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第12話

前回のお話の続きです。アパートに突然現れた謎のサングラスの男とは…

「えっ!元マネージャー????」

「ええ、実は…」

サングラスのその人は、上川田さん。

この人も苗字が何か一つ多い系のようだ。

それはさておき、話を聞き進めると、この方、過去にとんでもないことをしでかしたらしい。

かれこれ数十年前の話になるが、「北山口たかしとクール&ドライ」の全盛期、旅巡業で全国各地を飛び回っていた頃、みんなのギャラ全額と事務所の金庫のお金を持ち逃げしたそうだ。

「…あ〜…そうそう…確か、そんな話もあったわねえ…週刊誌とワイドショーで、いっぱい取り上げられてたんじゃないかしらねえ…」と大家さんの奥さんの純子さん。

「でも、その後…確か…」

「ええ、そうなんです…海外に逃亡しようとして、空港で捕まって…」

えええええええ〜〜〜〜〜っ!

なるちゃんを除いた大人達一同が、一斉にどよめいた。

「そ、それで、その後、どうなったんですか?」

少し喰い気味に、質問してしまった。

「ええ、それから…」

裁判になり、刑務所に収監され、しっかりと刑期を終えた後、南米に飛び、コーヒー農園で働いてお金を貯め独立。

今度は自分の農園で大豆の栽培を始めたところ、日本を始めとするよその国からどんどんとお声がかかるようになり、需要が増えるのと比例して、徐々に土地を買い取って広げ、今では広大な農地いっぱいに大豆を育てているのだとか。

あの頃持ち逃げしたのと同じだけ、いやそれ以上のお金が出来たので、「いつか返そう、いつか必ずあの時の全員にお返ししよう。」と、ずっと心に秘めていた強い思いを、今、やっと実現させることが出来たんだと。

「いやあ、でも、昔のツテを頼ったり、探偵事務所に調査をお願いしたりしたんですけど…」

当時、迷惑をかけた全員には会えなかったそう。

あの事件後、「北山口たかしとクール&ドライ」のメンバーの突然の事故死や薬物で逮捕、メインボーカルの脱退など、様々な出来事が矢継ぎ早に襲いかかったんだと。

だもんで、残された僅かなメンバーでの活動は最早危機的状況となり、あれだけあった人気もガクンと急降下。

新しく仕事の依頼が来ることもなく、そうなると解散というのか、自然消滅と言うのか、そんな形でバラバラになってしまった模様。

当時の事務所の社長は、それでもめげずに数年前まで芸能事務所として、少ない所属歌手やタレント、俳優などと一生懸命活動していらしたけれど、一昨年、現役を退いてすぐのタイミングで、亡くなったそうだ。

残っているメンバーの一人には無事に会えて、お金を返せたと上川田さん。

わかっているご存命の最後の一人が、北山口さんなのだそうだ。

「…何としてでも、今日のうちにお会いしたかったんです…」

グッと堪えた涙が、勝手に上川田さんの顔をつたっていく。

明日の朝の便で、戻らなければならないそうだ。

「では、あの…」

そう言って、上川田さんは、大家さんに抱えていた大きな紙袋を手渡すと、ストローでジューッとアイスコーヒーを一気に飲み干し、喫茶「純」をあとにした。


そんなことがあった二日後、北山口さんの息子さんが突然訪れたそうだ。

どうやら北山口さん、病院から施設に移るとのこと。

「…いやね、一緒に暮らそうって、随分前から言ってたんですけどねえ…」

肩と足の怪我は治ったものの、一人で暮らすのは無理なのではと担当のお医者様に言われたのだそうだ。

なので、何度も何度も話し合って話し合って、「じゃあ、施設に入る」と北山口さん本人が決断したらしい。

「急な話で申し訳ないんですが…」

という訳で、北山口さん、お引越しとなった。

北山口さんの部屋の荷物がすっかり運び出された後、大家さんが上川田さんから預かっていた、お金がいっぱい詰まった紙袋を受け取った息子さん家族は、「ええええええ〜〜〜〜っ!!!」と、のけぞるほど驚いていたそうだ。

寂しいな。

せめてもう一度、会いたかったな。

喫茶「純」で、あのコーラス部分だけ、聴かせて欲しかったな。

北山口さんの部屋が空っぽになった日の夜、私となるちゃん親子、そして前田さんで喫茶「純」に集まった。

そして、大家さんがかけてくれたカラオケに合わせて、みんなで北山口さんの曲のコーラス部分だけを何曲も合唱した。

メインのところは歌わないカラオケ。

そんなカラオケが妙におかしくて、妙に切なく感じた。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので引き続き、どうぞよろしくお願い致します。

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