第14話
前回の続きです。さとみと一緒にランチしながらおしゃべりして…
「さっきの彼」
「あ〜、赤瀬川くん?」
「そう!その赤瀬川くんさ…いいね」
「うん、私も同じこと思った」
「だよねえ」
そうなのだ。
仕事場で会ういつもの彼には、こんな風にときめいたことなんてなかった。
そんでもって、まじまじと彼の顔を見つめたのも初めて。
赤瀬川くん…整った綺麗な顔してた。
私、今まで彼の何を見ていたんだろうって思う。
今日も今日とて、駅中のあのカフェはやっぱり行列だったから、さとみと駅前のデパート内の食堂でランチ。
さとみと二人「レディース御前」に決定。
海老、茄子、蓮根の天ぷらに、マグロ、鮭、はまち、海老の握り鮨とミニ蕎麦、それに茶碗蒸しとお漬物、食べ終わると、コーヒーか紅茶のどちらかと小さなケーキがついてくるセットメニュー。
蕎麦もコーヒーも紅茶も、温かいのか、冷たいののどちらかを選べる。
これで税込み1580円はお得。
さとみも私も、お蕎麦もコーヒーも冷たいのにした。
飲み物は紅茶にするか迷ったけれど、同じ方がなんとなく良いような気がした。
だって、私もさとみも、赤瀬川くんにキュンとなった「キュン仲間」だから。
キュン仲間…う〜ん…キュン同盟はちょっと硬いか。
じゃあ、やっぱりキュン仲間…って、どっちでもいいんだけどさ。
対する「ジェントル御前」は、千切りキャベツの上に豚の生姜焼きと唐揚げ4個、それに別皿でトンカツ、そして豚汁、更に茶碗蒸しとお漬物がついて、大盛りの白いご飯はおかわり自由。
食べ終わると、やっぱりコーヒーか紅茶(温かいのか、冷たいのを選べる)と小さなケーキがついて、レディース御前と同じ値段。
このセットを注文した人は、200円払うとお刺身(3種類を3切れづつ)がつけられる。
そのお刺身は、その日の仕入れで替わる。
こちらもお得で、人気がある。
「何もあんなに動揺しなくてもいいのにね」
赤瀬川くん、丁度休みだからと、老人向けのデイサービスに勤めているお母さんに頼まれて、「コスプレ用」の材料を買いに来ただけで、決して自分用じゃないと、何度も強く言ってたけど…
別に、自分のだっていいのにって思った。
もしも赤瀬川くん自身の趣味がコスプレだとて、全然恥ずかしがることじゃないのに。
決して後ろめたいことじゃないんだからさ。
堂々と胸を張って、「コスプレにハマってま〜す!」って宣言したっていい!
私はむしろ「どういうのを作って着る」のか、興味あり。
なんだったら、衣装作りの手伝いをしてみたいって、あの時、言いたかったな。
赤瀬川くんのお母さんが勤めているデイサービスのお祭りで、職員の精鋭達が流行りの女性グループアイドルに扮して、歌って踊るそうだ。
赤瀬川くんのお母さん、折角精鋭の一人に選ばれたのだからと、家にいる時、仏間で歌とダンスの練習に励んでいるとのこと。
「なんか…ドスンドスンいいながら、必死こいて練習してます。」って言ってた。
赤瀬川くんのお母さん、素敵じゃない!
どんな衣装を作るのか、詳しく聞けばよかったと思った。
「赤瀬川くんかあ…でも、ダメダメ!」
「なんでダメだの?」
「…だって…彼に叱られちゃうもん!」
「え?彼って、あの、ヌーディストビーチの人?え?別れたって言ってなかった?」
「うん、別れたよ!」
「え?じゃあ…」
「ンフフフフ」
「さてはさとみ…」
「ピンポーン!新しい彼氏ができました〜!」
「え!嘘っ!いつ?いつできたの?」
「ムフフフ」
不適な笑みを浮かべたさとみは、静かな口調で話し始めた。
「出逢いは…」
マッチングアプリだそう。
「えええええええ〜〜〜〜〜!」
びっくり!
こんな身近にマッチングアプリを利用して、上手くマッチングした人と付き合うことになった人がいるなんて。
私はなんか警戒しちゃって、利用できずにいる。
それに、「出逢い」にドラマチックを求めちゃう気持ちも、まだ捨てられないから。
なので、「マッチングアプリ」がどういう仕組みで、どういう風にマッチングして、どういう風に実際会ってマッチングするのか、全くもってわからない。
でも、全然平気。
わからなくても、大丈夫。
「す、すごいね、さとみ」
「えへへへへ」
お腹いっぱいになったところで店を出てすぐ、さとみの様子がおかしい。
「…ん?さとみ、どした?」
「…あいつ…」
「へ?」
わなわなしているさとみが指差した方を見ると、楽しそうに腕を組んで歩いているカップル。
「あいつ…彼…」
「え!嘘っ!えっ!え〜っ!」
私が驚いて叫んでいる隙に、さとみがスマホで何やらやっている。
「へ?さ、さとみ、今、スマホなんていじってる場合じゃな…」
そこまで私が言いかけたのに被せて、「別れた!」とさとみ。
「え?」
「だから、たった今、あいつに別れる!バイバイ!」ってメールしたの。」
速いし早い。
鼻息荒く向きを変えたさとみは、いきなりスタスタと歩き出した。
「待って〜!待って、さとみ〜!」
フルーツパーラー前で、やっと追いついた。
さとみの腕を引っ張って、強引に入店。
「…さとみ…奢る…何でも好きなもの食べな!」
今の私には、気の利いた台詞なんて出てこない代わりに、こんなことぐらいしか出来ない。
「…ん…ありがと、ゆり…」
瞬きすると涙の玉がぽろんと溢れ落ちた。
きゅっと口を真一文字に結んで、両手のげんこつを両膝に乗せているさとみ。
短い期間でも、本気で好きだったんだね。
さとみなりに真剣に交際してたんだね。
今は「頑張れ」とか、「次はいい人と出逢えるよ」とか、軽くて陳腐な言葉はかけたくない。
ただ、何も言わずに一緒にいるだけ。
さとみと一緒に、ここの美味しいパフェを食べるだけ。
お腹いっぱいだけど、甘いものは別腹だ。
これが今の私にできる精一杯。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願いします。




