第21話
前回の続きです。どうぞよろしくお願い致します。
さっき、水島さんからおでこのことを聞かれると、急に思い出したかの様に薄っすら痛い。
あの後、吐き気を催したり、強い眠気に襲われたりせず、入浴中の髪を洗う際やあがった後、ドライヤーで乾かす時、僅かに痛かった程度。
今朝鏡で確認するも、ぶつけた部分が青くはなく、まあ、若干膨らんでというか、出っ張ってる感じだけ。
今はただバザーを満喫している。
満喫して満喫して、「うひゃあ〜!」って叫びたいぐらい。
礼拝堂を奥に進んでいくと、今度は寄付の品や手作り品のコーナー。
「あ!ミシェルせんせ〜!」
店番をしていたのは、この「坂の途中教会」の牧師さんで、なるちゃん達の保育園の園長先生も務めているミシェル牧師。
うねりのある黄金色の髪に、緑がかった綺麗な青い目が素敵だ。
まだ若そうに見えるけれど…多分40代前半ぐらいじゃないだろうか。
「あ〜!なるちゃ〜ん!おはようございま〜す!今日も元気ですかあ?」
生粋のフランス人だけど、外国人特有のおかしなイントネーションなどまるでなく、滑らかで流暢な日本語なので、話していても全然違和感を感じない。
ミズエさんがこぼしていたとうり、寄付の品は少なかったそうで。
だもんで、ミシェル牧師が母国で暮らしている親戚や友人達にお願いすると、早速、あちらの物を色々見繕って送ってくれたと。
「へ〜え、なるほど〜!」
前田さんと2人、「だから、何となくおしゃれな雰囲気の物が多いんだねえ」と話した。
「ほとんどガラクタみたいな物ばかりなんですけどねえ」
え〜〜!そうなの〜!
ミシェル牧師には、これらがガラクタに見えるんだね。
私の目にはどれもこれもおしゃれで、素敵で、可愛く見えるんだけど。
ゆっくりじっくり一つ一つ見て回る。
クリスマスっぽい物が多いと思った。
春のイースターの頃と、秋のこの時期の年2回のバザーだから、クリスマスが近いこの時期は、そういった物が多めなんだとか。
そんな中、なるちゃんが立ち止まって真剣に悩んでいる。
「なるちゃん、どしたの?」
「なるね、これ、欲しい気持ちなの」
「どれどれ」
なるちゃんが指さしたのは、ソフトボールぐらいの大きさのスノードーム。
ガラスの中で、森の可愛い動物さん達が真ん中の大きなもみの木の周りで、何やら楽しそうに踊ったり、楽器を演奏している。
台座の部分に「メリークリスマス!」と英語で書いてある。
手にとって振ってみると、中で真っ白い雪がちらちら舞ってとっても綺麗。
「わあ、素敵!可愛いねえ!」
「…うん…そうなの…でも…」
なるちゃんは悲しそうな顔で、がま口の中のお金を確認している。
「ゆりちゃん、ヒデさん、ねえ、なる、これ買える?」
スノードームは300円。
でも、なるちゃんの残りは…
「う〜ん…」
どうしよう。
ここは私が買って、なるちゃんにプレゼントしちゃいたいけど。
でも、買えない現実を大人として教えた方がいいんだろうか?
迷う…
どうしたらいいんだろう?
前田さんも腕組みをして考え中。
どうする私。
あんなに欲しそうにしているなるちゃんに、諦めさせるのは苦しすぎる。
う〜ん…
私と前田さんが黙りこくって考えていると、何かを察したミシェル牧師が、さささっとスノードームについていた値札の値段を書き換えた。
300円が50円に。
「えっ!」
驚く私と前田さんをよそに、ミシェル牧師はニコニコしたまま「なるちゃん、これ、お安くしたから大丈夫ですよ!買えますよ!」と。
「わあ!」
萎んでいたなるちゃんの表情が、途端にパーッと明るくなった。
「えへへ」
「良かったね!なるちゃん!」
まさかミシェル牧師があっさり値引きしてくださるなんて。
「だって、バザーですから」
ミシェル牧師の言葉が深く刺さった。
そうだよね。
これは教会のバザーなんだもんね。
そう思った瞬間、急にハッとなった。
「あ、ご、ごめん!なるちゃん、前田さん、あの、私、ちょっと…」
それだけ言って、慌てて自分が出した動物の顔の巾着のところ向かった。
300円。
私、調子こいてた。
一生懸命作ったのだから、この値段で十分なんて思ってた。
なんて上から目線の嫌なやつだろう。
ここまで見て来たどれもこれも、信じられない程の安さで提供されていた。
私もその恩恵をたっぷり受けて、喜んでたけど…
それなのに、自分はどうだ。
なるちゃんみたいな小さい子供達だって、いっぱい買いに来てくれてるってのに。
私は…
「あ!あのっ!あのっ!こっ!これの、あの、これ作って出した者なんですけど…あの、これ、今すぐ値引きしたいんです!値段書き換えたいんです!急で本当にごめんなさい!でも、お願いします!お願いします!」
精一杯頭を下げると、同じ物を持っているなるちゃんの助けもあって、私が寄付した物だとわかってくれた。
早速、値引き。
ミシェル牧師と同じく、300円を50円にしてもらった。
「よ、良かったあ〜…」
ほっとして胸に手をあてていると、隣で前田さんが私と同じことをしていた。
前田さんは自分が描いて寄付した絵はがき1枚50円のところ、慌てて10円に値引いていた。
目が合うと、2人で「わははははは」と大笑いしてしまった。
300円にしていたから、まだ1つも売れていなかったけれど、50円にしたことで、私の目の前で次々と売れていった。
なんか嬉しい。
幸せ感に浸っている間に、買おうと決めていた前田さんの絵はがきが完売。
「あ〜…残念…欲しかったなあ、絵はがき…」
「え?」
「ええ、はい…なるちゃんとこで、事前に見せてもらってた時から、絶対に買うぞ!って思ってたんですけど…」
「なるもなの…」
「え〜っ!そうなの?じゃあ、早く言ってくれれば…」
そう言うと前田さん、スタスタと礼拝堂の前へ行き、背中のリュックを床に下ろし「どっこらしょ」と椅子に腰掛けると、肩から下げてたバッグから紙とペンを取り出した。
「ん〜と、先になるちゃんのからにしようか…」
なるちゃんが気に入ってた屋根の上の猫の絵を、さらさらさらっとあっという間に描き上げると、今度はバッグの中から絵の具がいっぱいのパレットを取り出し、水の入った筆でさっと色付け。
「はい!これ、どうぞ!まだ、ちょっと濡れてるから、乾かして待っててね。」
描きあがったばかりの絵はがきを、両手の上で慎重に乾かすなるちゃん。
お次は私の番。
リクエストしたのは、ブロック塀の上で寝そべる黒い猫の絵。
「ああ、あれね」
そう言うと、再びさらさらさらっと前田さん。
ものの5分程度で完成!
さすが!プロ!
なるちゃんと私だけ、特別だって。
うふふ。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞよろしくお願い致します。




