うらみしま太郎
昔あるところに、太郎という漁師が住んでいました。
太郎は、釣りの名手でいつも沢山の魚を釣って、わりと裕福に暮らしていました。
ある日、漁に出ようと海辺に行くと、子供達が大きなウミガメを虐めていました。
「これこれ、可哀想なことをするんじゃないよ。」
「僕らが捕まえたカメだからいいじゃないか!」
「じゃあ、おじさんに売ってくれるか?」
「その釣竿と交換ならいいよ。」
大切な商売道具だから迷ったが、新しく買えばいいかと、交換に応じた。
「もう捕まるんじゃないぞ、さあ、海に帰りなさい。」
そう言ってひっくり返ったカメを戻すと、
「ありがとうございます、あなたは命の恩人です。御礼に竜宮城にご招待致します。」
太郎は喋るカメに驚いたが、今日は竿も無いので、カメの誘いに乗ることにした。
カメの甲羅に乗ると、グングンと海に潜って行き、海底の大きな美しいお城に到着した。
「カメを助けて頂きありがとうございます、ごゆるりと、お寛ぎ下さい。」
乙姫様が、笑顔で迎えた。
タイやヒラメの舞いを見ながら、香ばしく焼かれたステーキで、美味しい酒を楽しんだ。
「このお肉、美味しいですね、何の肉ですか?」
「こちらがアマのモモ肉で、こちらがカイゾクのスネ肉です。」
太郎は、アマという生き物も、カイゾクという生き物も知らなかったので、
「ま、旨いから良いか。」
気にせず食べ続けた。
次の料理が運ばれ、
「リョウシの耳のお吸い物でございます。」
また知らない生き物の名前が出てきた。
太郎が、お椀の蓋を開けると中には人間の耳!
「ん?もしや海女、海賊、漁師?」
慌てて逃げ出した。
「お前のせいで大勢の仲間が拐われた!生きて帰れると思うなよ!」
龍になった乙姫に足を食い千切られたが、何とか海面まで逃げ、どこか解らない小島に漂着した。
太郎はそこから帰ることは出来ず、ただ海を眺めて、
「せめて、竿さえ有れば、魚を釣って食べられるのになぁ。」
そう呟くと、
「おじさん、竿が欲しいの?返してあげようか?」
カメを虐めていた子供達が現れた。
「おう、頼む、旨い魚を食わせてやるぞ!」
「へへっ!返すわけ無いじゃん!」
子供達は竿を何度も何度も折って、海にばらまいた。
「じゃあね、おじさん!」
子供達は、魚になって海に消えて行ったとさ。