第2話
坂の中腹にあるアパートに住んでいる「私」です。
よくテレビのCMで見かけるシチュエーションは、素敵な坂道。
どんなジャンルのCMでも、歩きにしろ、自転車にしろ、車にしろ、なかなかの坂道を上って来る。
そんなのがどうにも素敵に見えてしまったから、だから、うっかり坂の上側にあるアパートを選んでしまった私。
坂のてっぺんまでじゃないにしろ、中腹ぐらいの場所だから、やっぱりそこそこ疲れてしまう。
あれから2年。
もうだいぶ慣れた。
始めの頃は、駅までの下り坂は楽にスタスタ行けても、帰りが地獄で苦しいなんてもんじゃなかった。
「帰り」は所詮「帰り」だから、よほどトイレに行きたいなどの切羽詰まった事情でもない限り、慌てて急いで汗だくで息も絶え絶えで上ることもなく、ダラダラとゆっくり苦しくならない程度の自分のペースで上る。
最初は本当に調子こいてて、オシャレな手提げのバッグなどを持ち歩いていたけれど、この頃は車で迎えに来てもらうとかじゃない限り、肩から斜め掛けのバッグやリュックサックばかり。
更に靴も歩きやすいスニーカーしか履いてないかも。
ヒールのある華奢な靴は、滅多に出番がなくなった。
ちょっぴり寂しい気もするけれど、アパートまでのこの坂の上り下りを思うと、どうしてもスニーカーがいいに決まっている。
少しだけドレスアップした服装でもスニーカーなんて、昔のニューヨーカーみたい。
そう考えたら、スニーカー生活も悪くないって思える。
仕事もそういう「スーツ系」の仕事じゃないから。
最近、バイトの時給が上がった。
例え1円単位だとて、嬉しい。
チリも積もれば山となるだものね。
だからか、このところ張り切っている私。
うふふ。
バイト先のスーパーは、先月から「セルフレジ」を導入したので、私の仕事も僅かに楽になった、気がする。
同僚のおばさま達…いや、お姉様達は始めの頃からものすご〜く優しくて、丁寧に仕事を教えてくれた。
私のミスも嫌な顔一つしないで、カバーしてくれる。
店長や社員の方達も気さくで、雰囲気のいい職場なのが本当にありがたい。
ありがたすぎて、泣いちゃいそう。
だって、洋裁の専門学校を卒業した後すぐに就職した縫製工場は、ベテランのお姉様方の当たりがとてもキツくて、仕事の内容も専門的で難しく、慣れるまで随分時間がかかってしまった。
あそこに勤めていた時は、その日その日が信じられないくらいとても長く感じた。
慣れない作業に体も頭もなかなかついていけないし、そうなると心もいつ、どのタイミングでポッキリ折れてしまうかって感じだった。
それでも2年半は我慢した。
我慢して通った。
でも、やっぱりどうしたってしんどくて。
それで、辞めたんだった。
その後、2~3度違う仕事をして、やっと今の職場に辿り着いた形。
紆余曲折ってこういうことなんだってわかったのは、最近じゃないかなあ。
…
「ゆりちゃんお疲れ様〜!」
そう言って、小学5年生の男の子と小学2年生の女の子のママさんで仕事の先輩の水島さんから、自家製のパンを頂いちゃった。
嬉しい!
ほぼ毎週の様に、ホームベーカリーで作った美味しいパンを頂く。
次の休みの日は、久しぶりに水島家で子供達と一緒にパン作り。
前回は…休みが合わなかったり、それぞれ色々あって、3ヶ月ぐらい前だったと思う。
それはさておき…
あ〜、今からもう楽しみでしょうがない。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。主人公の「私」の名前は、とりあえず「ゆり」になりました。同じ町内のスーパーでアルバイトをして生計を立てています。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。