第13話
前回の続きです。新しく入ったバイトの赤瀬川くんが…
「そうそう!広瀬川さんとこのアパート、空きが出たってホント?」
早番の日の休憩中、目がギラついてる原さんがそう尋ねてきた。
「ああ、はい…なるちゃん達の部屋の下の方が、急だったんだけど、引越ししちゃって…」
「へえ、そうなんだあ、そうなんだあ、へ〜え、そうなんだねえ〜…」
「ん?何ですか?原さん…それがどうか…」
「いや…あのさ…部屋空いたってことはさ…」
一応とぼけて聞いてみたけれど、原さんの腹の中はわかっている。
空室に入りたい。
そういうことなのだろう。
あの部屋に住めば、隣の喫茶「純」に通うのが楽になる。
「純」のメニューに惚れ込んじゃってる原さんだもの、それが実現したならば、夢の様な生活を送れるって思惑が丸わかり。
いや…そうだろうけど…でも、毎日通うとなると、その、お金がかかっちゃうから…
ん〜…
するとそこに。
「お疲れ様で〜す…あれっ?あの、違ってたらごめんなさい…あの、あのですね…もしかして、もしかすると、お二人は…その…付き合ってる…とか…何です…か?」
ニコニコしたまま、新人の赤瀬川くん。
「へ?いや、違う!違う!そうじゃ、そうじゃな〜い
原さんと妙にハモってしまった。
だって、そうじゃないんだもの。
「だって、いっつも二人、仲良く喋ってるし、それに…たまに一緒に車で帰るの…見かけるから…もしかしてって…思ったんですが…」
いや、だとしても、違うから。
原さんは私を送るついでに、「純」に寄ってなんか食べて帰りたいだけだし、私は私で車だから「ラッキー」とばかりに、普段買いに行くのが大変な重たいものや嵩張るものを買って、乗せてもらえるからラッキーなだけで。
まあ、少しは「素敵!」ってときめくけども。
それ以上は、全然進展とかないし、進展させる気もないってのか、脈はないなって思うし。
でも、全然平気だし。
原さんの顔見るの好きだし、声も好きだから、それだけで十分お腹いっぱいって思うし。
そう心で叫ぶも、口には出さず。
ぎこちない笑顔で、「全然違うんだよ〜」と言うだけ。
原さんはと言うと…
あれ?顔が赤いけど…なんで?
別に私のことなんか好きでも嫌いでもなく、普通の「仕事仲間」としか見てないはずなんだけど…あれ?
私をただの喫茶「純」への誘導員ぐらいにしか、思ってないはずなんだけど。
…
なんで?
何で原さん、照れた様な、ハニかんだ様なもじもじ?
何?そのすごい顔汗。
一体どうしたの?
「あ…や…まあ、その、正式にさ、付き合ってるって訳じゃ、ない訳だけどもね…でも、その、なんだ…そういう風に勘違いしてもらっても…僕は全然構わないと言うか…あ…あの…まあ…広瀬川さんからしたら、迷惑な話かもしれないんだけどさ…はははははは。」
最後、笑い飛ばした。
え?え?そ…そう…なの?
え?
どういうこと?
それって、どういう感じ?
なんだろう…
急にそんなこと言われたら、私も急に意識しちゃうじゃないのよ〜!原さん!
「…ふ〜ん…そうなんだあ…そっかあ…別に、付き合ってる訳じゃないんだあ〜…ふ〜ん…ラッキー…ふふふ…」
へ?
赤瀬川くん、今、なんて言ったの?
最後「ラッキー」って小さく聞こえた様な…
だとして、どういうこと?
なんで「ラッキー」?
「お疲れ様で〜す!お先に失礼しま〜す!」
ニコニコしたまま、店内に戻る赤瀬川くんの後ろ姿を、目で追いかけてしまった。
あの日の休憩時間の何気ないやりとりを思い出しながら、さとみとの待ち合わせ場所でぼんやり。
「あ〜、ごめ〜ん!待ったでしょ〜?ごめんね〜!来る途中、どうしてもトイレ行きたくなっちゃってコンビニで…」
顔に汗をかきながら、必死に謝り、遅刻の理由を細かく説明してくるさとみ。
私、そんなの全然気にしてないのに。
さとみには、私の顔がよほど険しいものに見えている様だ。
「で、早速どこ行く?」
「あ〜…手芸屋さん」
「え?また?」
「あ、うん、ごめん、さとみ…なるちゃん達の保育園の教会のバザーに出すものをね、作ろうと思って…」
「あ〜、なるちゃんとこのバザー!そうなんだ〜!へ〜え…で、何作るの?」
「ん〜…色々と考えたんだけど…」
子供が持つのに丁度いい大きさの巾着を考えている。
ぬいぐるみの様な生地で裏地もちゃんとつけて、紐をキュッと締めると、巾着が可愛い動物の顔みたいになる作り。
「へ〜、可愛いねえ!あたしも欲しいなあ、それ。」
「いいよ〜!さとみの分も一緒に縫うよ!」
「やった〜!わ〜い!」
毎度の手芸店に立ち寄り、店内を見て回っていると、見覚えのある背の高い男性。
あれ?もしかして…
「赤瀬川くん!」
「あ〜、広瀬川さんじゃないですか〜?どうしたんですか?」
「そっちこそ、どうしたの?こんなところで…」
「…ああ、僕ですか…僕は、その…今度作るコスプレの材料…」
「コスプレ?」
一緒にいたさとみと、声があった。
「あ、あはっ…やだなあ、もう…あの、違うんです!あの、コスプレと言ってもですねえ…あの、違うんですよ!違うんですって!」
なんか必死な赤瀬川くん。
なんだろう?
こんな必死な赤瀬川くんが、妙に可愛く見えてしまった。
普段、職場では見たことない慌てふためき様。
やっぱり可愛い!
5歳も年下のそんな彼に、今、妙にキュンとしている自分。
え?マジで?嘘だ!嘘だよ〜!そんなの!
自分の「キュン」に、自分がつっこんでいる。
一旦、冷静になろうとさとみに視線を向けると、そこに同じく「キュン」としている人がいる。
あれ?さとみ?
もしかも何も、さとみの両目がハートになっている気がする。
なんなんだろう?この感覚。
一生懸命くどくど説明している慌てた赤瀬川くんを、このままいつまでも見ていたいと思った。
それと同時に、人ってこんなにちょろく「キュン」となっちゃうもんなんだと、改めて思い知った。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願いします。




