第10話
前回の続きで、なるちゃんのその後の様子です。どうぞ宜しくお願い致します。
なるちゃん、どうしてるかなあ。
あれから数日経つ。
何故かタイミングが合わず、なるちゃんに会えずにいる。
お隣だから気配は感じるのだが。
「あ〜…なるちゃん、大丈夫かなあ?」
「ん?どうしたの?広瀬川さん、なるちゃん、なんかあったの?」
すっかり喫茶店の常連客となった原さん。
当然、なるちゃんとも仲良くなった。
「あ〜、そうなんですよ〜…なるちゃん…。」
なるちゃんには申し訳ないけれど、原さんとは知り合いだものね、話してもいいよね。
そう思って話した。
「…ん〜…そうなんだあ〜…よくある話っちゃあ、話だけど…当事者はやっぱりしんどいよね…まだちびっこだし…。」
「…そうなんですよねえ…なるちゃんは正直全然悪くないとは思うんですけどね…それまで散々意地悪してきたけい君が圧倒的に悪いとは思うんです…でも…なんと言うか…手は…やっぱり出すべきじゃ…なんて思ったりして…」
「…ん〜…」
「なるちゃんも、そこが1番引っかかってると言うか、あ〜、手え出しちゃったあって言う後悔ってのか、それがなんか、強い罪悪感になってるみたいで…ん〜…でも、まあ、その場面だったら、先に手を出したとて、正当な気もするんですよね…」
「…ん〜…」
腕組みをして一緒に悩んでくれている原さんが、急に何か思い出したらしい。
「あ!そうそう、そういえば、今日、なるちゃんとこの保育園のみんなが後で来るはずだよ。」
「え?」
「あ〜、ほらほら、言ってる傍から来たみたい。」
原さんが指差す方向に、お揃いの黄色い帽子を被ったちびっこ達がぞろぞろと店内に入って来た。
男女ペアになって、しっかりと手を繋いでいる。
なるちゃん、なるちゃん、なるちゃんは。
園児達の顔を確認していくと、見覚えのある可愛いお顔が見えた。
「なるちゃん!」
嬉しくて思わず声をかけてしまった。
その場にいる全員の視線が一瞬のうちに、私に集中。
「…あ…ごめんなさい…」
大人気なく声が出てしまった私は、両手で顔を覆った。
程なく何事もなかったかの様に、引率の先生に促された代表の園児2人から、我がスーパーの店長さんにポスターが手渡された。
「よろしくおねがいします!」
園児達全員が大きな声で元気よくお願いすると、「はい!わかりました!」と同じ調子で店長が返した。
なるちゃん達の今日のお散歩は、来月行われる教会のバザーの案内のポスターをあちこちに配ることのようだ。
なるちゃんが通う保育園は教会が運営している。
そこでは半年に一度ぐらいのペースで、バザーが行われている。
私も何度か行ったけれど、教会に通う方々の手作りの可愛い雑貨や、手作りのクッキーにパウンドケーキなどの美味しい焼き菓子類に、園児達の保護者による焼き鳥やレモネード、おにぎりに焼きそばなどがずらりと並び、地元の熟年バンドの皆さんによる楽しい音楽や子供達のダンスに加え、マジックショーや大道芸人さんによるパフォーマンスなど、いつ行っても賑やかでわくわくする楽しい催しだ。
次のお店にポスターを届ける帰り際、可愛い男の子と手を繋いだなるちゃんが、こちらを見て笑顔で反対側の手を振ってくれた。
「バイバ〜イ!」
私も原さんも少しホッとして、手を振り返して見送った。
なるちゃんの笑顔が見られて、本当に嬉しかった。
ところで、手を繋いでたあの男の子。
星矢君だろうか?
それともケント君だろうか?
今度なるちゃんに聞いてみようと思っていたら、案外早く聞けることになった。
また帰りが一緒だった原さんと大家さんの喫茶店に入ると、そこになるちゃんとママさん、それに前田さんの姿も。
三人共、ここの名物のオムライスを食べている最中。
そうなのだ。
ここの喫茶店はオムライスの名店でもある。
美味しさは当然のことながら、そのボリュームと付け合わせのミニサラダ、それにカップに入ったコンソメスープ付きで税込500円。
ワンコインでこれが頂けちゃうもんだから、土日祝日に限らず、平日もランチの時は大賑わい。
…そう、ランチではね。
他の時間帯は800円だ。
それでも十分安いと思うけれど…今は夜だから、500円では食べられない。
う〜、残念!
だけど、なるちゃんの様なちびっこは、量を少なめにした350円。
それはランチに限らず、どの時間帯でもそう。
小学生以下のちびっこはみんな350円で、普通のオムライスセットにプラスして、小さなデザートが付いてくる。
今日は…プリンのようだ。
それはさておき…
「あ〜、なるちゃ〜ん!」
駆け寄って抱きしめると、なるちゃんも私をギュッと抱きしめ返してくれた。
「昼間会ったね!」
「うん!」
原さんと私、それに前田さんも、何となくなるちゃん達の傍に陣取った。
みんなに合わせたオムライスセットを食べながら、なるちゃんに「その後」を尋ねた。
どうやらけい君による意地悪は、すっかり治った様子。
それと言うのも、新たな刺客と言おうか、新しく途中編入してきた男の子が、それまでのけい君の様な乱暴者で、やはりけい君と同じ様に、いやそれ以上強い形でなるちゃんに意地悪を仕掛けてきたそうだ。
けい君は意地悪こそすれど、手は出さない主義なのに対し、新しく来た子は平気でなるちゃんの腕をつねったり、髪の毛をひっぱたりするそうで。
先生達もけい君とのこともあって、なるべく警戒はしていたけれど、他の子も見なければならないので、なかなか「そうなる前に」引き離したりすることができないそう。
そんな中、その子がなるちゃんを強く押し倒して転ばせたとのこと。
耐えきれずに泣き出すなるちゃんを、けい君が守ってくれる様になったとか。
「大丈夫?」と声をかけ、その子に「なるちゃんに意地悪すんな!」って、どの口が言ってるんだか。
まあ、とにかく、急に紳士的になったそうだ。
それからと言うもの、その子がなるちゃんに近づけない様、けい君は必死に両手を広げて阻止したり、まあ、色々頑張っているらしい。
「これ、くれたの。」
なるちゃんが見せてくれたのは、水色で平べったい丸のシーグラス。
けい君からもらったと。
「お休みの日に海で拾ったんだって。」
嬉しそうななるちゃん。
でも、けい君のことは好きじゃないときっぱり。
そらそうだよね。
今までいっぱいなるちゃんに意地悪してきたんだものね。
昼間、お散歩の時、手を繋いでいたのは、星矢君だって。
空いている席に置いてあるなるちゃんのリュックが、ふと目に入った。
リュックには、ママが作ってくれたあのうさちゃんがぶら下がっている。
紐がちぎれて、踏んづけられた靴跡がついちゃって汚れたと泣いていたけれど、もうすっかり綺麗になっていた。
ママのミズエさんが丁寧に洗って、干して、ちぎれた紐の代わりに可愛い細いリボンを紐代わりに縫い付けた模様。
よかった。
あの時、「私が新しいのを作ってあげるよ!」なんて、言わなくて正解だった。
だって、やっぱりなるちゃんのママが作ったうさちゃんだものね、なるちゃんのママに直してもらうのがいいよね。
心からそう思った。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




