表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/96

第26話

前回の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。アパートの新しい住人と、さとみのこれからのお話です。

アパートの1階に越してきたのは、金田あゆみさんと言う私よりも若くて小柄な可愛らしい女性。

私が勤めてるスーパー近くの、「エーゲ海銀行」で窓口業務にあたっているそうだ。

どうりで初対面のはずなのに、どこかで会ったことがある様な気がしていたのは、銀行へ行った際に会っていたからだと判明。

まあ、その時はお互い、その場だけの関係だったから記憶が薄くなっているけど。

とても感じのいい方で、お互い接客業ということもあり、妙に話が合った。

引越しのご挨拶で仲良くなれて、なんだか嬉しかった。


それからしばらくして…

丁度良いタイミングで、さとみと久しぶりに休みが合ったので、毎度お馴染みの駅前で待ち合わせ。

今度こそと思い、駅中のおしゃれカフェに挑むも、やっぱり長蛇の列。

あのカフェの行列に並ぶと、入店は多分夕方ぐらいになるんじゃないかなと思った。

だもんで、今回は駅の地下街にある老舗と言ってもいいぐらいの、古くから同じ場所でやってる喫茶店へ。

純喫茶「ロマネスク旅団」

薄暗い店内には、ステンドグラスのテーブルランプのオレンジがかった灯りがぼんやりしている。

ワインレッドのビロードのソファーは、座り心地抜群で、いつまででも座っていられそう。

お店の中では、静か〜に古いジャズが流れている。

そんな大人な空間で…

「えっ!嘘っ!嘘でしょ!なんでまた?」

いけない…驚いてつい、でっかい声になっちゃった。

だって、そうなっても仕方がない。

「さとみ、沖縄に移住すんの?」

突然の話なんだもの。

「え?え?なんで?なんで沖縄?仕事は?どうすんの?住むところとか…」

頭の中の私が、何もそこまで根掘り葉掘り聞かなくても、落ち着いて落ち着いてと宥める。

一旦、深呼吸してアイスティーをストローでちゅ〜と吸った。

あ〜、美味しい。

…じゃなくて、なんで沖縄?

なんで移住?

「ん〜…なんかね、ほら、あの後…」

ああ、バザーの寄付を持って来てくれたあの時ね。

「あれから、わりとすぐインドに行って来たでしょ!あたし」

そうだった、そうだった。

ついさっきインドのお土産っつって、なんか嗅いだことのない独特の匂いがするお香とか、カレーっぽい香りの香辛料とかもらった、もらった。

「…なんかさ、もう男のことは懲り懲りって感じで、1人でインドに行ってみてさ…なんか…全部吹っ切れたってのか、悟っちゃったみたいなんだよね…」

「何を?」

「…ん〜…なんつうか…言葉で説明するのは、ちょっと難しいんだけどね…こう、なんか、体中のエネルギーが、頭のてっぺんからつま先まで…なんかさ、こういう感じでさ…流れてさ…それまで私の体と心に纏わりついてた悪い気みたいなものがさ、こう、パーッとね、なんつうか、光に包まれて浄化する感じってのか…ほら、こ〜んな感じでね…」

さとみ、座ったまま、身振り手振りで一生懸命説明してくれてるけれど、ごめん、全然わかんないや。

でも…

「そ、そう、なんだねえ〜…」

わかった風の口を聞いちゃった。

「ん〜、それはわかったとして…なんで沖縄?」

あ、本当にごめんね、さとみ。

本当は全然、何もわかんないけど、わかったていで続けるね。

「…ん〜…なんつうの?沖縄ってさ…海がさ、ものすごく綺麗じゃん!」

「うん、そうだねえ」

それはわかるよ!

行ったことないけど。

「そすとさ、沖縄の海が私を呼んでる感じ…いや、なんか…沖縄の自然の豊かさがさ、私を必要としてくれてる感じっての…上手く説明できないけど…」

さっきのインドの説明も、あんまり上手じゃなかったけど、それはさとみ的には上手くやれた感があるんだね。

わかったよ。

私にはさっぱりだったけど、わかったていでいるね。

さとみはミックスサンドのハムときゅうりのパンを一つ食べると、話を続けた。

私はさとみの話が唐突すぎて、まだ鉄板の上でジュ〜ジュ〜いってるナポリタンを食べられずにいる。

とりあえず、粉チーズをかけただけだ。

「沖縄の海にイルカいるでしょ?」

多分、沖縄だけじゃなく、結構日本中どこででも見れると思うけど…まあ、いいや。

「あたしさ…なんつうか…ん〜…なんだろ…なんか…あれだ…ただ、沖縄で暮らしてみたいって思ったんだよねえ…」

「へ〜え」

返事はしたものの、結局、よくわからないまま。

それでも、さとみがそう決めたんなら、応援しようと思った。

「で、いつ行くの?」

「うん、来月…もう、会社には、先週だったかな?辞表出したんだよね…」

「そうなんだあ…」

本当は他にも聞きたいことがいっぱいある。

あんなにカラオケで練習してたけど、もう「さよならのど自慢」に出る夢はいいのかな?

きっと、もういいんだね。

なんかわからないけれど、さとみはインドで何かを悟って、吹っ切れたんだね。

「あ、そうそう、さとみが寄付してくれたあの品々ね、結局1つ100円で売っててね、それで高校生ぐらいの女の子がね、キーホルダー買ってたよ…同じグループの違う子は、バッグチャーム買ってたね」

「へ〜、そうなんだあ〜」

「そうそう、そうなんだよねえ…でもね、あのぬいぐるみあったでしょ?あれの1個は、多分中学生じゃないかなあ?男の子がね、一緒に来てた同じ中学生ぐらいの女の子に買ってあげてたわ」

「へ〜え」

それからバザーの話や、アパートの新しい住人の話など、色々いろいろ。

けれども、赤瀬川君に「いたいのいたいの」された話は、忘れちゃってた訳じゃないけど、なんかさとみには話せなかった。

さとみとは親友だけど、なんでもかんでも全て話してる訳じゃない。

さとみだって、きっとそう。

沖縄に移住するって聞いた途端は、私も若干パニックになっちゃって、色々質問攻めしちゃったけど。

あれは冷静になってみると、自分でもどうよと思ったけど。

でも、それでいいんだもん。

私はさとみに、さとみは私に話したいって思う話だけ話せば、それでいいんだもん。

話したくない話を無理にするのは、自分も相手もしんどくなっちゃうだろうから。

別れ際、いつもの様にさとみの赤い軽自動車に手を振る。

後、何回、さとみとこんな風にバイバイしあえるんだろう。

そう考えると、なんだか寂しくて堪らなかった。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ