!えへへ」
へ?
唐突に紹介された男性は、な、なんとなるちゃんのお父さんだと言う。
驚いて言葉を失っている私に、なるちゃんママのミズエさんが補足説明を始めた。
「あ〜、ごめんなさい、ゆりちゃん、びっくりさせちゃったかしらね…え〜と、そうなの、この人、あのなるのパパで、別れた元夫なの」
ええええええ〜〜〜〜っ!
「あ、どうも、あの、いつもミズエとなるがお世話になって…」
男性から挨拶を受け、私も頭の中がパニック状態だけれど、それでもそれなりに必死に挨拶を返した。
「…じゃ…あの、失礼します」
そう言うと、その男性は純喫茶「純」とアパートの間にある、「お客さん用」の駐車スペースに停めてあった黒い軽のワンボックスカーに乗り込むと、スーッと行ってしまった。
「パパ〜!バイバ〜イ!」
去って行く車をいつまでも手を振って見送る、なるちゃん達の姿がなんだか印象的に映った。
それから程なく…
久しぶりに原さんと帰りが一緒になったので、また車に乗せてもらうことに。
だもんで、ここぞとばかりにまたトイレットペーパーにティッシュ、更にお米やじゃがいも、後は洗剤類など、重くて嵩張る物を買って積んでもらった。
ありがたい。
けれども、なんとなくこういうのの回数が減った。
意図的に減らした訳じゃない。
帰りが一緒なのも、結構あった。
原さんに声もかけてもらった。
だけど、なんとなく…
自分でもよくわからないけれど、なんとなく避けていたとまではいかないものの、遠慮しちゃっていた。
赤瀬川君とは距離が縮んで来た気がする。
その代わりと言ってはなんだけど、原さんとは少しだけ、距離が離れた印象。
仕事中とか、休憩中とか、普段は何も変わっていない雰囲気は出しているけれど…
私のこういう態度を、原さんもなんとなくわかっているんじゃないだろうか?
…と思ったけれど、全然、何にもわかってなかった。
原さんはいつもの原さんのまんま。
そこが彼の良いところなんだとわかる。
あ、そう言えば、原さん…
「広瀬川ゆりさん」
最近、フルネームで呼んでくる。
私を「ゆりさん」と呼ぶ呼ばないで、ごちゃごちゃ喋っていたっけと思い出す。
「なんかすいません、荷物も一緒にいっぱい乗せてもらっちゃって…」
「いやあ、そんな…ついで…だから…あ、広瀬川ゆりさん」
ハンドルを握る原さんの顔に、対向車からのライトがあたると、顔が赤くなっているのがわかる。
助手席に乗せてもらっているから、気づいた。
そして思う。
本当にこの席に乗せてもらっていいんだろうか?
助手席って、普通は彼女とか奥さんが乗る「特別な席」ってイメージがあるけど。
私はここに乗ってていいんだろうか?
荷物と一緒に後部座席の方が正解なんじゃないんだろうか?
職場のスーパーから、アパートと純喫茶「純」までの短いドライブ中、原さんと話しながらも、ずっとそんなことを考えていた。
「え〜と、荷物はこれで全部だね…じゃあ、また…」
部屋まで荷物を運び込んでくれた原さんは、そのまま階段をトントンと降りて行く。
その途中で、思わず声をかけてしまった。
「あのっ!原さん!」
「ん?」と階段の踊り場で足を止めて、原さんがこちらを振り向いた。
「あのっ、あのっ、ゆりさんって呼んで下さって、あの、大丈夫ですから!」
それだけ言いたかった。
「あ、ん、わかった…じゃ…あの…ゆ、ゆり…さん…おやすみなさい」
そう返すと、原さんは何度も何度もこちらを振り返り、手を振りながら純喫茶「純」へ向かった。
私はただ、原さんがいちいち「広瀬川ゆりさん」ってフルネームで呼ぶのが気になってただけ。
それだったら、「ゆりさん」でいいのにって、思っただけ。
本当にそれだけなの。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。




